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山口蛍、父が率い自身もプレーした地元クラブを訪問。決戦を前に夢を抱いた“原点”で感じたW杯に懸ける思い

2017.06.07

 日本代表は6月7日に親善試合のシリア戦、13日にロシアワールドカップ・アジア最終予選のイラク戦を迎える。その重要な戦いを前に、山口蛍は小学生時代に在籍した箕輪ウエストサッカークラブの練習場を訪れた。日々多忙な彼がオフを使って故郷を訪れた理由とは――? のどかな風景が広がる三重県名張市にサッカーキング編集部も同行した。

 束の間のオフを利用して、数年ぶりに母校に帰ってきた(三重県名張市立錦生小学校 ※現在は統合により閉校)。自らの出身チームであり、父・憲一が監督を務める「箕輪ウエストサッカークラブ」の選手たちにユニフォームをプレゼントしたいと思ったのがきっかけである。

 ナイキの協力を得て、チームのカラーであるブルーとイエローを掛け合わせたユニフォームを作った。それを携え、自身も小学生時代に練習を重ねた体育館に歩みを進めていく。

 今回、選手たちに山口が訪問することは一切伝えていない。日本代表選手のサプライズ登場に驚きを隠せない小学生たち。びっくりしすぎて声が出ないといったところか、練習中は賑やかだった体育館が一気に静寂に包まれた。

「みんなに新しいユニフォームを持ってきました。このユニフォームと同じ色のスパイクを作って代表戦で履くから、みんなもこのユニフォームを着て応援してください」

 山口は少し照れくさそうな表情で、練習に参加していた少年少女に語りかけた。

「久々で新鮮です」と言うくらい、久しぶりに訪れた故郷である。懐かしさのあまり、母校の校庭をゆっくり歩きながら四方八方にスマートフォンのカメラを向ける。その姿はずいぶんとリラックスしているようだった。

 小学生の頃から父親がコーチを務めていたため、サッカーの基本は父から教わった。苦笑いも交えながら当時を振り返る。

「怖いって感じはなかったですけど、『一対一だったら仕掛けろ』とか、そういうのはよく言われていましたね。試合の後は帰宅する車の中でよく怒られたりしました。毎試合結構怒られていたかな。ドリブルで抜けなかったり、仕掛けなかったり、点を取れなかったりしたら結構言われていましたね」

 対して、息子のことを「もともとはやんちゃな子でしたよ」と笑顔で話す父は、目を細めながら当時をこう思い返した。

「『ボールを細かく触る』ということは常々言っていました。そこが彼の基本の部分だと私は思っているんですけどね。息子が小学4年生の時に体育館練習を始めたんです。だからここは原点。体育館での練習は彼の原点と言ってもいいと思います」

 そんな息子が、日本代表の中心になった今も原点とも言える場所に思いを馳せてくれる。父は素直な気持ちを聞かせてくれた。

「やっぱり嬉しいですよ。地元にある自分が育ったチームを忘れていないというところが本当に嬉しいですね」

 同時に、息子のことを気遣った。

「日々厳しい試合やトレーニングをしていろいろとプレッシャーを受ける中、ちょっと原点に戻ってきて『自分もこういうプレーをしていたな』、『こういうことをやっていたよな』というのをふと思ってくれて、それが蛍の中でリフレッシュになったり、『さらに頑張ろう』と思ってくれるようであれば私はいいなと思っているんですけどね」

 日々、プレッシャーは感じている。特に代表の主力の一人になり、考えることは多岐に渡るようになった。

 そんな中、ロシアワールドカップ・アジア最終予選はあっという間に過ぎていく。難しい戦いを強いられた分、初戦からここまでの記憶は鮮明だ。

「負けで始まり厳しいスタートになりましたけど、そこからここまでうまく持ち直してきたと思います。周りからは内容が良くないとか言われたりしますけど、結局のところ最後はW杯への切符を勝ち取れればいいと思うので。初戦で負けた時はもう確率0パーセントとか言われましたけど、そこから本当によく持ち直したなと思います」

 気がつけば最終予選は残り3試合となった。口火を切るアウェーでのイラク戦の前に、ホームにシリアを迎えて強化試合を行う。覚えている方も多いだろうが、山口にとっては心がざわつく対戦相手である。

