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アジア最終予選の秘密兵器となるか…エスクデロ競飛王が抱く日の丸への熱い想い

2016.04.13

3年7カ月ぶりにJリーグ復帰を果たしたFWエスクデロ競飛王 [写真]=KYOTO.P.S.

 ワールドカップ・ロシア大会出場を懸けたアジア2次予選のグループEを7勝1分けの無敗・無失点で1位通過したハリルジャパンは今、しばしの充電期間に入っている。選手たちはシーズンの佳境を迎えたヨーロッパの舞台で、そして開幕から1カ月以上が過ぎたJリーグで目の前の真剣勝負に集中し、日々の練習に打ち込みながら心技体のレベルアップに努めている。

 例えばMF香川真司(ドルトムント/ドイツ)は、3月29日のシリア代表戦後に「次の試合まで数カ月も空くので、いかに所属クラブで激しい戦いを経験できるか」と厳しい表情を浮かべながら口にした決意どおりに、再開されたブンデスリーガで2試合連続ゴールを決めている。6月のキリンカップを経て、9月に幕を開けるアジア最終予選へ――。選手個々のレベルアップが代表チーム全体の底力も上げ、6大会連続となるワールドカップの切符獲得につながっていく。

 これまで中心を担ってきた選手たちの、さらなる成長を期待するだけではない。まだ見ぬ新戦力を加えることで、いい意味での化学変化を生じさせる作業もヴァイッド・ハリルホジッチ監督には求められる。

 そして、強烈すぎる“個”をその体に搭載し、“秘密兵器”となりうる逸材が日本国内にいる。それは現在のハリルジャパンで極めて稀有な存在と言ってもいい。それもJ1ではなくJ2の舞台に、だ。

「日本代表への想いは、もちろん今も抱き続けています。今年中に、という思いも強い。京都とともにJ1への昇格を果たしたときに、自分の名前が代表チームに刻まれているようにしたい」

 シーズンの開幕を目前に控えた2月下旬。FWエスクデロ競飛王は覚悟と夢を胸中に同居させながら、京都サンガF.C.への移籍を決意。約3年7カ月ぶりにJリーグでプレーする道を選んだ。

 2015シーズンから所属していた中国スーパーリーグの江蘇蘇寧を今年2月に入って電撃的に退団した。クラブがMFラミレスやFWジョーらのブラジル代表経験者を“爆買い”した煽りを受ける形で、外国人枠から外されたことが理由だった。

「その後にオーストラリアや韓国のクラブからもオファーをもらいましたけど、代理人を通じて、京都の強化部の方がすごく熱い気持ちを伝えてくれたし、石丸(清隆)監督も僕のことを高く評価してくれた。京都を強くして、J1に上がるために自分の力のすべてを出したい、という気持ちをもって日本へ帰ってきました」

 江蘇を契約解除になった直後に京都からオファーの連絡が入った。もっとも、帰国を決めた理由は、京都が示してきた熱意だけではなかったはずだ。

 浦和レッズからFCソウルへ期限付き移籍した2012年7月以降、エスクデロはアジアの舞台で日本人として突出した結果を積み重ねてきた。FCソウルへの完全移籍に切り替え、背番号9を託された2013シーズンはクラブ史上初のACL決勝進出に貢献。アウェーゴールの差で優勝こそ逃したものの、アジアナンバーワンの広州恒大を相手に2試合で1ゴール2アシストの大活躍を演じた。

 広州恒大を率いていた、ワールドカップ優勝監督の名将マルチェロ・リッピは決勝後に、エスクデロの名前を挙げながらこんな言葉を残している。

「彼がアジアでナンバーワンの選手だ」

 翌2014シーズンもACLのベスト4進出の、江蘇では中国FAカップを勝ち取る原動力にそれぞれなっている。江蘇が延長戦の末に下した上海緑地申花は、マリ代表MFモハメド・シソッコ、セネガル代表FWデンバ・バ、オーストラリア代表FWティム・ケーヒルを擁するスーパーチームだった。

 力強いドリブルで敵陣へ突き進むプレースタイルから、韓国ではいつしか“重戦車”なる異名をつけられた。171センチ、73キロのやや小柄なボディには韓国や中国の屈強なDFを弾き飛ばす規格外のパワーと、南米の血を引く選手ならではの柔らかく、かつ巧みなボールコントロール術が脈打っている。

 1トップあるいは左ウイングとして、外国人枠という宿命を背負いながら確固たる居場所を死守してきた軌跡に手応えを感じる一方で、寂しさも覚えていたとエスクデロは神妙な表情を浮かべる。

「代表に呼ばれる、呼ばれないは(代表監督の判断なので)仕方のないことだと思うんですけど、代表スタッフの方が誰一人として見に来なかった。レベルの高いリーグの中で、しかも決勝を戦っていることを考えれば、やっぱり日本人として寂しかったですね。ただ、今このことを言っても何も始まらないので、自分の実力が足りなかったからだと思うようにしています。もっともっと上のレベルを目指せばいいと」

