試合がない日のスタジアム活用法からビジネスの可能性を探る
Jクラブがいかにしてビジネスを成り立たせているのか、あるいはどのようにしてクラブ経営を手がけているのか、普段、Jリーグや日本代表の試合を応援していく部分では気づきにくい部分があります。連載企画『あなたのJリーグライフがもっと充実! 5分でわかるサッカービジネス講座』は“読んで学ぶ講座“であり、サッカーファンの皆さんに新たな気づきを提供していきます。
たとえば試合がない日、Jクラブは利益を上げられないのでしょうか? 今回はその疑問に迫ります。講師は、株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員の山下修作(やました・しゅうさく)さん。Jリーグアジア戦略室室長や国際部部長を経験、サッカービジネスにおいて豊富な知識を持つ山下さんが、「スタジアム」をキーワードに解説してくれました。
構成=菅野浩二
協力=一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル
Q. 試合がない日、Jクラブはどのようなビジネス活動を行っているのですか?
A. 鹿島のように、試合開催日以外もスタジアムを稼働させるアプローチがあります。
◆地域の日常にスタジアムが溶け込む形が理想
平均的に言って、各クラブのホームゲームが開催されるのは月に2、3回ほど。残りの28日程度、スタジアムが稼働していないのはなんとももったいない話です。もっとも、ほとんどのクラブがスタジアムを行政から借りているため、ホームゲーム以外の日にスタジアムでビジネスを展開するのはなかなか難しい面もあります。
理想的なモデルとしては、例えば鹿島アントラーズが挙げられます。茨城県立カシマサッカースタジアムの所有者は茨城県ですが、指定管理者は株式会社鹿島アントラーズFCであり、実質クラブが運営管理を担当しています。
鹿島は「THE DREAM BOX.カシマサッカースタジアム」という活動理念を掲げ、スタジアムを有効活用しています。ホームゲームのない日にフリーマーケットやビアガーデンを開催したり、あるいは「カシマゾンビスタジアム」という参加者体験型の謎解きイベントなどを主催したりして、増益を図っています。敷地内では整形外科を専門とする「アントラーズスポーツクリニック」や「カシマウェルネスプラザ」といったフィットネスクラブも経営しており、積極的に事業の多角化を推し進めています。鹿島の取り組みはスタジアム事業の収益を上げるためのモデルケースと言うべきもので、実際、多くのJクラブが視察に訪れています。
ビジネス的な観点から見ても、ヨーロッパのクラブに多いようにスタジアムに商業施設が併設されているなど、地域の日常にスタジアムが溶け込んでいる形が理想の一つと言えるかもしれません。
自前のスタジアムを持つという点では、アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)も参考になると思います。MLSは新規参入の条件として「スタジアムを所有すること」という項目を織り込んでいます。スタジアムをクラブが持っていれば、試合のない日も利益を上げる施策を展開できます。投資マネーのリターンが見込める構図は投資家にとってやはり魅力的で、クラブ自身がスタジアムを所有することは投資による収益増にもつながっていきます。
世界的に見て、スタジアムを積極活用したビジネス展開はクラブ経営と切り離せない話になっています。試合のない日にコンサートやイベントを開催したり、レストランやショッピングモールを併設したりして、スタジアムを最大限にビジネス活用することがクラブの収益機会の増加に結びつきます。そういった意味では、自前のスタジアムを所有するメリットは間違いなく大きいと言えるでしょう。
◆スタジアムグルメの売上もクラブの収入に
スタジアムでの収益に関して言うと、ホームゲーム開催日にはチケットや物販以外に、スタジアムグルメの売上もクラブの収入となります。
各店舗との契約内容はクラブによって異なります。出店料として一定の金額を支払ってもらっているクラブもあれば、店舗料に加えて売上の一部を入金してもらっているクラブもあります。メニューや価格は各店舗が決めていることが多いです。
「スーパーやコンビニエンスストアで買うより焼きそばやビールの値段が高い」と感じている方もいるかもしれませんが、果たして本当にそうでしょうか。その金額に、家族や友人とスタジアムグルメを味わいながら、笑顔でサッカーを楽しむ経験の価値も含まれていると考えれば、妥当かもしれない、と思えるのではないでしょうか。実際、そう感じる方々が多いからこそ、各店舗の前では長蛇の列が絶えないのだと思います。
スタジアムグルメもクラブの営業努力のたまものと言っていいでしょう。サッカーの試合という「ハレの日」を心の底から楽しんでもらうために、スタジアムの席に座る前からサポーターの皆さんをおもてなししたい。そういった思いが、充実したスタジアムグルメという形になって表れているのではないでしょうか。
FC東京の「青赤横丁」や川崎フロンターレの「フロンパーク」、ガンバ大阪の「美味G」やファジアーノ岡山の「ファジフーズ」といったクラブオリジナルのフードコーナーは、ある種のエンタテインメントであり、そこにもスタジアム観戦の醍醐味があると思います。キックオフ前の楽しさは、またスタジアムに足を運ぼうというきっかけにもなっているはずです。
\教えてくれた人/
山下修作(やました・しゅうさく)さん
株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員。北海道大学大学院修了後、株式会社リクルートで営業、編集、企画、WEBメディアのリニューアル、プロモーション、マーケティングなどに携わる。2005年からJリーグ公認サイト『J’s GOAL』の運営やJリーグのWebプロモーション事業などにかかわった。Jリーグアジア戦略室室長や国際部部長を経て、2017年4月より現職。
By サッカーキング編集部
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