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共有することが大事…菊原氏がチームビルディングの効果を語る/第2回

2017.08.28

インタビュー・文/池田敏明
写真/兼子愼一郎

名門、読売サッカークラブ(以下読売クラブ)のアカデミーからわずか16歳7カ月でトップデビューを飾った菊原志郎氏。“天才少年”と称され、1993年のJリーグ開幕後はヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)や浦和レッズでも活躍した。

引退後は指導者に転身し、現在は横浜F・マリノスのジュニアユースで監督を務め、子どもたちとの対話を重視しながら選手としてはもちろん、人間としての成長を促す役割を担っている。

そんな菊原氏が昨年、サッカーキング・アカデミーが開催した「第2回チームビルディング 短期講座」にゲストとして参加した。チームビルディングとはどんなもので、どんな効果があるのか。短期講座の講師を務め、『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀』の著者でもある仲山進也氏(横浜F・マリノス所属)が同席する中、菊原氏に話を聞いた。

 

――横浜FMジュニアユースのチームビルディングでは、具体的にどのようなことをされたのでしょうか。
菊原志郎 4回目のときに、ロープを2つ使って、全員で目隠しをして、指定された図形をつくる、ということをやりました。「無理」と思ったら先に進まなくなってしまうんですけど、「こんな要素を加えればできるようになるんだ」という経験をすれば、今後、彼らが社会に出て仲間と問題を解決しなければならない局面に遭遇した時にいい声掛けができるようになるでしょうし、ポジティブに取り組むことができるようになると思います。それは彼らにとっての大きな財産になりますし、子どもたちの成長を考えると、こういう活動が大事だと思っています。

――子どもたちにチームビルディングをやらせてみる上で、注意すべきポイントはありましたか?
菊原志郎 いきなりディスカッションさせると危険な場合があります。普段から強い人間がいると、その人の意見が通ってしまうんですよ。実際はみんなフラットで、サッカーのレベルは関係ない、というのを理解させてから行わなければなりません。仲山さんのプログラムは、そのあたりが配慮されています。サッカーがうまいのに何もできない子もいるし、普段、メンバーになかなか入れない子からいい意見やアイデアが出てくることもあります。そうすると、「あ、それいい意見じゃん」と、お互いを見る目が変わっていきますよね。

――チームビルディングをどのように生かしていきたいですか?
菊原志郎 人と人とのつながりをいかに太くしていくかは、サッカーに限らずどんな世界でも大切だと思うのですが、今の子どもたちは、そういう部分が希薄だと思います。みんな自分の世界を持っていて、しかもスマートフォンやゲームがあるので、仲間と深い話をするでもなく、表面的な付き合いでサラッとした感じがあります。でも、やっぱり人とのつながりが太くなればなるほど、それがサッカーにも生きてきます。本気で意見をぶつけて、本気で受け取って、その二人が前向きになれるか。それが3人、4人に広がり、選手全員に広がっていくと、ピッチの中でお互いをより分かり合ってプレーできる。それがサッカーの楽しさでもあるんですよね。子どもだからこそ、柔軟な頃だからこそ、サッカーってそういうものだよねっていうのをちゃんと理解してほしいです。

――コーチたちも講座を受けたと聞きました。
菊原志郎 アカデミーコーチもスクールコーチもやっています。監督やコーチになると、自分の仕事で手一杯になり、仲間と協力して課題を解決するという機会が少なくなってくるので、その意味ではとても新鮮ですし、新たな気づきもあります。一体感を高めたり、チームづくりの方法を考えるにはすごくいいきっかけになると思います。

――現役時代に所属していた読売サッカークラブ/ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)は、チームビルディングの観点から見るとどのような状況だったのでしょうか。
菊原志郎 日産自動車/横浜F・マリノスもそうだと思うのですが、強いチームって“ちょっとした問題”を絶対に放置しないんですよ。優勝を目指す場合、1つの取りこぼしが最後に響いてくることをみんな知っているんです。勝ち点1差、得失点1差で優勝を逃した経験があるチームは、いかに小さいミスをなくし、取りこぼさずに勝ち続けるかを考えるので、お互いに少しでも気になること、たとえば「あの時のカバーが遅い」、「もっとボールに寄せる」、「もっと正確にパスを出してほしい」といったことを要求し合い、それに応えようとします。仲山さんのチームビルディング理論で「ストーミング」と呼ばれる時期があるんですが、まさにその状態でした。

仲山進也 「ストーミング」というのは、お互いが遠慮せず意見を出し合えるようになるステージのことです。この状態になれないまま、ズルズルいってしまう残念な組織も少なくありません。ヴェルディは「ストーミング」を起こせていたイメージが強いので、前回の短期講座の時に、当時のエピソードを話していただいたんです。そうしたら、ラモス(瑠偉)さんと都並(敏史)さんが試合中、ボールが動いているのに1分間ぐらいずっと口論をしていたことがあると(笑)。

菊原志郎 国立競技場ですよ(笑)。こっちは試合をしているのに、何かが納得いかなかったみたいで(笑)。でも、それぐらい一つのプレーに対してお互いに深く関わっているということですよね。

――チームビルディングを取り入れることで得られるメリットを教えてください。
菊原志郎 “共有できる”ことじゃないですかね。一人ひとり、いろいろなことを考えていると思うのですが、それをアウトプットしないと、隣の人が何で悩んでいるか分からないですよね。例えば守備がうまくいかない時に、ラインを上げたほうがいいと思っている人と、下げたほうがいいと思っている人が組んでうまくいくはずがない。チームビルディングは、問題をみんなが共有して、それをクリアするためにいろいろな意見を出して、チームとしてどういう方向に動くべきかを共有しなければならない。共有すればみんなが思っていることが分かるし、何が問題なのかも分かるし、どうやってクリアすればいいのかも分かるようになるんです。

――最後に、第3回チームビルディング 短期講座への参加を検討されている方へのメッセージをお願いします。
菊原志郎 個人としてクリアしなければいけないこともあれば、グループとして解決しなければならないこともあります。いかに課題を解決していくかという力が、サッカーの世界でも、仕事の世界でも求められると思うんですよね。この短期講座は、どうすれば課題を解決できるかを感じられるいい機会だと思います。組織と個を切り分けることは、サッカーではあってはならないことです。チームの中で輝く個でなければなりません。一般の企業でも、自分の仕事をしっかりやることはもちろん大事ですが、会社の中で自分の仕事がどう生かせるかを考えることも大事なので、自分でベストを尽くすだけではなく、いろいろなつながりを理解していくと、どうすればいいのかが見えてくると思います。

* * * * *

人間社会で生活している以上、他者とつながりを持つことなく何かを成し遂げることはできない。自分の意見を発信し、仲間の言葉を聞き、お互いを尊重し合いながら解決策を見出していく。その作業がいかに大切なものかを、「第3回チームビルディング 短期講座」は教えてくれるはずだ。

菊原志郎(きくはら しろう)
1969年7月7日生まれ。16才7ヶ月でプロデビュー。20才で日本代表入り。天才ドリブラーとも呼ばれ読売サッカークラブ、ヴェルディ川崎(現東京ベルディ)の黄金期を支え、数々のタイトルをクラブにもたらす。
現役引退後も指導者として活躍。2005年、ヴェルディユースにクラブユース選手権、全日本ユースの二冠をもたらす。現在は横浜F・マリノス ジュニアユース監督を務めている。
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