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前人未到の領域を歩み続けるメッシ~86得点とバロン・ドール~

2013.01.16

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ワールドサッカーキング 0207号 掲載]
文=アルベルト・ヒメネス 通訳=工藤拓 写真=アフロ

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 ワールドサッカーキング最新号では、リオネル・メッシの活躍や出来事をリポートする連載「レオ・メッシの世界」を掲載。2012年はメッシにとって、記録づくめの1年となった。ゲルト・ミュラーの年間最多得点記録を更新する86ゴールを挙げ、史上初となる4年連続でのバロン・ドールを受賞。毎シーズン、進化の証を示すスーパークラックは更なる高みを目指して日々努力を続けている。58回目となる今回は、リーガ・エスパニョーラ第14節のアスレティック・ビルバオ戦を始め、チャンピオンズリーグやコパ・デル・レイでの活躍、そして記念すべきバロン・ドール受賞をリポートする。

 

 

 文句なしの結果を出し続ける一方、内容的には苦戦を強いられる試合が多かった今シーズンのバルセロナだが、昨年の11月末頃からは好調時に見られた圧倒的なゲームコントロールと爆発的な得点力が戻ってきた。そんな中、チームは2つの予期せぬアクシデントに見舞われる。1つは、もはや時間の問題と見られていた「ミュラー超え」まで間近に迫ったリオネル・メッシの負傷退場。そしてもう1つは、ティト・ビラノバ監督の病気の再発である。

 

リーガ・エスパニョーラ 第14節 vsアスレティック・ビルバオ

 リーガ・エスパニョーラ新記録となる第14節での13勝目が懸かったこの一戦で、バルサはアスレティック・ビルバオを相手に今シーズン最高と言える内容で大勝を挙げた。

 

 正確かつスピーディーなバルサのパス回しにビルバオのマンツーマンディフェンスが耐えられたのは20分ほどだった。22分にCKのこぼれ球をジェラール・ピケが押し込み先制すると、その3分後には最終ライン中央にぽっかりと空いたスペースに走り込んだメッシがチャビのスルーパスを受け、GKをかわして無人のゴールにシュート。これは最終的にクリアを試みたフェルナンド・アモレビエタがゴールに蹴り込む形となったものの、マテウ・ラオス主審の計らいによりメッシの今シーズン20点目と認められた。

 

 更に前半ロスタイムに今シーズン絶好調のアドリアーノが3点目を決めると、57分にはセルヒオ・ブスケのインターセプトからアンドレス・イニエスタを経由し、最後はセスク・ファブレガスが決めて4点目。そして70分、ゴールラッシュを締めくくったのはメッシの鮮やかな一発だった。DFの足に引っ掛かったペドロ・ロドリゲスのパスを足元に受けると、飛び込んだDFをキックフェイントで軽やかにかわして右足でゴール右上に流し込む。これが、1972年にゲルト・ミュラーが樹立した世界記録の年間85ゴールまであと1点と迫る、2012年の84発目となった。

 

 リーガ記録を更新する勝利を手にした上、直後に行われたマドリッド・ダービーでレアル・マドリーが勝った結果、次節に直接対決を迎える2位アトレティコ・マドリーとの差は勝ち点6に広がった。良いこと尽くしの一戦を終えたビラノバ監督は「記録についてはとても満足している。だがそれ以上に選手たちが相手以上に走ったこと、5-1とリードした後もゴールを奪うべくプレスを掛け続けたことを誇らしく思う」と、選手たちの飽くなきゴールへの意欲を強調していた。

 

チャンピオンズリーグ GL第6節 vsベンフィカ

 既にグループリーグのトップ通過を決め、完全な消化試合となっていたこの一戦の注目点は、ラファエル・アルカンタラやセルジ・ロベルト、カルレス・プラナスといった若きカンテラーノたちのプレー、そしてあと1ゴールと迫ったメッシの「ミュラー超え」の達成にあった。ゆえに66分、メッシが途中出場した際には歴史的瞬間を心待ちにしていたカンプ・ノウのスタンドがこの日一番の盛り上がりを見せるのだが、期待に満ちた彼らの表情は思わぬアクシデントによって凍りつくことになる。

 

 85分、ピケの浮き球スルーパスを受けたメッシが最終ラインの裏へ抜け出し、飛び出したGKを縦にかわす。その際、軽くGKと接触したメッシは左足でシュートを狙った後、急に顔をしかめて倒れ込んだ。ピッチへ横たわったまま、なかなか置き上がらないメッシの元へチームドクターが駆けつける。ほどなく担架に乗せられピッチを後にしたメッシに、カンプ・ノウのスタンドからは大きな「メーッシ!」コールが送られた。

