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Jリーグで加速するアジア戦略。“独自性”を打ち出すC大阪のプロジェクトとは――

2019.09.10

今年4月に行われた『ASEAN DREAM PROJECT』記者会見には東南アジア諸国から多数のメディアが詰め掛けた。

 2012年より本格的にアジア戦略を推進してきたJリーグ。昨シーズンは“タイのメッシ”と形容され、母国で絶大な人気を誇る北海道コンサドーレ札幌のチャナティップが大活躍。東南アジア国籍選手として初めてJ1リーグのベストイレブンに選出され、タイ国内でのJリーグ人気や露出量は飛躍的に向上した。

 また、チャナティップだけではなく、ヴィッセル神戸でティーラトン(現横浜F・マリノス)、サンフレッチェ広島ではティーラシン(現ムアントン・ユナイテッド)が主力級の活躍を示したことで“戦力”という点においても、これまでの評価を大きく覆した。

 セレッソ大阪でアジアへ向けた取り組みを統括する事業部営業グループの猪原尚登グループ長も、「チャナティップ選手の活躍により札幌には大勢のタイ人サポーターが観戦に訪れていて、北海道における一つのシティーセールスの役割も果たしていますよね。改めて有名選手の活躍による可能性の広がりを実感します」と“チャナティップ効果”に沸く札幌の盛り上がりについて言及する。

 ただ、一方で今後のアジア戦略には異なるアプローチも必要だと話す。「特定の選手に依存してしまうと、その選手がいなくなった時に様々な効果も同時に失われる危険性があります。セレッソでも過去にディエゴ・フォルラン選手の加入をきっかけに大きな盛り上がりを生んだ時期がありましたが、定着したモノがあった一方で、一過性で終わってしまったモノも数多くありました。選手の人気や活躍はとても大事ですが、クラブとしてはいかに独自の魅力やブランド力を築き、高めていくかが今後はさらに重要になってくると思います」

クラブの強みを生かしたプロジェクト

タイ、マレーシア、ミャンマーの3カ国でセレクションが開催された今年の『ASEAN DREAM PROJECT』。いずれも大盛況だった。

 それでは、アジア戦略におけるC大阪の独自性、ブランド力とは一体何だろうか。猪原氏が続ける。「セレッソは『育成』を大事にしているクラブですし、周囲からも高い評価をいただいてきました。2012年からアジアへ向けた取り組みを本格的に実施する中で、これまでタイのBGパトゥム・ユナイテッドFCとのパートナーシップ締結、ミャンマー代表やU-23ベトナム代表との親善試合など活動の幅は徐々に広がっていますが、もっと独自性が必要ですし、自分たちの強みを生かしたいという意識が強くなってきました」

 柿谷曜一朗、山口蛍(現ヴィッセル神戸)、扇原貴宏(現横浜FM)、杉本健勇(現浦和レッズ)、南野拓実(現ザルツブルク)らアカデミー出身の日本代表選手を多数輩出してきたC大阪。その育成力はJリーグ随一であり、まさに独自性、強みと合致するポイントと言える。そして、そんなC大阪ならではの強みを生かしたプロジェクトが、プロサッカー選手を夢見る東南アジア諸国の子どもたちをサポートする『ASEAN DREAM PROJECT』だ。

 「Jリーグを視察に訪れる東南アジアのサッカー関係者が増える中、2017年にマレーシアのチーム関係者と知り合いました。その後、そのチームを訪問した際にスポンサーのエア・アジアさんを紹介いただき、共同プロジェクトを模索する中で生まれたのが、我々の強みである『育成』を生かして子どもたちの夢をサポートする『ASEAN DREAM PROJECT』です。テレビ大阪さん協力のもと番組化もされ、今年で2年目を迎えました。ただ、今年はエア・アジアさんが他のJクラブのスポンサーに就いたことで協賛から外れてしまって(苦笑)。一時は開催が危ぶまれましたが、新たにマレーシアヤクルトさんにパートナーとなっていただき、今年も6月から8月にかけて実施することができました」

 『ASEAN DREAM PROJECT』はU-15年代を対象に東南アジア諸国でセレクションを行い、選考を通過した選手たちを“ASEAN選抜チーム”として日本に招待。C大阪コーチ陣によるトレーニングやC大阪U-15との親善試合、またC大阪トップチームの試合観戦を通じてアジアトップレベルの日本サッカーを体感してもらうことで、プロサッカー選手という夢の実現をサポートしようという試みだ。

各国のセレクションを通過した来日メンバーは、日本で練習や親善試合を行い濃密な時間を過ごした。

 昨年はタイ、ベトナム、マレーシア、今年はタイ、マレーシア、ミャンマーの3カ国で開催したが、プロジェクトを進める中で、猪原氏もJリーグに対する“熱”の高まりを感じたという。「東南アジアではプレミアリーグ(イングランド)の人気が高くヨーロッパへの憧れがとても強いですが、Jリーグにおけるタイ人選手の活躍もあり“身近な憧れの場所”としてJリーグに対する興味・関心は非常に高まっています。それは子どもたちだけでなく、親御さんも同じ。決してチャンスが多いとは言えない環境の中で、何とか子どもたちにチャンスを与えてあげたいという親御さんの熱は、もしかしたら日本以上かもしれません」。近隣諸国出身選手の活躍により、Jリーグに対して“夢をつかめる場所”という具体的なイメージが浸透し始めているようだ。

