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経営危機に陥ったアビスパ福岡、復活の理由/前編「トップチームと同じように数字のプレッシャーにさらされるのは当然のこと」

2016.05.16

「Jリーグ退会」という最悪の事態も考えられた経営危機を乗り越え、現在5年ぶりにJ1のステージで奮闘するアビスパ福岡。その危機的状況からクラブを立て直した背景には、サッカー界とは異なる業界から来た経営者がいた。

 2013年10月、アビスパ福岡は約5,000万円の運営資金不足が表面化し、サポーターなどから募金を集める事態となっていた。同年度は約2,800万円の債務超過に陥り、経営改善が見られなければ、最悪の場合Jリーグを退会せざるを得ないという現実を突き付けられる。しかしその翌年8月、経営再建を目指すアビスパ福岡は、福岡市を拠点とする企業から約1億円の出資を受け、クラブは経営危機を回避。、その企業とはアパマンショップホールディングス(大村浩次社長)のグループ企業であるシステムソフト社(吉尾春樹社長)であった。その後2015年3月の取締役会で、アパマンショップホールディングス(HD)常務の川森敬史氏が、アビスパ福岡社長に就任することが正式決定し、同年、クラブはJ1への昇格を決める。債務超過に陥ったクラブを、どのように立て直し、チーム強化につなげたのか。その変遷を知る川森社長に話を伺った。

インタビュー・文=新甫 條利子
写真=瀬口陽介

――まず、アビスパ福岡の社長に就任された経緯を教えてください。

川森敬史 2014年夏にアパマンショップHDグループのシステムソフト社からアビスパ福岡へ1億円の出資をさせていただき、その際にシステムソフト社の吉尾春樹社長と一緒に取締役に就任させていただきました。そこから経営会議や取締役会に参加させていただくようになり、その翌年の株主総会後の取締役会で代表に選任いただいたという経緯です。

――システムソフト社がアビスパ福岡に出資した経緯はいかがだったのでしょうか。

川森敬史 アパマンショップHDの前身であるアパマンショップネットワーク自体が福岡の創業だったということと、グループ代表の大村浩次も福岡出身ということで、福岡の経済界からお誘いをいただいたこともあり、ご縁があったものだと思っています。

――当時のクラブは約2,800万円の債務超過という経営危機に陥っていました。就任当初、ご自身の中ではどのように立て直そうとお考えだったのでしょうか。

川森敬史 確かにアビスパ福岡はスポーツクラブではありますが、まずは事業会社としての経営の立て直しが必要だと考えていました。そういった意味では、財務諸表をキレイにすることがミッションだと思いました。地に足をつけた経営を自分のミッションとし、損益計算書で営業利益を目標にすることや、経費の見直しをすることなど、一般の会社経営でやるべきことを、一歩一歩みんなで進めているところです。そもそもサッカーに詳しい訳ではありませんので、そこに口を出そうとは思いませんでした。

――一般の会社とは異なり、スポーツクラブならではの収益モデルや財務体制もあるのではないでしょうか。

川森敬史 たとえば移籍金については、普通の事業会社のキャッシュの動きとはまったく違うので、経営の一つの山になりますね。スポーツクラブは企業規模でいうと中小企業になると思います。その規模で、あれだけの金額の移籍金を1年に1回、しかも試合のない時期に使わなくてはいけないので、そこに向けてキャッシュを貯めていかなければいけません。これは独特です。ただ勘定科目についてはシンプルだと思いました。まず売上項目が少ないですよね。広告料収入、入場料収入、グッズ収入などに加えてJリーグ分配金などになります。不動産業になると、もっと複雑ですから。

――勘定科目がシンプルだからこそ、苦労されることもあるのではないでしょうか。

川森敬史 そうですね。売上項目が少ないということは、一つひとつの項目を深掘りしなければいけません。魔法の杖はないので、地べたを這いつくばって、1本1本のご契約をいただくということになります。ですから営業職の社員を6名から23名(2016年4月現在)に増員しました。その際も、クラブにまだ体力がないので、業務限定営業社員という雇用形態を導入しました。残業はしないで、決められた時間内、決められた業務をしていただくという契約です。募集の段階から告知させていただき、ご理解いただいたうえでご入社いただきました。アパマンショップグループでも営業職でこのような採用をするのは初めての試みです。こういった雇用形態でどのくらいの応募があるのかなと思っておりましたが、大変多くの方にご応募いただきました。これは、クラブのブランド力だと思いましたね。

