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ネドヴェド氏が明かすバロン・ドール受賞秘話「“残念賞”のようにも思えた」

2013.01.17

ワールドサッカーキング 0207号 掲載]

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インタビュー・文=グイド・ヴァチャーゴ
翻訳・構成=高山 港

 

 ワールドサッカーキング最新号では、過去にバロン・ドールを受賞したレジェンド、ネドヴェドに当時の思いを聞いている。常勝を誇ったユヴェントスの中心的存在として、輝かしいキャリアを築いたネドヴェド。ユヴェントスの役員会に身を置く今、かつての“英雄”はどんな思いでサッカー界に関わっているのだろうか。

 

 ヴィノーヴォ(ユヴェントスのトレーニングセンター)のインタビュールームに、パヴェル・ネドヴェドの落ち着いた声が響く。窓の外には雪が積もり、人々は分厚いコートに身をくるんでいる。トリノの冬は厳しい。

 

 

 2009年の現役引退から3年半。ユヴェントス役員会の一員となった今の彼は、やや早口なイタリア語を話す知的なビジネスマンのようにも見えた。エレガントなスーツに身を包み、ユーモアを交えながらよどみなくインタビューに答えていく。その姿からは、闘志溢れるサッカー選手だった過去はとても想像できない。

 

 だが、そんな印象を受けたのもわずかな間のことだった。バロン・ドールの選考について、自身のキャリアについて、現在の仕事について……。我々が用意した多くの質問に、ネドヴェドは嫌な顔一つせず、熱い思いを語ってくれた。気づけば、取材終了の時間はとっくに過ぎている。

 

 ピッチに立つことはなくとも、サッカーに対する情熱は全く変わらない。それこそが、彼をユヴェントスの“レジェンド”たらしめたエネルギーの源なのだ。

 

メッシは実際とてつもない選手だ

 

現役生活を終えてから、もう3年以上が経ちます。まずは、今の仕事について話してくれますか? 例えば、「典型的な1日」はどんなスケジュールでしょう?

 

ネドヴェド(以下N)―「典型的な1日」なんて僕には存在しないよ(笑)。僕は今、ユーヴェの運営アドバイザーという立場で仕事をしている。経営陣とチームの間に立って、両方の仕事を円滑にするのが僕の役割だ。クラブオフィスでの仕事もあるし、今日のようにヴィノーヴォで練習を見ることもある。(アントニオ)コンテ監督と意見交換してチーム状態を把握するのも大事な仕事なんだ。それから、SDの(ファビオ)パラティチのアシスタントとして補強にも関わっている。

 

補強? あなたが選手をスカウトするんですか?

 

N―僕が直接交渉するわけじゃないけどね。ただ、新しい選手を獲得するための視察ということなら、それこそヨーロッパ中を飛び回っている。(アンドレア)アニェッリ会長、GMの(ジュゼッペ)マロッタ、パラティチ、コンテ監督が集まる補強会議にも出席する。忙しいけど、新鮮な気持ちで毎日を過ごしているよ。

なるほど。ただ、今日はまず「ユヴェントスの運営アドバイザー」ではなく、「バロン・ドール受賞者」として話を聞きたいと思います。2012年度のバロン・ドールはリオネル・メッシの手に渡りましたが、感想は?

 

N―妥当じゃないかな。結局はメッシとクリスチアーノ・ロナウドの勝負になると思っていた。彼ら2人は現在のサッカー界のベストプレーヤーだよ。メッシには心から「おめでとう」と言いたい。

 

メッシはこれで4年連続の受賞です。ズラタン・イブラヒモヴィッチは「メッシばかり何度も受賞するのはフェアじゃない」と言っていましたが……。

 

N―彼らしいセリフだね(笑)。だけど、メッシが実際、とてつもない選手だということも事実だよ。僕は何年もメッシのプレーを見ているけど、彼は毎年バージョンアップしているように感じる。

 

では、あなたがバロン・ドールの投票権を持っていたら、メッシに1票を投じますか?

 

N―難しい質問だね……僕ならメッシではなく、(アンドレア)ピルロに入れるだろう。

 

やはりメッシより、ユヴェントスの選手に受賞してほしい?

 

N―いや、メッシと比べてどうこう、という話じゃない。単純に、ピルロほどの名選手が一度もバロン・ドールを受賞していないなんて、間違ったことのように感じるだけだ。昨シーズン、彼はユーヴェのスクデットに大きく貢献した。ユーロ2012ではイタリア代表を決勝に導いた。今回はせめてファイナリストの3人に選ばれてもいいと思ったんだけど……。

 

ピルロと同様、ラウール・ゴンサレスやティエリ・アンリもバロン・ドールには縁がありません。

 

N―バロン・ドールに選ばれるには、しかるべき時期に、しかるべきクラブでプレーしていることが重要だということだろう。メッシだって、仮に違うクラブでプレーしていたらこれほど評価されていないかもしれない。

 

バルセロナというチームへの評価が、メッシ個人への評価を更に高めていると?