 

 幸いにも試合後の検査結果は「左ひざ外側骨の打撲」で、9日のベティス戦に出場できる可能性もある軽傷だと分かった。試合後、メッシは自身のフェイスブックを通して「心配し、応援のメッセージを送ってくれたみんなに感謝したい」とメッセージを送るとともに、診断結果を報告。翌日には「痛みがひどかったので最悪の事態を想像していた。しばらくピッチには戻れないんじゃないかって。あの時シュートを打ったのは、これを最後にしばらくボールを蹴れなくなると思ったからなんだ」と負傷時の心境を語り、安堵の表情を浮かべていた。

 

 ジョゼップ・グアルディオラ前監督が就任した08年以降、食生活の改善などに取り組んだメッシはそれまで悩まされていた筋肉系のケガから解放され、毎シーズン50試合以上の公式戦に先発フル出場するタフな選手へと成長した。それだけに、今回のアクシデントは「メッシもケガをする」という当たり前のことを我々に改めて思い出させたのだった。

 

リーガ・エスパニョーラ 第15節 vsベティス

 ベンフィカ戦のアクシデントから4日後に迎えたこの試合で、ひざの打撲が完治したメッシはいつもどおり先発フル出場を果たし、待望の「ミュラー超え」を実現してみせた。

 

 16分、ドリブルでゴール前左に切れ込み左足を鋭く一振り。ゴール右隅に突き刺したこの先制点でミュラーの年間85得点に並ぶと、25分にはゴール前左で受けたイニエスタのヒールパスを再び左足で蹴り込む。開始から30分も経たないうちに、40年間保たれてきた大記録は過去のものとなった。

 

 開始早々にファブレガスが負傷退場。29分に1点を返された後は劣勢の展開が続き、後半には数本のポスト直撃シュートを許した。チームが大苦戦を強いられる中、ゲーム序盤に得た2つのチャンスを2つとも決めチームに勝ち点3をもたらしたメッシは、笑顔でこう語った。「この記録には素晴らしい意味がある。でも最も重要なのは試合に勝ち、ライバルとの勝ち点差を保つことだ。シーズンが開幕した時、僕の目標はチームとしてリーガ、コパ、CLで勝つことだったから」。そんなメッシに対し、ビラノバ監督は最大の賛辞を送った。「1年でこれだけの得点を決めることなど不可能だと思っていたが、実際はまだ3試合も残っている。もっと記録を伸ばしてもらいたい。彼はまだ若い。この先何年も素晴らしいキャリアが続くことを願っている。再び彼のような選手を見ることは恐らくないだろう。記録については何年か後に誰かが更新するだろうが、我々は今この時を堪能しよう」

 

コパ・デル・レイ 5回戦ファースト・レグvsコルドバ

 はたしてメッシは残る3試合でその記録をどこまで伸ばすことができるのか。1972年に年間107ゴールを記録したというザンビア人FWのゴドフレイ・チタルの名が新たに登場したこともあり、「ミュラー超え」を実現した直後のコルドバ戦でもメッシのゴールに対する周囲の期待感は薄れることがなかった。だがたとえチタルの登場がなかったとしても、変わらずメッシはゴールを決め続けていたことだろう。彼にとって存在し得るすべての記録は最終目標ではなく、1つの通過点でしかないからだ。

 

 3日前のベティス戦と同じく、この日もバルサは相手のアグレッシブなハイプレスに大苦戦を強いられた。だが11分、メッシがゴール前でダビド・ビージャのラストパスを押し込みあっさり先制。64分にはアレクシス・サンチェスがDFライン裏へ通したスルーパスを再びメッシが左足で合わせ、ゴール右隅に流し込んだ。これでコパ・デル・レイのベスト8進出はほぼ確実。少ないチャンスを確実にものにしたメッシの決定力により、アウェーで2-0という理想的なスコアを手にしたビラノバ監督は「メッシは先週のアクシデントを乗り越え、再び走り、ゴールできることに喜びを感じているようだ。今日もゲーム終盤までよくプレスを掛けていた」と、記録更新後も衰えることを知らないメッシのゴールへの意欲に感心していた。

 

リーガ・エスパニョーラ 第16節 vsアトレティコ・マドリー

 年内最後の大一番となった、2位アトレティコとの首位決戦。直前の試合で3位マドリーがエスパニョールと引き分けたこともあり、バルサにとって独走態勢を固めるまたとないチャンスとなったこの一戦は、得点王争いで首位を独走するメッシと2位ラダメル・ファルカオとの南米ストライカー対決としても注目を集めた。

