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不振の続くゴメス、代表復帰拒否のキースリンク―ドイツ代表ストライカーは一体誰に?

2013.02.28

ワールドサッカーキング 0307号 掲載]

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文=ディルク・ギーゼルマン
翻訳=阿部 浩 アレクサンダー

 

 ワールドサッカーキング最新号では、ドイツ代表のこれからを担うストライカーに迫った、現地直送コラムを掲載している。ブンデスリーガで得点を量産しながら、「代表に戻るつもりはない」と宣言するキースリンク。代表のエースながら不振から抜け出せずにいるゴメス。好調を維持しながら代表への思いを閉ざす者、モチベーションを示しながら本来の姿を取り戻せない者。FWの選択を巡り、ドイツ代表は今、岐路を迎えている。

 

不振が続くゴメスにいつまでこだわるのか

 

 DFB(ドイツサッカー連盟)の記者会見にマリオ・ゴメスが姿を現した。2月6日にフランス代表との親善試合に臨むドイツ代表のエースがイスに腰を掛けると、記者たちの質問攻めが始まる。話題の中心はもちろん、最近のパフォーマンスについてだ。

 

 昨シーズン、所属クラブのバイエルンで挙げた得点数は41。昨夏時点では“最高のFW”と称され、代表チームにおいてもエースの地位は揺るぎないものだった。しかし、今シーズンのゴメスは、ブンデスリーガで首位を独走するチームとは対照的に、不振にあえいでいる。長期離脱というハンディがあったとはいえ、ブンデスリーガではわずかに3得点。スタメンの座をマリオ・マンジュキッチに奪われ、先発出場は2試合にとどまっている。しかも、第18節のグロイター・ヒュルト戦は残り5分、第19節のシュトゥットガルト戦が残り1分での投入と、“時間稼ぎ要員”のような使われ方が目立つ。スランプの真っただ中にあるゴメスに対して、「本当にお前がドイツ代表のナンバーワンFWなのか!」という批判的な議論が生まれるのも仕方のない状況だ。

 

「問題は自分自身にある」

 

 最近のパフォーマンスについて問われたゴメスは、記者には一切目をやらず、いつものように静かな物腰でゆっくりと口を開いた。

 

「それは自分でも理解しているし、(不調をたたかれるのは)侮辱とは感じていない。大事なのは、チームが勝ち続けること。幸いにもバイエルンは好調を維持している。自分に取り付いている“魔物”を1日でも早く取り去りたい」

 

 不調が続く中でも一切言い訳をしない姿勢は、この日も変わらなかった。そんなゴメスの周囲は、“復活”を待ち望む人で溢れている。バイエルンのユップ・ハインケス監督は心配のあまり、「フランス戦で絶対に起用してくれ。実戦経験を積ませないと不調から抜け出せない」とヨアヒム・レーヴ監督に電話で依頼したという。ハインケスの要請を「はい、そうですか」と、ただ受け入れたわけではないだろうが、レーヴは代表チームの根幹を揺るがす大問題を解決するために、ゴメスのスタメン起用を決断する。

 

 ところがゴメスのパフォーマンスは予想していた以上に悪く、見せ場がないまま57分にピッチを後にした。交代のタイミングは1-1の同点に追いついた6分後。これは、勝ち越すための“最善策”にゴメスが含まれていなかったことを意味する。ゴメス不在のチームは最終的に決勝点を奪い、ドイツは78年ぶりに、敵地フランスで勝利を収めることになった。ゴメスの交代が歴史的勝利の要因と言い切ることはできないが、少なくとも彼の交代後にドイツの決勝点が生まれたことは事実である。

 

 ゴメスは不調から抜け出すきっかけをつかむどころか、自身の“不要論”の議論を加速させてしまったのだ。

 

 

代表復帰を断固拒否、キースリンクの本音は?

 

 では、ゴメスに代わるストライカーとして誰が適任なのか。最近、盛んに名前が挙がっているのがレヴァークーゼンのシュテファン・キースリンクである。ブンデスリーガ第23節終了時点で15ゴールを記録するリーグのトップスコアラーに、代表復帰を推す声が上がるのは必然だ。

 

 しかし、ある日の記者会見に出席したキースリンクは、記者の質問に身を乗り出し、2度も拳で机をたたきながら、はっきりした口調でこう言い切った。

 

「ドイツ代表? 興味がないね。僕は二度と代表でプレーしたくない。現状に満足しているんだ」

 

 10代の頃から期待され、実際に2007年に代表デビューを飾ったキースリンクは、いまだにその実力を高く評価される選手だ。しかし、当の本人は代表復帰に全く興味がないという。リーグ随一の点取り屋が代表入りを拒否する理由とは、いったい何なのだろうか。それを探るには、キースリンクが置かれた環境に注目する必要がある。

 

 レヴァークーゼンに入団してから7年。彼の元にはこれまで多くのクラブから獲得のオファーがあった。しかし、どこへ移ってもレヴァークーゼン以上の報酬が保証される条件だったにもかかわらず、キースリンクは「金じゃ動かないよ」とすべてを拒否。彼にとって最も重要なのは「いかに気持ちよくプレーできるか」であり、レヴァークーゼン以上に心が安定するクラブはないという。グラウンドキーパーからクラブ幹部まで顔なじみのレヴァークーゼンは、彼にとって“理想郷”であり、自ら環境を変える必要がないのだ。

 

「移籍したくない。第一、よそに行くとなったらすべてリセット、最初からやり直しじゃないか。そんなことはしたくないんだ」

 