 

N―そう。バルサのスタイルは世界的に注目を集めている。

 

バルセロナが「理想のサッカー」を具現化していると思いますか?

 

N―「理想のサッカー」なんてものはない。サッカーではすべてが「勝利」のために存在するんだ。

 

スペクタクルを追い求める必要はないということですか?

 

N―いや、スペクタクルは大歓迎さ。ただ、サッカーはフィギュアスケートのように「芸術点」を争うスポーツじゃない。バルサが称賛されているのは、彼らがスペクタクルを勝つための方法として利用し、実際に勝利という結果を残しているからだ。そこを間違えてはいけないよ。

僕は『普通の選手』だったと思っている

 

あなた自身も、2003年にバロン・ドールを受賞しています。当時を振り返ってどう感じますか?

 

N―正直に言おうか。あの時、最初に抱いたのは喜びよりも怒りに近い感情だった。

 

怒り……ですか?

 

N―忘れたのかい? あの年、ユーヴェはチャンピオンズリーグ決勝でミランに負けたんだよ。しかも、僕自身は準決勝のレアル・マドリー戦でイエローカードをもらい、肝心の決勝戦でプレーできなかった。そう考えると、バロン・ドールがまるで「残念賞」のように思えてきてね……。今でもバロン・ドールのことを思い出すたびに、誇らしい気持ちと同時に、あの時の悔しさがよみがえるんだ。

 

あの決勝戦で「ネドヴェドがプレーしていれば……」と思ったファンは多かったはずです。

 

N―ただ、今から振り返ると、あのイエローカードこそが僕のサッカー人生の象徴のようにも思える。僕は一度ピッチに立てば、常に全力を尽くしてプレーしてきた。「決勝戦のためにここは無理をしないでおこう」なんて計算が全くできない男なんだよ。バロン・ドールという最高の栄誉と、僕のキャリアで最も悔しい記憶が分かち難く結びついているんだから皮肉なものさ。

 

とはいえ、誰でもあの金色のトロフィーを掲げられるわけではありません。

 

N―もちろん、バロン・ドールを獲得できたのは素晴らしいことだ。パリで行われた授賞式は僕にとっても特別なものだった。家族全員の前でトロフィーを掲げた瞬間は今でも忘れられない。

 

では、授賞式で語った言葉も覚えていますか? 「明日はいつもどおり練習します。僕はスーパーな選手ではないから」と。

 

N― 心からの本音だよ(笑)。僕は今まで、一度だって自分をジネディーヌ・ジダンやルイス・フィーゴと同列に置いたことはない。だって、僕は実際に彼らと対戦して、そのすごさを身をもって知っているんだから。史上最高の選手は誰かと聞かれれば、僕は迷わずジダンと答える。

 

バロン・ドールを受賞したことで、何か変化はありましたか?

 

N―僕自身について言えば、ほとんどなかった。むしろ変わらないように意識していた。「ネドヴェドはバロン・ドールに満足してパフォーマンスが落ちた」なんて思われたくなかったしね(笑)。謙遜でも何でもなく、僕は本当に「普通の選手」だったと思っている。チームメートや監督に恵まれたおかげで、僕のように普通の選手でも成功を収めることができたんだ。そう考えると、僕の心に浮かぶのは感謝しかない。

コンテの成功には何一つ驚きを感じない

 

では、ここからは「ユヴェントスの運営アドバイザー」としてお聞きします。ユヴェントスは昨シーズン、長い低迷を乗り越えてセリエAを制しました。チームが復活した最大の要因は何だと思いますか?

 

N―それはやっぱり、2010年にアニェッリが会長に就任したことだろう。彼はクラブの体制を一新し、チームのメンタリティーを完全に変えた。更に、監督としてコンテを招いたのも正しい判断だった。昨シーズンのリーグ制覇について言えば、僕は間違いなくコンテの功績だと考えている。

 

コンテ監督は現役時代、あなたと一緒にユヴェントスでプレーしたチームメートです。彼が優勝監督になったというのは、あなたにとっても感慨深いのではないですか?

 

N― もちろん。ただ、驚きはあまりないんだ。コンテは現役時代から監督みたいだったからね。

 

チームメートにあれこれ指図や命令をしていたとか(笑)?

 

N― いや(笑)。例えばシステムや戦術について、選手の間に疑問が生じたとするだろう? そんな時、当時の監督の(マルチェッロ)リッピに意見をぶつけ、問題を解決していたのがコンテだった。彼の向上心、学ぶ姿勢は信じられないくらいだったよ。僕はその姿を間近で見てきたから、彼が指揮官になった時も驚かなかったし、ユーヴェで成功したことにも何一つ驚きを感じていない。むしろ当然だとすら思う。

 

2011年にコンテが監督になって以降、チームに「ユヴェントスらしさ」が戻ってきたという声もよく聞きます。

 

N―それは正しい。彼は……言ってみれば「完璧なユヴェンティーノ」なんだ。彼のDNAを顕微鏡で見てごらん、きっと白と黒のストライプが見えるよ(笑)。コンテは常にナンバーワンを目指すんだ。仮に大工だったとしても、世界一の大工を目指しただろう。その精神こそ、常に勝者として歴史を刻んできたユーヴェのDNAだ。このチームを指揮するには最適な人物だと思う。

 

ただし、今シーズンはそのコンテ抜きでの戦いを強いられました(コンテは開幕前、八百長事件関与による資格停止処分を下され、昨年12月9日の第16節パレルモ戦で復帰)。この一件について、あなたの意見は?