 日本国内でベストパフォーマンスを発揮し続ければ、プレーしているカテゴリーに関係なく、代表スタッフの目に留まる機会もおのずと増える。9月には28歳となるシーズンへ。日本国籍を取得した2007年6月以来、9年間も抱き続けてきた夢をかなえるために下された決断でもあった。

 1988年9月にスペインで産声を上げ、アルゼンチンで育ったエスクデロが初めて来日したのは3歳の時。父親のセルヒオ・エスクデロが浦和でプレーし、引退後も育成組織の指導に関わったことで8歳まで滞在した。その後、一度アルゼンチンへ帰国してベレス・サルスフィエルドの育成組織でプレーした後、2000年に家族で移住するために再来日。浦和のジュニアユースとユースを経て、16歳7カ月だった2005年4月にトップへ昇格した。

 幼少期と青春期を日本で過ごしたエスクデロは、ちょっぴりハスキーなトーンの日本語を流ちょうに、しかも早口で操る。トップ昇格と同時に退学を選んだが、それまでは父がサッカー部の総監督を務めていた埼玉栄高校に通っていた。

 必然的に代表チームはスペインやアルゼンチンではなく、日本を応援するようになる。

「2003年くらいから、ジーコ監督の時から日本代表の試合はずっと見ています」

 いつかは日の丸を背負って戦いたい――。日本国籍を取得したのは自然の流れであり、異国の地でプレーしながら代表入りへの想いをさらに高じさせた2014シーズンからは、登録名を「エスクデロ・セルヒオ」から漢字を用いた「エスクデロ競飛王」に変更している。

 読んで字のごとく「ライバルたちと『競』り合いながら、もっともっと高く『飛』躍して、ピッチ上の『王』になる」という漢字名は、チームメイトだった田中マルクス闘莉王のアドバイスを受けて、北京オリンピック代表に選ばれる可能性のあった2008シーズンからエスクデロが温めていたものだ。

 本人をして「選手として一番自信を持っているタイミング」と言わしめる今シーズン。通算4つ目の所属クラブとなる京都に何を与えられるのか。韓国と中国で身をもって学んだものがあると、エスクデロは力を込める。

「単純に言えば勝者のメンタリティですよね。何よりもまず試合に出る。その上で何が求められているか、ということ。(外国人選手は)試合に出てナンボだし、そこで結果を出さなければすぐに消えてしまう。その意味では京都で開幕戦から2戦連続でベンチスタートになっても全く気にしなかった。たとえ出場時間が5分でも1分でも、チームのためにできることは山ほどある。韓国と中国での経験をしっかりと生かして、日本人だけれども“助っ人”のつもりでチームの勝利に貢献していきたい。ゴールやアシストといった自分の数字というものは、後からついてくるものだと思っているので」

 本田圭佑(ミラン/イタリア)の兄・弘幸氏と代理人契約を結んでいる関係で、本田本人とも交流がある。そして本田の姿を通して、自らがハリルジャパンに選出された際の役割もイメージできるという。

「今の代表を見ると、(本田)圭佑くんがいろいろな意味で負担を背負わされていると思う。もし自分が入ったら、もっとボールを落ち着かせることができるというか。大柄な外国人相手でも、真ん中の厳しいエリアでボールをキープできる自信があるし、その中でサイドバックの選手の攻め上がりを促すとか、もっとうまくウイングを使う。そういったイメージはできています。今の代表でそういったプレーができるのは圭佑くんくらいしかいないので」

 開幕4日前に合流したこともあって、エスクデロは水戸ホーリーホックとの開幕戦、FC町田ゼルビアとの第2節ではともにトップ下として途中出場。ファジアーノ岡山との第3節では先発フル出場を果たしたものの、その後は負傷もあって3試合連続で不出場が続いていたが、9日のザスパクサツ群馬戦の79分からピッチに帰ってきた。

 チームも開幕から4分け1敗と出遅れたが、モンテディオ山形と群馬に連勝。上位戦線をうかがう体勢を整えてきた。エスクデロも自身のツイッターで、100パーセントの状態に戻した上で「チームに貢献できるように頑張ります」と綴っている。

 3年7カ月ぶりとなる日本での生活を心から楽しむと同時に、日本サッカー界に生じた変化にちょっとしたサプライズも覚えている。

「J3が新たにできたことで、J3からJ2へ、J2からJ1へ上がるんだというハングリーさがより強くなっている。例えば町田戦で相手選手から感じた気迫はすごかったし、韓国や中国で感じたそれと近いものがあった。戦術どうこうではなく、球際で必ず勝つ、常に相手よりも走る、何よりも絶対に勝ちたいと思えるかどうか。自信がある時に一番上を目指せると僕は思っているので、僕が入ることで、チームに『行けるんだ』という自信を与えていきたい」

 託された背番号は、浦和ユース時代以来という「10」番。いよいよエンジンを全開にさせようと意気込むエスクデロの足下を支えるスパイクの外側には、両足ともに「競飛王」の刺繍が施されている。改めて言うまでもなく、3つの漢字には代表入りにかける熱い想いが込められている。

文=藤江直人

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By 藤江直人

スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

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