 

 先手を打ったのは前週のデポルティーボ戦で5得点を固め取りした絶好調のファルカオだった。31分、ハーフウェーライン付近でジエゴ・コスタのパスを受けると、驚異的なスピードでブスケを置き去りにし、ペナルティーエリア内までドリブルで独走。最後は左足のチップキックでビクトル・バルデスとの一対一を制し、しばしの間カンプ・ノウを沈黙させた。

 

 その前にもファルカオが2本の決定的シュートを放っていたアトレティコに対し、ここまでバルサはノーチャンス。ディエゴ・シメオネ監督が徹底する堅守速攻策に対して手も足も出ない展開はしかし、わずか5分後に一転することになる。

 

 36分、右サイドのアドリアーノがペナルティーエリアの外側から放った豪快なシュートがゴール左上隅のクロスバーの下側をたたいてゴールネットを揺らす。ノーチャンスのまま生まれたスーパーゴールは赤と黄色のカタルーニャカラーで染まったカンプ・ノウのスタンドを生き返らせるとともに、それまで完璧な守備ブロックを保っていたアトレティコの選手を大いに動揺させる効果があった。そしてバルサはその隙を見逃さない。45分、CKからの競り合いでゴール前にこぼれたボールをブスケが蹴り込み、ハーフタイムを待たずにスコアをひっくり返した。一度リードを得た後はバルサの独壇場だ。執拗にボールを動かし続けてライバルからボール奪取の意欲を奪いつつ、57分にはメッシが鋭いカットインからゴール左隅にダメ押しの3点目を流し込む。更に88分、ゴール前でディエゴ・ゴディンからボールを奪ったメッシは、飛び出したGKの眼前でふわりとボールを浮かせるチップキックでもう1点。6節連続、今シーズン10度目のドブレッテ(2得点)により、ファルカオとのエース対決にもしっかり白黒をつけた。

 

 これでメッシの年間得点は90ゴールの大台に乗り、バルサはアトレティコに勝ち点9ポイント、マドリーに13ポイントの差をつけた。同日の会見で「リーグ優勝はほぼ不可能」と白旗を掲げたマドリーのジョゼ・モウリーニョ監督に続き、この日敗れたシメオネ監督も「選手はよく戦ったが、他とは別次元のリーグで戦うチームに敗れた。このリーグは退屈だ」とさじを投げるしかなかった。

 

リーガ・エスパニョーラ 第17節vsバジャドリー

 クリスマス休暇を目前に控えた12月19日、メッシとバルサに衝撃が走った。ビラノバ監督が前年の11月に患った腫瘍を再発させ、緊急手術を受けることになったのだ。奇しくも同日には4月に肝臓の移植手術を受けたエリック・アビダルが医師の許可を得て全体練習に復帰を果たし、前日にはクラブがメッシ、チャビ、カルラス・プジョルとの契約更新を発表。中でもメッシは31歳となる2018年まで契約期間を延ばすとともに、年俸額をそれまでの1000万ユーロ(約11億円)から、アンジのサミュエル・エトオに次ぐ世界2位の1600万ユーロへ(約17億6000万円)と大幅アップするクリスマスプレゼントを得たばかりだった。それだけに、順風満帆のシーズンを送るチームを再び襲った病魔のショックは大きかった。

 

 翌20日に行われた手術は無事成功。だがその後も6週間は放射線治療などを続けていく予定で、現場復帰のタイミングは回復状況を見ながら調整していくと発表された。その2日後、敵地で迎えたバジャドリーとの一戦では、選手たちが「ANIM TITO(頑張れティト)」と指揮官へのメッセージがつづられたTシャツを着てピッチに入場した。

 

 この試合では43分にジョルディ・アルバのクロスをチャビが押し込み先制すると、61分にはメッシがDFの股下を抜くドリブル突破から追加点を決め、自身の年間最多得点記録を91ゴールに伸ばした。終了直前には途中出場のクリスティアン・テージョがファーストプレーでダメ押しの3点目を決め、試合は3-1で終了した。「事前にティトとゲームプランは話し合っていた」というジョルディ・ロウラ第2監督の指揮の下、チームは指揮官の不在を感じさせない素晴らしいフットボールを展開し、年内最後の一戦を有終の美で飾った。

 

