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経済不況がもたらした“意外な恩恵”、スペインで若手が台頭する本当の理由

2013.02.21

ワールドサッカーキング 0307号 掲載]

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文=ホセ・ルイス・カルデロン
翻訳=オフィス・アドオン
協力= EIS

 

 ワールドサッカーキング最新号では、リーガ・エスパニョーラの最新事情をリポートする、現地直送コラムを掲載。冬の移籍市場で、スペイン勢は大きな動きを見せなかった。経済不況の影響だが、それが停滞につながるわけではなく、若手の台頭を促すという好影響が生まれている。スペインサッカーの実力は、一向に衰える気配を見せない。欧州16強に残ったマラガとバレンシアによる、ハイレベルなCL出場権争いを見れば一目瞭然だ。

 

移籍市場は静かでも、若手の登用は活発

 

 冬の移籍マーケットが閉幕し、いよいよシーズン後半戦が始まった。先日のレアル・マドリーとバルセロナによるコパ・デル・レイ準決勝ファーストレグ(1-1の引き分け)は、ヨーロッパのみならず世界中から「世界最高峰のサッカー」という評価を得るほどハイレベルな戦いだった。しかしその一方で、『プライム・タイム』紙が報じるところによると、世界最高峰のサッカーを展開するリーガ・エスパニョーラの移籍市場での動きは、プレミアリーグ、ブンデスリーガ、セリエA、リーグ・アンよりも静かなものだったという。不況の折、冬の移籍市場での動きは年々停滞しつつあるが、今年は昨冬よりも更に冷え込んだ内容となった。

 

 この冬、リーガ全体で動いた選手獲得のための移籍金は約14億円で、昨夏に動いた約150億円と合計すると約164億円となっている。これは、プレミアリーグの夏冬合計約800億円と比べると大きな差がある。プレミアに次ぐのがセリエAで約500億円、次がブンデスリーガの約300億円、そしてリーグ・アンが約280億円となっている。この数字を見るだけでも、スペインの移籍市場がいかに静かなものだったかが見て取れるというものだ。これに比例するように、カンテラーノをトップチームで起用しているクラブの割合はリーガが最も高く、アスレティック・ビルバオの20人、レアル・ソシエダの16人、バルサの15人と、数字上ではスペインのクラブが欧州のトップ3を独占している。

 

 移籍金の工面が苦しくなり、国外の才能を呼び寄せることができなくなったため、自前で育成した選手を引き上げてトップチームの戦力とする。一見すると閉塞的な環境が作られつつあるように感じられるが、これでリーガが弱体化していくとは思わない。今後、リーガの中で大金を支払って大きな移籍を実現させるクラブは、バルサとマドリー、アトレティコ・マドリーやマラガといった一部のクラブに限定されていくはずだ。つまり、プレミアリーグのように下位クラブさえもが積極的に国内外から選手を買い集めるという傾向は、しばらく見られなくなると考えられる。

 

 それでも、既に世界的な育成組織を持っているスペインであれば、国内全土で優れた才能が次々に生まれてくるはずだ。そして、そのうちの何人かの選手はフェルナンド・トーレスやフアン・マタ、サンティ・カソルラ、ダビド・シルバらのように、その才能を買われて国外のクラブへと羽ばたいていくだろう。また、ジョルディ・アルバのように国内最強のクラブから引き抜かれることもあるはずだ。もしもスペインサッカーが彼らを生み出すような育成組織を築いていなかったなら、国内経済の弱体化がリーガ自体の弱体化に直結すると考えるべきだろう。だが、スペインには他国がうらやむほどの磨き抜かれた才能の宝庫がある。極端な話、スペイン代表選手がひしめくイングランドやドイツのクラブとリーガのクラブがチャンピオンズリーグ(以下CL)やヨーロッパリーグで対戦し、スペイン人選手の活躍によってリーガのクラブが敗北を喫することがあるかもしれない。だが、それは逆にスペインサッカーの力を示すことにもなるはずだ。

 

 スペインサッカーが欧州の中でどれほどの力を発揮できるのか、それが最も分かりやすく示されるのがCLの舞台だ。決勝トーナメントに進出したバルサ、マドリー、マラガ、バレンシアが果たしてどこまで勝ち進めるのか、ぜひとも注目してほしい。

 

 

将来有望な若手を加え、安定感を増したマラガ

 

 さて、ここからは群雄割拠となっている来シーズンのCL出場権争いについて考察していきたい。現時点での首位バルサ、2位アトレティコ、3位マドリーの3チームは、よほど大崩れしない限り4位以下に落ちることはないと私は見ている。アトレティコに関しては過去に繰り返されてきた“裏切り”が一抹の不安となるが、ディエゴ・シメオネが作り上げたチームはとにかく守備が安定している。私はその守備力を信頼して、アトレティコがCL出場権を獲得できると確信している。

 

