AFCフットサル選手権に臨むフットサル日本代表 [写真]=河合拓
2年に一度開催されるAFCフットサル選手権(アジア選手権)が10日に開幕。アジア選手権には、16か国が参戦し、4か国が4つのグループに分かれてグループリーグを戦う。各グループの上位2チームが決勝ラウンドに進出して、アジア最強国を決める。今年の開催国はウズベキスタンで、2012年大会、2014年大会を連覇しているフットサル日本代表は、初の3連覇を目指して参戦する。
日本国内でフットサルは、見るスポーツというよりも、プレーするスポーツという位置づけだ。しかし、日本の競技レベルは世界的に見ても非常に高い。すでに書いたようにフットサル日本代表は4年間、アジア王者の地位をキープしており、サッカーのFIFAランクに相当する世界ランクでは、2月9日時点で9位となっている。
さらに4年に一度開催されるFIFAフットサル・ワールドカップにも現在3大会連続で出場中。4年前に開催されたタイW杯2012では、横浜FCに所属するFW三浦知良が招集されたことで注目を浴びた。そのチームは、世界有数の実力国であるポルトガル代表と引き分け、史上初の決勝トーナメントに進出した。現在のフットサル日本代表は、この当時のチームよりも1ランクも、2ランクも強化されている。
今年のアジア選手権は、9月にコロンビアで開催されるフットサルW杯の予選を兼ねており、大会の上位5チームにW杯出場権が与えられるのだ。日本代表にとって今大会における最初の目標は、W杯出場権を獲得すること。だが、これは目標というよりも、ノルマに近い。今回で14回目を迎えるアジア選手権で、日本の過去最低順位は第1回から第3回大会までの4位だからだ。もちろん油断は禁物だが、過去13回出場して一度も5位以下になっていないのだから、4大会連続のW杯出場は必ず実現しなければいけない。
チームの完成度は高まっている。アジア選手権を前に、1月27日、30日には、フットサルコロンビア代表と親善試合を行った。コロンビアは、今年のW杯のホスト国であり、前回のW杯でベスト4に進出した強豪である。その相手に対して日本は初戦を3-2で勝利すると、2戦目も4-2で制して2連勝した。この結果、両国の世界ランクは入れ替わることとなった。
現在の日本代表選手たちはFリーグで鍛えられたことによって個々の能力が高くなっている。さらに、就任7年目を迎えるミゲル・ロドリゴ監督の下で、組織的にも非常にまとまり、攻守ともに連動性が高い。ボールを持っているときはもちろん、守備のときも「自分たちからボールを奪うんだ」という積極的な姿勢で臨めるため、相手にとっては休まるときがない。
このチームの得点源は、ピヴォの森岡薫だ。ピヴォはサッカーのセンターFWのようなポジションで、後方からのボールを収めて攻撃の基準点となること、そして何よりもゴールが求められる。金髪がトレードマークの森岡は、その見た目だけではなくプレーでも異彩を放つ。36歳となったが、その能力に陰りは見えない。左右どちらの足からでも強烈なシュートを放つことができ、強靭なフィジカルを活かして、後方から送られてくるボールを安定して収めてくれる。この男にボールが入ったときは得点に近づいているため、目を離してはならない。
さらにピヴォには、今季は負傷に苦しめられたが、本来の力を発揮できれば、1シーズン30点は期待できる点取り屋の星翔太に加え、ビッグマッチでは必ずと言っていいほど結果を残す渡邉知晃がいる。相手が引いてくることが予想されるアジア選手権で、彼らがどのようにチームの流動性をつくり出し、どんな局面で個の力を発揮するかは、フットサルをプレーしている人たちにとても参考になる部分だろう。
また、サッカーの中盤のような役割をこなすアラには、仁部屋和弘、逸見勝利ラファエル、室田祐希といったテクニックが高い、ドリブラータイプの選手に加え、チームのバランスを見ながらプレーできる西谷良介、吉川智貴がいる。また、過去2大会連続でW杯に出場している小曽戸允哉は、個の突破力があることに加え、どんな状況にあってもチームを助けることができるため、ジョーカー的な役割で起用される。これまで日本が世界の上位クラスと対戦するときは、いかにアラの選手たちが数的優位をつくって相手に対応するかがポイントだった。しかし、現在のメンバーは個の力が高いため、1対1の数的同数でも世界と戦える。ミゲル監督が4年前の代表以上に攻撃的なチームづくりをしたのは、このポジションの選手が充実しているからにほかならない。
そして、サッカーでいうセンターバックになるのが、フィクソというポジションだ。基本的には酒井ラファエル良男と滝田学が入る。滝田は守備能力に特化しているこのチームでは唯一の選手であり、球際の強さ、危機察知能力でピンチを摘み取る。もう一人の酒井は昨年ブラジルから帰化したばかり。ブラジルでプレーしていたときはブラジル代表にも近づいた存在で、守備能力が高いだけではなく、ピヴォやアラでもプレーできる戦術的柔軟性を兼ね備える。ミゲル監督は、その体の強さを活かして最後尾でプレーさせている。場合によっては、アラで紹介した西谷、吉川、逸見らもこのポジションで起用する。彼らはサッカーでいうリベロ的なプレーをして、チーム全体がより攻撃的な戦い方を仕掛けることになる。
ゴレイロ(GK)には、前回大会の決勝戦で初めて起用されながらも、安定したプレーでゴールマウスを守った関口優志、常に平常心で最適なポジション取りでゴールを守る藤原潤、鋭い反射神経でシュートストップする田中俊則と、他国であれば誰がレギュラーになってもおかしくない顔ぶれがそろっている。
この史上最強といえる顔ぶれの日本代表にとって、ライバルとなるのがイラン代表だ。実は、過去13回のアジア選手権で優勝を経験したことがあるのは、日本とイランだけ。イランは第1回大会から大会7連覇を達成。その後の6大会では日本と3度ずつの優勝を分け合っている。先に挙げたフットサルの世界ランキングでも6位と、アジアで唯一日本を上回っている彼らが、日本の3連覇にとって最大の障害となる。順当にいけば準決勝で実現する対戦は、事実上の決勝と言って差し支えないだろう。
もう1チーム、侮ることができないのが、日本が初戦で戦うカタール代表だ。今大会には、多くの帰化選手が登録されており、どのようなチームに仕上がっているのか、未知数の部分が大きい。前回大会では、初戦でウズベキスタンに敗れているだけに、日本が大会にどう入っていけるかという点でも注目したい。
今大会のグループステージ、11日の第1節カタール戦、13日の第2節マレーシア戦、15日の第3節オーストラリア戦は、日本でもNHK-BS1で生中継がある。競技人口ではサッカーにも劣らないフットサルの代表選手たちに、エールを送り、プレーの参考となる部分を見つけてほしい。
文=河合拓
By 河合拓