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【コラム】「今までとは違ったフロンターレを見せられる」中村憲剛が明かすチーム復調の理由

2017.05.10

ACL前節終了時で3位だった川崎だが大逆転で首位通過を決めた [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 確かなる手応えを感じているからこそ言葉も弾む。イースタンSC(香港)を等々力陸上競技場に迎えた、9日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2017グループリーグ最終節。4‐0の快勝でグループGの首位通過を決めた川崎フロンターレの大黒柱、MF中村憲剛は笑顔を絶やさなかった。

「最初は4つも引き分けが続いて苦しかったというか、ちょっとモヤモヤした中で戦ってきましたけど、逆にそこで負けなかったことで首の皮が一枚つながった。最後の最後に追いついた広州恒大とのアウェイゲームもあったし、前節の水原三星戦で勝ったことで、最終戦で勝てばグループリーグを突破できるところまで自力で手繰り寄せたので。みんなが一丸となってつかんだ突破だと思います」

 3シーズンぶりに挑んでいる通算5度目のACLの舞台で、4度目となる決勝トーナメント進出を決めた。しかも、同時間帯で行われていた広州恒大(中国)と水原三星ブルーウィングス(韓国)の一戦が2‐2のドローに終わったため、前節終了時で3位だった川崎が大逆転で首位通過をもぎ取った。

「欲を言えばもっと早く突破を決めればいいんですけど、Jリーグが開幕する前から始まっている中で、コンディション面や試合勘も含めて、どうしてもエンジンがかかりにくい状況で、尻上がりに自分たちの調子も上がってきた。勝ち点10なら決勝トーナメントに行けるとは思っていたけど、まさか1位で通過できるとは思わなかった。その意味では、けっこうだんご状態のグループだったのかなと思う」

ACLでイースタンSCに快勝した川崎。中村は試合後にチーム復調の手応えを口にした [写真]=Getty Images

 厳しい戦いを強いられてきた川崎が、ここにきて右肩上がりの曲線を描き始めた理由は2つある。まずは「野戦病院」と揶揄されるなど、続出していた怪我による戦線離脱者が徐々に復帰してきたことだ。自身も腰痛を訴え、直近のJ1で2試合の欠場を余儀なくされた中村が指摘する。

「選手が戻って来ることで何が起こるかと言えば、やっぱりチーム内の競争なんです。その中で良いパフォーマンスを見せるというか、チームのために一人ひとりがどれだけできるか、という点が問われてくるので」

 J1で10試合、ACLで6試合と合計16試合を数える今シーズンの公式戦で、すべてで先発出場を果たしているのはDF車屋紳太郎しかいない。中村やリオデジャネイロ五輪代表のMF大島僚太だけでなく、新加入した家長昭博(大宮アルディージャ)、阿部浩之(ガンバ大阪)のMF陣らが次々と離脱した。

 今シーズンからキャプテンを務めるFW小林悠、副キャプテンのDF谷口彰悟、GKチョン・ソンリョンらは実質的なターンオーバー制を採ったACLで先発を外れたこともある。それでも大崩れすることなく、チームの底上げを図りながら、我慢の采配を振るった鬼木達新監督の存在が大きいと中村は言う。

「これだけ怪我人が続出した中で、オニさん(鬼木監督)が選手をやり繰りしながら丹念にやってくれた。今日も残念ながら(小林)悠が怪我をしてしまったけど、代わりに入った(長谷川)竜也が点を取ったし、(新外国人の)ハイネルも点を取ったし、阿部ちゃんも直近の新潟戦でゴールに絡んだ。苦しかったこの1、2カ月でいろいろと引き出しが増えたと思うし、ようやくチームとして回ってきた感じがする」

 2つ目は4月21日の清水エスパルス戦を前にして、鬼木監督がミーティングで発したある言葉だ。この試合で清水のFW金子翔太にJ1通算20,000ゴールを決められ、後半アディショナルタイムのラストワンプレーで追いつかれたものの、終始試合を支配していたのは川崎だった。73分に一時は逆転となる、今シーズン3点目を決めている中村が振り返る。

「オニさんが『やっぱりボールを持ってナンボだろう』という話をしてくれたんです。ボールを止めて蹴って、相手の逆を突いてマークを外すというところで、丁寧にパスをつないで相手を走らせて後半で仕留めるというやり方が、確かに清水戦からできている。自分たちがボールを持つという、本来のスタイルに特化しないとこのチームはダメだと思うので。それまでは球際の激しさや切り替えの速さといった守備の部分を、オニさんが植えつけてきたなかで、ボールを持つところがちょっとピンボケしていたのかなと」

けが人の復帰とつなぐサッカーへの原点回帰で右肩上がりの曲線を描き始めた [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 清水戦から中3日で迎えた水原三星戦では、“新生”という枕詞をつけてもいい川崎が敵地のピッチで躍動した。守備を固められた前半はパスを回し続け、相手に疲れが出てきた後半にセットプレーで虎の子の1点を奪い、後はいなしながら試合を終わらせる。守備でもハードワークに徹した90分間に、中村は「今までとは違ったフロンターレを見せられるかな」と声を弾ませる。

「オニさんが話してくれたことで選手たちの意識も変わった。これからも勝ったり、負けたり、引き分けたりすることもあるけど、自分たちの土台というか、哲学を取り戻しつつあることは大きい」

 決勝トーナメント1回戦はグループEの2位と23日にアウェイで、30日にはホームで激突する。相手はムアントン・ユナイテッドFC(タイ)か、鹿島アントラーズのどちらかに絞られた。

「日本勢同士で潰し合うのももったいないし、だからと言ってタイに行くのもそれはそれで大変だと思うので。僕らが決められることではないので、そうなった時に考えます」

 イースタン戦では家長も復帰し、大島も復帰後初のフル出場を果たすなど、ますます戦力が整ってきた。20分に退き、ファンやサポーターを心配された小林本人によれば、それほど深刻な怪我ではないという。最後まで饒舌だった36歳の姿は、どんどん良好になっている川崎の視界を物語っていた。

文=藤江直人

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By 藤江直人

スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

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