 では、残された1枠である4位の座を勝ち取るのはどのクラブになるのだろうか。最有力候補はマラガだろう。マヌエル・ペジェグリーニ監督が率いるマラガは、冬の移籍市場で左サイドバックのレギュラーだったナチョ・モンレアルをアーセナルに放出。その代わり、ポルトガルのパソス・フェレイラからヴィトリーノ・アントゥネスを獲得した。アントゥネスは若くしてその才能を注目された左サイドバックで、セリエAのローマでプレーしたこともある有望株だ。彼の武器は強烈な左足のシュートと縦への推進力。モンレアルは堅実な守備とタイミングの良いオーバーラップでマラガの左サイドをコントロールしたが、アントゥネスはエリゼウと同様、攻撃面での影響力をもたらすと考えられる。問題は、彼が守備面でどれだけペジェグリーニの要求に応えることができるかだ。元来、ペジェグリーニは安定した守備力を備えたタイプのサイドバックを好む。ビジャレアル時代にCL準決勝進出を果たしたチームでは、アルゼンチン人のロドルフォ・アルアバレーナ、その後はジョアン・カプデビラ、そしてマラガでもモンレアルと、攻撃面よりも守備面での評価が高いタイプの選手を起用している。そのペジェグリーニの下、アントゥネスが的確なポジショニングやリズムを生むパスさばきを身につければ、彼が本来持つ攻撃力と相まって、欧州トップクラスの左サイドバックとなる可能性も秘めている。

 

 もともと、安定した力を備えている上に、大きな可能性を持った新戦力も迎え入れた。ペジェグリーニの指揮下で2年目を迎えたチームは豊富な選手層を備え、戦略も着実に浸透しつつある。このチームが大崩れして順位を下げる可能性は低いと私は考えている。

 

 

堅守速攻スタイルで4位を狙うバレンシア

 

 そのマラガから4位の座を奪うには、マラガを凌駕する勢いを持っていなければならない。選手層や実績を考えると、本来ならバレンシアを挙げるべきだろう。マウリシオ・ペジェグリーノを解任してエルネスト・バルベルデを新監督に迎えたバレンシアは現在、守備組織の整備に着手しているところだ。バルベルデはコンパクトに守り、ショートカウンターを仕掛けるチームを作るのが得意。往々にして、そのような指揮官の下でチームが復活を遂げることは多い。昨シーズンのアトレティコがシメオネによって守備組織を整備され、勝ち点を拾って勢いを生んでいったのが良い例だが、果たしてバレンシアは同じような道をたどることができるだろうか。個人的にはその可能性は大いにあると見ている。

 

 なぜなら、バレンシアには堅守速攻を仕掛けるのに適したタレントがそろっているからだ。スピードは物足りないが肉弾戦に強いリカルド・コスタ、アディル・ラミ、ビクトル・ルイスらのセンターバックと、運動量豊富なジョアン・ペレイラ、アリ・シソコらサイドバック陣。中盤にはティノ・コスタ、ダビド・アルベルダ、DF登録ながらボランチで起用されているビクトル・ルイスと守備力の高い選手に加え、エベル・バネガ、ダニエル・パレホといったオーガナイザーもいる。特にバネガはバルベルデから大きな期待を寄せられていて、先発起用されたバルサ戦では見事にゴールを決めてみせた。オーガナイザーとしてもゴール前での仕上げ役としても力を発揮できるバネガが勢いに乗れば、パブロ・ピアッティ、ロベルト・ソルダード、ジョナス、ソフィアーヌ・フェグリ、ネルソン・バルデス、アンドレス・グアルダードら機動力とスピードに優れたアタッカーたちが高速カウンターを発動するようになるだろう。中でも若きレフティー、フアン・ベルナトと右ひざ前十字じん帯の負傷から約1年半ぶりに復帰したセルヒオ・カナーレスは起爆剤となる可能性を秘めている。

 

 既に書いたように、今冬の移籍市場でスペイン勢は静けさを保っていたが、カナーレスの復帰はスペインサッカー界における“最高の選手獲得”と言えるかもしれない。彼が持つ才能に疑いの余地はない。日本のファンの皆さんにも、バレンシア戦を観戦する際にはカナーレスの登場を待ち望んでいただきたい。彼のエレガントなボールタッチ、ゴール前での豊富なアイデア、左足から繰り出される変幻自在のパスやシュートは一見の価値がある。

 

 バルベルデは今、監督としてのキャリアの中で最も豊富な攻撃陣を手にしている。得意の守備力強化を成功させることができれば、マラガにCL常連の座を簡単に明け渡しはしないだろう。

 

 それにしても、CL出場権を得られる4位の座を争うチームについて語ることによって見えてくるのが、リーガのレベルの高さだ。今シーズン、スペイン勢は4チームすべてがCLの決勝トーナメントに駒を進めているが、リーガで4位争いを演じているのが欧州16強に勝ち残ったチームなのだ。

 

 かつてセリエAには欧州トップクラスのクラブがひしめき、“イタリアビッグ7”(ユヴェントス、ミラン、インテル、ローマ、ラツィオ、フィオレンティーナ、パルマ)と呼ばれた時代があった。当時、それぞれのクラブは大金をつぎ込んで世界中からトップクラスの選手を買い集めていたが、今のスペイン勢はマドリーとバルサを除けば、かつてのセリエAのビッグクラブとは異なるキャラクターを持っている。それは、スペイン国内で育った才能を軸にチームを構成している点である。リーガ戦線が折り返しを迎え、欧州のカップ戦では決勝トーナメントが始まっていくここから、スペイン勢がどこまで勝ち上がるか、またどのような内容の戦いを展開するのか注目しようではないか。

 

 

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