「個人的には、1年前の今頃、相手がちょうどシリアだったんですけど、試合中に顔を骨折して……(2016年3月29日、ロシアW杯アジア2次予選。空中戦で相手選手と接触し、鼻骨および左眼窩底を骨折した)。だから自分的にはちょっと因縁深い相手というか、本音を言えば試合をするのが少し怖いなっていう思いもあります」

 ただ、代表の主力になった今、チームの成長を祈る気持ちがその恐怖心を大きく上回る。イラク戦に向けて、シリアとの一戦は大事な試合と見据えているのだ。

「シリア戦は仮想イラクという位置付けなので、それを想定してやるのが一番。新しい選手も何人か入ってきていますし、どういうフォーメーションで行くのか分からないですけど、それをテストするにあたって良い機会だと思います。前回のUAE戦ではアンカーに入る形で中盤を3枚にしてやったので、それもまた新たなオプションだと思いますし、いろいろなことを試せる大事な1試合になってくると思っています」

 これらの準備はすべてイラク戦のためにある。「自分のサッカー人生において、あれほど劇的なゴールはもうないと思う」というあの決勝弾を蹴り込んだ昨年10月6日の戦いからもヒントを得る。

「前回は日本のホームだったけど、思った以上にイラクもアグレッシブに前から取りに来ていた。日本で対戦する相手は結構引いて守るパターンが多いと思うんですけど、あまりそうではなかった印象があるんですよね。次はアウェー、彼らのホームですし、もっと前からガンガン来るんじゃないかと思います。アウェーで1点取られるとジャッジや雰囲気含め、相手のほうに優位に働くと思うので、まずは失点0でずっと試合を進めて行くというのが本当に大事。これまで、予選を戦ってきても、基本的に失点をしているのはセットプレーだったりとかで、崩されて失点するというのはそんなにないと思うけど、ただアウェーだと何があるか分からないので、まずは守備から入るという意識が自分の中にはありますね」

 W杯に懸ける思いは2014年のブラジル大会よりもずいぶん大きくなっている。

「やっぱり出場したい舞台ですよね。前回はアジア予選も戦っていなかったし、最後に呼ばれてギリギリでメンバーに入ったって感じだったので。それに比べると、今回は予選も戦っているし、そこに懸ける思いというのは4年前よりも強いものがあります」

 その思いを現実のものにするためにも、イラク戦は重要な一戦と位置付けている。

「この試合に勝つことができれば、W杯への切符を獲得できるチャンスは本当に大きくなる。そこに向けて、もちろんシリア戦も含めて自分のコンディションをしっかり準備して戦っていかなくてはならないと思っています」

 そう話しつつも、チームの中心へと登り詰めたからこその難しさも心の中に同居している。時に最悪の事態が頭をよぎり、自問自答することもある。

「常に代表に呼んでもらっていて、『もしこれで(W杯に)行けなかったらどうしよう』とか、そういうのを考えたりする時もあるから……。やっぱり、そういったプレッシャーとか責任感みたいなものは、常に考えながらやっていますね」

 だからこそ、原点から力を授かろうとしたのかもしれない。

 箕輪ウエストSCの選手たちに伝えたとおり、シリア戦とイラク戦ではプレゼントしたユニフォームをイメージしたスパイクを履く。「子どもたちは日本代表選手からユニフォームをもらったというパワーを肌で感じてくれるのではないか」と父は話していたが、むしろパワーをもらったのは山口のほうだったとも言えるだろう。

 後輩たちの前でどこか照れくさそうだった彼は、続けてこう抱負を述べている。

「新しいカラーのスパイクを履いて、みんなと一緒に戦っている気持ちで試合に臨みたい」

 6月の日本代表2連戦、山口蛍はいつもよりも熱い思いを込めてシューズの紐を結び上げる。

取材=磯田智見
写真・協力=NikeFootball

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山口蛍選手が故郷を訪れた模様は、テレビ朝日「グッド!モーニング」(毎週月~金あさ4:55~8:00)の6月8日(木)放送分にて詳しくお伝えします。ぜひご覧ください!

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