――川森社長が就任された当初の記者会見で「(クラブが)良くなったねと言われるよりも、丁寧になったねと言われたい」とお話しされていたことが印象的でした。

川森敬史 企業というのは、お客様あってのものだと思っています。私は一般の事業会社から来ていますから、スポーツクラブは恵まれていると感じました。まず、サポーターの皆さんの存在。サポーターの方々は、クラブにお金も労力も提供してくれます。これは本当にすごいことだと思いました。たとえばアパマンショップという企業に、それだけのことをしてくれる人たちがいるのかと。いないですよね。取締役に就任した当初、そういう核になる方々やスポンサーの皆さまから、「アビスパはお金をもらうときだけ来て、もらったら全然来なくなる」といったお声をいただいたんです。これは変えなければいけないなと強く思いました。私たちは、クラブやチームがあるということに甘えてはいけません。ファンでいたいならこれくらい我慢してよ、という理論は、普通の事業会社では通用しないですよね。ただ、これはものすごいポテンシャルで、好循環すれば、非常に大きな力になると思いました。

――就任1年目となる昨季、目標に掲げた「オフィシャルスポンサー1,000社」の達成や、平均観客動員数が前年比172%増という結果を出されました。

川森敬史 オフィシャルスポンサーについては、営業職員を増やし、皆さまのご紹介も含め、前年186社だったスポンサー企業様を1,010社まで伸ばすことができました。また観客動員については、『レベスタ1万人プロジェクト』と銘打ち、さまざまな企画を実施してきました。

――その目標を達成するために、具体的に実行したことを教えてください。

川森敬史 自分も初めてスポーツクラブの経営に携わりましたし、経営陣や社員のトレーニングも合わせた1年間でした。その部分は毎日会議を行い、知見を広めていきながら、目標を可視化して、数字のプレッシャーを与えました。たとえば観客動員数をいかに増やすかを検討する会議では、目標や現状、着地見込を1枚にまとめたシートを活用しています。そこにはテレビ放送がどの局であるのか、生放送か録画放送か、天候などに加え、動員数の目標と収益目標、縦軸にはシーズンシートなど既に販売している方々の何割が来場するのか、前売り状況、当日予測、あとは営業チームごとの集客数、株主様、地域の経済団体、アパマンショップグループの動員など、毎日毎日、見込みと進捗を追っています。試合が立て込んでいるときは、3試合分のシートが走っていることもあります。トップチームは常に勝ち点や勝敗など、数字にさらされているのだから、自分たちも役割分担として、そうしたプレッシャーのなかでやるのは当然のことだと思っています。可視化せずにただ「頑張っている」と言っても、抽象的になってしまいますから。昨季は後半、選手がテレビなどのインタビューでそうした経営面のことを話してくれて「ああ、浸透しているんだな」と嬉しくなりました。監督や強化部長とは数字の話をしますが、選手と経営における数字の話はしないですから。

経営危機に陥ったアビスパ福岡、復活の理由/後編「“アビスパ”というキーワードで、子どもたちの成長に好影響を与えることができたら」

アビスパ福岡株式会社
代表取締役社長
川森 敬史(かわもり たかし)

昭和40年11月30日生
平成 3年 8月  株式会社コムズ入社
平成15年10月  株式会社アパマンショップネットワーク
          (現アパマンショップホールディングス)入社
          FC事業本部 副本部長
平成16年10月  同 常務取締役(現任)
平成18年 7月  株式会社アパマンショップネットワーク 代表取締役社長(現任)
平成19年 6月  株式会社アパマンショップリーシング 常務取締役(現任)
平成25年12月  株式会社あるあるCity 代表取締役社長(現任)
平成27年 3月  アビスパ福岡株式会社 代表取締役社長(現任)

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By サッカーキング編集部

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