 そんな熱を感じる一方で、東南アジアの複数国をまたぐプロジェクトだからこその難しさも当然ある。「日本のようにキチッとしている国は少ないですからね(笑)」。そう笑う猪原氏だが、アジア戦略の活動を広げていく上で大切にするべきことも本プロジェクトを通じて学んだという。

 「やっぱりカルチャーが違いますから。日本とも異なるし、セレクションを開催した3カ国それぞれに違いがある。そんな中で日本と同じように物事を進めようとすると、お互いにストレスになってしまう。ですから、各国のやり方を尊重しつつ、こちらがアジャストしたり、提案することを心掛けました。何事もそうですが、大事なのはやはり人間関係。それが築ければ、突発的な問題にも対処できるようになる。実際、長年関係を築いてきたタイでは、我々から具体的な指示を出す前に意図を汲んで準備を進めてくれることもあります」

 『ASEAN DREAM PROJECT』では「チーム単位ではなく個人での海外渡航であること、今後の伸びしろを考慮して」U-15年代を対象としているが、東南アジア出身選手が持つ可能性を感じたと猪原氏は振り返る。「トップレベルでの差は当然ありますが、若年層の同年代で比べると東南アジアにも足元の技術に優れた選手はいます。ただ、東南アジア諸国には指導者が不足しており、まだまだ教えられていないことが多い。逆に言えば、少しのアドバイス、環境の変化、習慣の改善によってグンと伸びる可能性も十分にあるんです。それは指導したコーチ陣も話していましたし、昨年のプロジェクトでASEAN選抜チームがC大阪U-15を破った事実からも感じました」

アジア諸国出身でセレッソ育ちの代表選手、Jリーガーを

昨シーズンまでC大阪でプレーしていたチャウワット(左)は、現在タイ2部リーグ首位を走るBGパトゥム・ユナイテッドを牽引。今シーズン加入したポンラヴィチュ(右)は、J3第17節G大阪U-23戦でJ初ゴールを決めた。

 プロジェクトを通じて、競技面においてもマーケティング面においても東南アジアが持つ可能性を再確認した中で、今後クラブとしてどのようなアジア戦略を目指すのだろうか。

 「これからはJリーグ55クラブの中でどう差別化を図っていくかが重要だと思います。その中で我々の強みは、やはり『育成』。だからこそ、『ASEAN DREAM PROJECT』のような取り組みを続けていくことが次の一歩につながる。アジア各国や日本国内において“積極的にアジア戦略に取り組んでいるクラブ”という認識を浸透させることができれば、パートナーとなってくださる関係者、活動をサポートしてくださる企業も増えていくはずです」

 また、猪原氏は『育成』を前面に押し出した活動における一つの夢についても語ってくれた。

 「原石のうちから磨いていけば、将来的にJリーグでも活躍できる可能性を持つ選手はアジア諸国にもいます。ですから、いずれはアジア諸国出身でセレッソ育ちの代表選手、セレッソ育ちのJリーガーを輩出することで“育成はセレッソ”という認知度を高めていきたい。そして将来、そういった選手が日本代表と対戦する時に活躍してくれたり、セレッソに加入して活躍してくれることが一つの夢です。そうなれば、セレッソというクラブのブランド力もさらに拡大していくはずですしね。今、その夢に一番近い存在は昨シーズンまで在籍していたチャウワット選手(現BGパトゥム・ユナイテッド)、今シーズン所属しているポンラヴィチュ選手やタワン選手。特にチャウワット選手はU-23タイ代表ですから」

 夢を叶えるために、地道な活動を続けていくことの大切さも理解している。「SNSではタイ語やベトナム語、インドネシア語、ミャンマー語など複数の言語に対応してファンの獲得に努めていて、これを継続しながら、さらに有効活用したいと考えています。やっぱり何事も続けていくことですよね。『育成』もそうですが、これまで日本国内で行ってきた活動を地道に少しずつアジア圏に広げていくことが10年、20年先を考えた時に、自分たちの強みを生かすことにもつながると考えています」

 「それに」と猪原氏は付け加える。

 「アジア戦略と言うと壮大ですが、クラブ内にある様々な事業の中でアジア部門はまだ投資部門というか、ようやく少し形になってきたところ。クラブとしては、まだまだ集客事業が根幹にあります。今シーズンはここまで1試合平均観客動員数が約2.1万人と、2冠を達成した2017年を上回る数字を記録しています。数多くのお客様に来場いただくことは様々な可能性につながりますし、満員のスタジアムを目指して今後も様々な企画を仕掛けていく予定です。そういったベースがありつつ、いずれはアジア戦略が集客効果や新たなスポンサー獲得などにつながっていけばと思います」

 群雄割拠のJリーグにおいて、各クラブの置かれる状況は毎シーズンのように変わる。だが、それに左右されることなくクラブの魅力や強みを信じ、継続的に活動を行っていくことが10年先、20年先のクラブの価値やブランド、グローバル化において大きな差を生む。“独自性”を大事にするC大阪のアジア戦略は、今後どのような未来につながっていくのだろうか。大いに注目したい。

写真提供=セレッソ大阪

■放送予定
11月4日(月・休)テレビ東京系列(全国6局ネット)
『ASEAN DREAM PROJECT 2019』独占密着ドキュメンタリー番組
「SENKOU アジアから世界へ サッカー少年達の熱き夏」

番組公式サイトはこちら

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