浦和で初の公式戦を迎えた遠藤航。攻守にわたり堂々とプレーした [写真]=兼子愼一郎
黒いベンチコートを脱ぐ姿が巨大スクリーンに映し出された瞬間、スタジアムがざわめきだす。真っ赤なユニフォームを身にまとった背番号6がピッチに向かって歩みを進めると、それは歓声に変わり、スタンドからは拍手が沸き起こった。「素直に嬉しかった」。試合後、彼はそう言って優しい笑顔を浮かべた。
2月24日、浦和レッズはAFCチャンピオンズリーグ・グループステージ第1節でシドニーFCと対戦。2点リードで迎えた75分、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督に「思い切りプレーしてこい」と送り出された遠藤航が、新天地での公式戦デビューを果たした。
任されたポジションは、昨季まで湘南ベルマーレで主戦場としていた3バックの右ストッパーではなく、ボランチだった。ファーストプレーにも拍手が送られ、それだけで遠藤への期待の高さがうかがえる。MF青木拓矢に代わってダブルボランチの右に入ると、2分後には「ゲームの流れをしっかりと読みながら、積極的にゴールに向かっていく姿勢を意識した」とペナルティエリア外から右足で狙いすましたシュートを放つ。守備では「残り時間が少なかったので、フィジカル的に落ちることはない。しっかり飛ばしていこうと思った」と相手から果敢にボールを奪い、無失点に貢献。新戦力として存在感を発揮した。
それでも「3バックはどこをやっても違和感なくプレーできているんですけど、ボランチはやっぱりまだ難しさを感じます」と冷静に振り返る。U−23日本代表ではボランチを務める遠藤だが、浦和でのそれとは違う。3バックを敷く浦和は、攻撃の際にボランチの一人がDFラインに下がり変則的な4バックを形成する。そして、もう一人が間でバランスを取りながら、パスを散らして攻撃を組み立てる。「このチームは、ボランチがDFラインに落ちて、3バックのワイドの選手を高い位置に出すこともある。ポジションの流動性という部分では(U−23日本代表と)やっぱり違いがあると思います」と浦和スタイルの難しさを口にした。
実際、前半はMF阿部勇樹だけでなく、青木までもがDFラインに落ちてしまい、中盤に大きなスペースが生まれた。8分にFW武藤雄樹が挙げた先制点は、クロスのこぼれ球に飛び込んだもので、連動した崩しの場面はほとんど見られなかった。後半はボランチ2人が中盤で耐えながらバランスを取ったが、MF柏木陽介のように攻撃を組み立てることができない。ベンチから戦況を見守っていた柏木も、「阿部ちゃんも青木も落ちたままだから、相手もハメやすくなっていた」と分析する。「二人が真ん中に入ったりする時間を作りながらボールを回せたら、ハメづらくなると思う。やっぱりチャレンジのパスはしていかないといけない。みんないいプレーをしていたけど、もう少し狙うパスがあっても良かった」(柏木)。司令塔不在時に攻撃リズムが単調になるのは、依然として浦和の課題だ。遠藤も守備での献身性は見せたが、攻撃の起点となるパスを入れる場面はまだまだ少なかった。左右にパスを散らしながら、時には鋭い縦パスで攻撃のスイッチを入れる。もし、遠藤が攻撃センスに磨きをかければ――。
遠藤は「面白さはありますよ」と目を光らせる。もともと、守備的なポジションであればどこでもこなせるユーティリティプレーヤー。ペトロヴィッチ監督はキャンプ時に「間違いなくDF層の底上げになる」とその守備力を高く評価していた。遠藤もまた、「基本的には後ろだと思います。(監督は)ボランチで使いながら、3バックにはいつ入れても大丈夫だろうという感じだと思います」と守備に関しては、これまで積み上げてきた自信がある。
では、今の自分に足りないものは一体何か。その答えの一つがボランチとして幅を広げることだった。「リオ五輪も考えて、ボランチとして自分をもっと成長させていかなければいけない」。新たな難題を前に、遠藤の表情はどこかうれしそうに見えた。
「(DFラインに)落ちる側ではなく、間にいる選手。このチームだったら陽介くんが多いと思いますけど、やっぱりあそこでボールを受けて、ゲームを作っていくようなプレーができたら視野が広がる。攻撃面でもっともっとうまくなれると思うし、面白さはもっと増していく」
もちろん、まずは浦和での厳しいレギュラー争いを勝ち抜く必要がある。デビュー戦の出場時間はわずか15分。「もっともっと出たいという意欲も今日の試合で増しました」とスタメンへの気持ちはより強くなった。遠藤が一皮むければ、今年こそタイトル獲得を狙うチームにとっても、大きな力になることは間違いない。8月にはオリンピックという世界舞台が待っている。U-23日本代表のキャプテンとして優勝に貢献したAFC U-23選手権カタール 2016終了後に、「(自分の)全体的なプレーにあまり満足はしていない」と語ったボランチの精度をどこまで高めることができるか。多くの期待と注目を集める23歳にとって、まさに勝負の年。貪欲に成長を続ける遠藤航の新たな挑戦がスタートした。
文=高尾太恵子
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By 高尾太恵子
サッカーキング編集部