 海外移籍についてもキースリンクは全く興味を示さない。

 

「言葉の問題があるからね。それに文化の違いを克服するのも大変だろう」

 

 また、彼は愛妻家として知られている。その徹底した家族愛は、例えば手首に妻と2人の子供の名前のタトゥーを入れ、ゴールを決めるたびにその部分にキスをするという姿からも垣間見える。更に、料理が得意で、「時間さえあれば毎日でも作る」という。その腕前が見込まれて料理本まで出したほどだ。

 

「代表戦を見るために目覚まし時計をセットするなんてことはしない。テレビでハイライトを見れば十分だ」とキースリンクは語り、こう続ける。

 

「それよりもやることがたくさんある。代表ウィークはエネルギーを充填するための大切な時間だ」

 

 家族や趣味に重きを置いていることが、自分を必要とする代表に距離を置こうとする理由なのだ。しかしなぜ、キースリンクは必要以上に代表を見限ったとも取れる発言を繰り返すのだろうか。

 

 

自己顕示欲が強すぎるドイツ人ストライカー

 

 これまでの状況を観察すると、キースリンクの対応を額面どおりに受け取るのは早合点というものである。むしろ、子供によくある「自分を認めてくれない周囲への反発」が潜在意識に隠れていると推測するほうが自然だろう。

 

 これはドイツ人ストライカーに見られる一つの特徴だ。過去を振り返って、誰もが真っ先に連想するのは、元シャルケのケヴィン・クラニーの“脱走事件”だろう。08年10月、当時全盛だった彼は、南アフリカ・ワールドカップ予選のロシア戦に招集されながらもベンチ入りできず、スタンド観戦となった。これに憤ったクラニーは、「俺様を干しやがって」と言わんばかりに、ハーフタイムを終えたところで理由も告げずに突然帰宅してしまった。キャリアアップのチャンスを自ら潰してしまったクラニーのわがままな行為は大きな反発を招き、チームから事実上の永久追放処分を受けている。

 

 また、センセーショナルな活躍によって02年日韓W杯のメンバー入りが確実視されていた元1860ミュンヘンのマルティン・マックスは、最終メンバーから外れると、2年後のユーロ04直前に「代表でやる気はない」と捨てぜりふを吐き、チームを去った。この2人の行動はいずれも愚かで幼い。更に古い例ではフランク・ミル、クラウス・トップメラー、シュテファン・クンツらが数試合に出場しただけで“やり遂げた満足感”に浸り、インパクトを残さないまま代表キャリアを終了している。だが、彼らが代表を離れた本音が「自分が絶対的エースとして毎試合起用されないから」だったのは明白である。

 

 このように、歴代のドイツ代表FWは起用法に不満を持つ例が少なくない。キースリンクも、“自己顕示欲が強すぎるドイツ人ストライカー”たちと同様の理由で、代表入りを拒んでいると考えられる。

 

 加えて、キースリンクの気持ちにトドメを刺す出来事が起こった。フランス戦に向けたメンバー発表で、レーヴはケガのミロスラフ・クローゼの代役としてスヴェン・ベンダーを招集したのだ。なぜFWではなく守備的MFを選んだのかは甚だ疑問だし、これではキースリンクがへそを曲げるのも無理はない。

 

 

キースリンクは代表復帰を直訴すべき

 

 しかし、昨年11月のオランダ戦を見れば、ストライカーの必要性は一目瞭然だ。レギュラー格のクローゼとゴメスがともに欠場したこの試合、1トップには本来2列目の選手であるマリオ・ゲッツェが入った。前を向いて積極的にゲームメークし、ゴールのお膳立てをするのが役目のゲッツェがFWとは、まるでバルセロナでセンターフォワードを務めるリオネル・メッシのようだ。消極的な選択肢ではないが、かといって最善の策でもない。ここはやはり本職のストライカーを据えなくては、ゲッツェの持ち味も生かされない。

 

 ゲッツェの出来自体は決して悪くなく、相手DFの背後を突くパスを何本も通していた。戦術的なオプションという意味では選択肢の一つになり得るだろう。しかし、さすがのゲッツェも一人二役はこなせない。彼のプレースタイルや体格では、センターフォワード本来の役割を賄えないのだ。

 

 昨年11月、長期のケガから復帰したゴメスは、ブンデスリーガ第13節のハノーファー戦で66分に交代出場し、1分も経たないうちにゴールを決めた。FWとはそういうもので、だからこそゴメスが選ばれる。そしてゴメスが不在となれば……の論法が関係者をいら立たせるのである。

 

 代表GMのオリバー・ビアホフは、キースリンク待望論について「代表に興味のない選手を入れることはない」と一蹴。ケガが治って戦列に復帰し、代表への熱い心を失わないゴメスを第一に考えていることを強調している。とはいえ、現エースの調子が戻らないようであれば、国内で最も実績を上げているキースリンクをいつまでも無視することは得策ではない。

 

 当のキースリンクも駄々をこねるのはそろそろやめにして、代表復帰を直訴すべき時に来ている。報道によると、レーヴが3月に行われるW杯予選のカザフスタン戦でキースリンクを招集するといううわさも聞こえてくる。この試合は両者が仲たがいを修復し、それぞれの立場を再確認する絶好のチャンスなのだ。キースリンクは1月で29歳になった。ここで復帰しておかなければ、先々後悔することになるかもしれない。自身にとって初めての、そして恐らく最後となるであろうW杯への出場を、みすみす逃すことはない。

 

 

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