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トンデモ級のサッカー馬鹿が作ったとしか思えぬ映画

2016.02.08

コラムサイト「J論」編集長であり日本の育成年代をよく知る川端暁彦さんに、インドネシア各地から集められたユース代表“ガルーダ19”を描いた劇場初上映作品『ガルーダ19』 についての映画評を寄稿いただきました。この映画は、10日(水)21:00からニコ生 サッカーキングチャンネルで全編無料放送されます。

「だが憧れてばかりでは追い付くことはできん。永久にだ」

 クライマックスを前に出てくる“監督”の一言が響くかどうか。この映画を好きになるかどうかの分岐点は恐らくここにあるのだと思った。

 ちなみに、僕には響いた。

 映画のタイトルとなったガルーダはヒンドゥー神話に出てくる神鳥で、インドネシアの国章にもあしらわれた国を象徴する存在だ。転じてナショナルチームの愛称ともなった。そして『ガルーダ19』の『19』の意味するところは、『19歳』。天下取りを夢見るU-19インドネシア代表が主役となる、そんな映画である。

 この映画について僕は当初、「あれだよ、『少林サッカー』のインドネシア版だよ」と言われてそれをうっかり信じ込んでいた。「インドネシア中から才能のある選手を集めて~」みたいな説明文句も、「超能力を使える選手が続々と集結してくるアレなテンションのソレなんだ」と理解してしまっていた。

 結論から言うと、まるでそういう話ではない。冒頭からスポ根の王道ストーリーと言える「選手集め」が始まるのは、そのとおり。ただ、“監督”はリアルに足を使ってインドネシア各地を巡って試合を観ながら選手をピックアップし、あるいは県選抜チームとの戦いで目立った相手チームの選手を抜擢する形でチームを作っていく。抜擢される選手にも超能力があるわけではない。貧乏だけれど志があって、ちょっとばかしタレントがある。そういう選手たちが“監督”の下へと集ってくる。あえて言えば、とても普通にサッカーの話である。

 個人的には、スタッフも交えたランチミーティングで、「才能のある選手を発掘する」ことの意義と、「足を使って全国を巡ってでも眠れるタレントを見つけ出す」ことの価値が、熱く語られるシーンは印象的だった。そこで語られる内容にしても、あるいは地方のチームになかなかチャンスがない現実について嘆かせる場面についても、恐らくはこの映画の作り手の意見そのものなのだろう。

 そこに、ある種のノスタルジーを感じてしまった。

 かつて日本も、アジアの壁すら破れなかった時代において、まだシステマティックな選手発掘の枠組みが完成していなかった時代に、情熱ある指導者たちが、確かにこうして眠れる才能を狂おしく探し続けていたのだろう。「システム」が整い、「ポスト」ができて、動かしがたい「枠組み」が完成した。いろいろな意味で不備がなくなったし、個々人の負担も軽減されたように思う。ただその一方で、かつて抱いた「追い付き、追い越せ」という猛烈な情熱は、いつしか守りの心に取って代わってはいないだろうか。

 トンデモ級のサッカー馬鹿が作ったとしか思えぬ、驚くほどにサッカーに対して真摯な、まさしくサッカーの映画を観ながら、彼らが「追い付く」日を思った。

※配信終了後はタイムシフトでご視聴ください。
番組URL:http://live.nicovideo.jp/watch/lv251471926

スマートフォンから視聴したい場合は、niconicoアプリをダウンロードの上、こちらからご覧ください。

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