 同日マドリーがマラガに敗れたことで、両者の勝ち点差は16ポイントに広がった。とはいえ、この日の彼らにとって最も重要だったのは、「ティトに勝利を捧げるべく、最後まで努力する必要があった」とチャビが言ったとおり、病床の指揮官に勝利を捧げることだった。試合後の会見でロウラ第2監督は、チームが試合前のロッカールームでビラノバ退院の知らせに沸いていたことを明かし、次のように語った。「今日は特別な一戦だった。この数日は難しい時を過ごした。ティトは選手にもスタッフにも愛されている人間だからね。だが時間の経過とともに、当初の診断より軽症であることが分かってきた。我々が彼に提供できる最高のサポートは試合に勝つことであり、その点で選手たちは最高のリアクションを見せてくれた」

 

リーガ・エスパニョーラ 第18節 vsエスパニョール

 スペインのエイプリルフールに当たる12月28日、サンドロ・ロセイ会長はビラノバの状況について「ティトは15日から20日以内に戻ってくる。だが初めのうちは病院に通い、休みながらね。仕事と治療を並行していく予定だ。重要なのは彼の体であり、今はフットボールは二の次だ」とコメントしたが、この言葉は良い意味で裏切られることになった。術後13日目の1月2日、年明け最初の練習に早くもビラノバ監督が戻ってきたからだ。

 

 その6日後、カンプ・ノウに地元のライバル、エスパニョールを迎えたバルセロナ・ダービーで、バルサの選手たちは指揮官のベンチ入り復帰を祝うかのように、ほぼパーフェクトに近い内容のゲームを見せた。10分にイニエスタのクロスをチャビが合わせて先制すると、15分にはメッシのシュートをひざで押し込んだペドロの今シーズン初ゴールで追加点。27分にはブスケのスルーパスを受けたペドロが芸術的ループシュートで3点目。最後は29分、ファブレガスが得たPKをメッシが冷静に沈め、今シーズンのゴール数を27に伸ばした。

 

 試合後の会見でビラノバ監督は、術後初めて公の場で口を開いた。

 

「病院のドクターや看護師たちに感謝したい。常に支えてくれたクラブ、スタッフや選手にもね。今日の勝利は素晴らしいプレゼントになったよ」。開口一番、周囲のサポートに対する感謝の気持ちを述べた指揮官は、「まだこの戦いは終わっていない。私には長い道のりが待っている。今後も練習や試合に行けないことがあるだろうが、どうか私が不在になる度にその理由を追求するのはやめてほしい」と、今後も闘病生活が続くことを明かした。

 

 また授賞式を翌日に控えたFIFAバロン・ドールの最有力候補と見られているメッシについては「メッシが受賞するかどうかは分からない。我々は昨年の1月からバロン・ドールについて話し続けてきた。だから受賞者が明日に決まるのはありがたいことだ」と少々辟易した対応を見せながらも、「選考基準を変える必要はないと思う。メッシのパフォーマンスが落ちる時が来れば別の選手が受賞するさ。もちろんバルサ以外のチームでプレーしたとしてもメッシは受賞できるはずだよ」と、メッシの史上初となる4年連続の受賞に対する確信をのぞかせていた。

 

 

 エスパニョール戦の翌日。メッシはチューリッヒで行われた授賞式にて、史上初となる4年連続4度目のFIFAバロン・ドールを受賞した。「ミュラー超え」に続き、また一つ前人未到の記録を打ち立てたスーパークラックはしかし、4年連続で立った授賞式の壇上では相変わらず緊張した様子で「この賞をもう一度、しかも4年連続で受賞できるなんて信じられない。感動しています」とたどたどしいスピーチを行った。

 

 選手として年々進化し続ける一方で、ピッチの外のメッシは10代の頃と変わらぬ素朴な青年のままだ。だが、そんな彼も一つだけ昨年までとは違うところを見せた。スピーチの最後に発した一言である。 「家族、友人、そして最後に何よりも、人生で最高に素敵なものを与えてくれた妻と息子に感謝したい」

 

 22歳の初受賞から3年、25歳を迎えた昨年は11月に第一子を授かった。ピッチ上ほどのスピードではないが、臆病で極度の人見知りだった少年も徐々に大人になっているのだ。

 

 授賞式の後、メッシは「去年も他のみんなとは違うジャケットを着たから、今年もそうしてみた」と、話題になった水玉模様のジャケットについて話していた。はたして来年はどんな服装で壇上へ上がるのか。せっかちなファンやメディアは、早くも5年連続となる壇上のメッシについて、あれこれと話し始めている。

 

1月17日発売の【ワールドサッカーキング 0207 】では、メッシがけん引するバルセロナを始め、ヨーロッパ主要34クラブの後半戦の理想布陣を大特集! 更に4年連続バロン・ドール受賞という歴史的記録を達成したメッシのインタビューも収録しています!

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