 

N―すべてがバカげている、としか言いようがないな。「八百長に関与」と言ったって、コンテ自身が八百長に手を貸したわけじゃない。「他人の八百長を知っていたかもしれない」という疑惑で、しかも証拠が不十分だったにもかかわらず、10カ月もの資格停止処分を受けたんだ。

 

その後、処分は4カ月に短縮されました。

 

N―この裁定がいかにいい加減なものだったかという証拠だよ。ベンチに座れない間、彼がどれだけ苦しんでいたことか……。コンテにはこの一件を早く忘れて、自分の仕事に集中してもらいたい。

ユーヴェ以外のシャツを着る気になれなかった

 

ところで、これは日本の雑誌向けのインタビューなんです。最後に、日本サッカーや日本のプレーヤーについて、あなたの印象を聞かせてくれますか?

 

N―詳しく語れるほど知っているわけじゃないけど、長友(佑都)のプレースタイルはとても気に入っている。スピードがあって機敏で、現代サッカーにふさわしいサイドバックだと思う。実は彼がチェゼーナでプレーしていた時、ユーヴェも獲得に乗り出したんだよ。条件が合わず、結局インテルに奪われてしまったのは残念だった。あとは、レッジーナにいた中村(俊輔)も強く印象に残っている。彼のテクニックは一級品だったね。

 

この数年、日本サッカーは急激に成長しているという評判ですが。

 

N―その意見には完全に同意するよ。以前、日本人選手は一種の謎めいた存在、“アジアの神秘”のように認識されていた。だけど、今は確かな戦力と見なされている。

 

アジアと言えば、あなたの“恩師”であるリッピは中国の広州恒大で監督をしています。

 

N―そして、就任1年目でリーグ優勝を果たした。彼もまた、ユーヴェのDNAを持っている人物と言えるだろうね。どんなレベルで戦おうと、勝利だけを追求する。これが「ユーヴェのDNA」の本質だ。

 

一方で、ユヴェントスの英雄だったアレッサンドロ・デル・ピエロは今、シドニーFCで苦戦を強いられているようですね。

 

N―いや、アレックス(デル・ピエロの愛称)はゴールを決め続けている。チームの状態が悪すぎるんだよ。でも僕は、彼の闘志がいずれチームを良い方向に変えると信じているけどね。

 

あなた自身は、デル・ピエロと異なるキャリアを選びました。ユヴェントスとの契約が切れる時、彼のように違うリーグに挑戦する意思はなかったのでしょうか?

 

N―とても簡単なことだよ。僕はユーヴェ以外のシャツを着る気になれなかった。他のチームでプレーするという発想自体がなかったんだ。

 

当時、あなたの代理人であるミーノ・ライオラが、インテルへの移籍交渉をまとめたといううわさもありましたね。

 

N―今だから話せるけど、それは本当のことさ。ライオラはプロの代理人だから、インテルが提示したオファーを簡単に見過ごすことができなかったんだろう。そして僕自身、当時の監督だった(ジョゼ)モウリーニョから「君の力が必要だ」と声を掛けてもらった。その言葉には感謝しているけど、僕は自分の考えを曲げる気にはなれなかった。

 

ライオラはマリオ・バロテッリの代理人でもあります。彼は今頃、バロテッリをトリノに連れてくるプランを練っているのでは?

 

N―それが本当ならうれしいね。ユーヴェは、バロテッリのように少しばかり“クレイジー”な選手をうまく管理できるクラブだ。あのイブラヒモヴィッチだって、ユーヴェ時代はおとなしくしていたよ(笑)。ただ、マンチェスター・シティーが彼を売りに出すとは思えない。それに、仮に売りに出されたとしても、我々には高すぎて買えないだろう。

 

つまり、ユヴェントスは「貧しいクラブ」になってしまったと?

 

N―そうじゃない。時代が変わったんだ。ここ数年、世界的な金融危機のせいで大変な思いをしたクラブがたくさんあることは知っているだろう? 一人の選手を獲得するのに3000万ユーロ(約33億円)もの資金を投じるのは、どのクラブにとっても簡単なことではなくなったんだよ。

 

チャンピオンズリーグで優勝するようなら話は別ですが……。

 

N―確かにね。だけど、それがどれだけ難しいことなのか、僕以上に理解している人間はいないんじゃないかな(笑)。

 

 

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