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誰が、なぜ、海外クラブを招いたのか? Jリーグ初の試み“サマーブレイク”が示した可能性

2017.09.13

「明治安田生命ワールドチャレンジ」やサマーブレイクの狙いは?

 ピッチの外からも日本サッカー界の成り立ちを理解する。ピッチの外から日本サッカー界の成長を支える人々の努力を知り、日本サッカー界への愛をさらに深める。連載『あなたのJリーグライフがもっと充実! 5分でわかるサッカービジネス講座』のテーマは、そこにあります。

 2017年夏に開催された「明治安田生命ワールドチャレンジ」やサマーブレイクも日本サッカー界の発展を狙いとしていました。具体的にはどのような効果が期待されていたのでしょうか。Jリーグアジア戦略室室長や国際部部長を経験後、現在は株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員を務める山下修作(やました・しゅうさく)さんが、豊富なビジネス知識をもとに詳細を教えてくれました。

構成=菅野浩二
協力=一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル

Q. 明治安田生命Jリーグワールドチャレンジのような取り組みは、Jクラブにとってどのようなビジネスメリットがありますか?
A. クラブは運営コストの負担がなく、収入と実戦の場を得ることができました。

◆海外クラブとのゲームは見込み客の掘り起こしにも

「明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ」は2017年からスタートした新たな取り組みです。

 今年から導入されたJ1のサマーブレイクを有効活用して、Jクラブが世界の強豪クラブと戦う場をつくろうという趣旨のもと、今年はスペインからヨーロッパリーグを5度も制覇しているセビージャと、ドイツから日本代表の香川真司が所属するドルトムントを招きました。2016年のJリーグ覇者である鹿島アントラーズがセビージャと、同年のルヴァンカップ王者である浦和がドルトムントと対戦しています。

 この親善試合は、Jリーグが企画運営を担当し、試合にかかる費用をすべて負担しています。通常、クラブがJリーグのホームゲームを開催する際は、会場費、運営費、演出費、人件費などの諸経費がかかります。一方、「明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ」では鹿島も浦和もコスト負担を最小限にして海外の強豪と試合を行うことができました。広告料収入と入場料収入はJリーグに入るものの、Jリーグが鹿島と浦和に出場費を支払う座組みとなっていますので、両クラブにとっては大きな出費なしで収益を得られるビジネス機会でもありました。

 初めての試みとしては、「明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ」は成功だったと言っていいと思います。鹿島vsセビージャが行われた県立カシマサッカースタジアムは2万8308人、浦和vsドルトムントが行われた埼玉スタジアムは5万8327人が来場しており、ともに各クラブにとっての今季ホームゲーム最多入場者数でした。

 セビージャやドルトムント目当てにスタジアムを訪れた方も多かったかもしれませんが、Jクラブの魅力に目覚めた方もきっといるはずです。海外クラブとの試合はJリーグをスタジアム観戦してもらうきっかけにもなったはずで、Jリーグとしては今後もこういった取り組みを積極的に実施していきたいと考えています。

「明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ」では鹿島も浦和もコスト負担を最小限にして海外の強豪と試合を行うことができた

 ちなみに、鹿島vsセビージャはYoutubeやTwitter、LINEなど10のデジタルプラットフォームで同時配信を行う試みを実施し、約210万人の方がライブ視聴をしました。同時にここまでのプラットフォームでライブ配信は世界でもないと思います。またブラジル、タイ、マレーシア、スペインでも放送されました。浦和vsドルトムントはフジテレビ系列で全国生中継されると同時に、ブラジル、タイ、マレーシア、ドイツ、オーストリア、スイスで放送されました。「明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ」はマーケットの拡大という意味でも有意義なものだったといえるでしょう。

◆FC東京はドイツ遠征を物販に、札幌はタイ遠征をマーケティングに活用

 今年のサマーブレイクには、セレッソ大阪とセビージャによる「StubHub ワールドマッチ2017」も開催されました。

 約3週間のサマーブレイクをどう使うかは、各クラブの判断によります。休養に利用するのも、キャンプに活用するのも自由です。

 チーム強化という点ではFC東京の取り組みが興味深いものでした。「2017 FC東京ドイツ遠征 presented by DMM.com」と銘打ち、日本代表でも活躍する宇佐美貴史選手が所属するアウクスブルクと、以前FC東京に在籍していた武藤嘉紀がプレーするマインツと試合を行いました。

 ビジネスという観点で言うと、FC東京の選手たちはこの遠征用の特別ユニフォームを着用しましたが、クラブはこれを「ドイツ遠征親善試合用ユニフォームシャツ」という商品名でサポーター向けに販売しています。クラブビジネスの“3本柱”の一つである「物販収入」を伸ばそうという戦略です。

 サマーブレイクを実戦とマーケティングの場に活用したのが、北海道コンサドーレ札幌です。“タイのメッシ”という異名を持つチャナティップ選手が所属する札幌はタイ遠征を実施しています。

「BANGKOK INTERNATIONAL FOOTBALL INVITATION 2017」という名称のもと、チャナティップ選手のレンタル元であり、タイの強豪でもあるムアントンと親善試合を行いました。チャナティップ選手はタイのサッカー界の英雄的存在ですから、彼を通して札幌というクラブに加え、北海道という土地を知ってもらおうという狙いもあったはずです。北海道は観光産業の振興に積極的な場所として知られており、今回のタイ遠征によって、クラブビジネスの“3本柱”の一つである「入場料収入」に限らず、タイからの訪日旅行者を増やし、北海道の観光ビジネスを活性化させる効果も期待されます。

\教えてくれた人/
山下修作(やました・しゅうさく)さん
株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員。北海道大学大学院修了後、株式会社リクルートで営業、編集、企画、WEBメディアのリニューアル、プロモーション、マーケティングなどに携わる。2005年からJリーグ公認サイト『J’s GOAL』の運営やJリーグのWebプロモーション事業などにかかわった。Jリーグアジア戦略室室長や国際部部長を経て、2017年4月より現職。

By サッカーキング編集部

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