準々決勝でベトナムに敗れたフットサル日本代表 [写真]=河合拓
“史上最強”だったはずのフットサル日本代表のアジア選手権3連覇への挑戦は、準々決勝で終わることとなった。過去13大会で4位を下回ることがなかった日本は、準々決勝でベトナムにPK戦の末に敗れて“史上最低”の成績で大会を終えることが確定した。
2日前にタイと消耗の激しい試合を行っていたベトナムについて、ミゲル・ロドリゴ監督は、序盤は引いてくるのではないかと予想していた。しかし、ふたを開けてみればベトナムは開始早々からハーフウェイラインで構えて、隙を見せるとプレスを仕掛けてきた。相手のアグレッシブな試合の入りに戸惑いの見えた日本は、GK関口優志(エスポラーダ北海道)の好守もあり、序盤にあった3度のピンチをしのいだ。
相手の攻めに耐えた日本は8分、FP仁部屋和弘(バサジィ大分)の鮮やかなループシュートで1点を先制する。さらに仁部屋が倒されて得たFKをFP森岡薫(名古屋オーシャンズ)が豪快に決めてリードを2点に広げた。
しかし、追加点の1分後に直接FKからゴールを決められてしまうと、その後も不用意なボールロストからカウンターを受ける展開が散見。なんとか1点のリードで前半を折り返すが、日本のプレッシングは過去3戦ほどはまらず。ベトナムのブルーノ・ガルシア監督が、ミゲル監督の一つ先の手を打っている印象の残る前半だった。
地力で勝る日本は、26分にもFP渡邉知晃(大連元朝足球倶楽部)の落としをFP滝田学(ペスカドーラ町田)がスルー。その先でボールを受けた仁部屋が左足でシュート。DFに当たったボールがGKの逆を突き、この試合2ゴール目を決めてベトナムを突き放す。ここから日本はさらに攻めたが、29分に滝田のシュートが右ポストをたたき、FP星翔太(バルドラール浦安)のシュートが枠を捉えられないなど、追加点を挙げられない。逆に35分には逸見勝利ラファエル(ベンフィカ)がボールを奪われるとカウンターを受けて失点。さらにパワープレーを仕掛けて来たベトナムに同点ゴールまで決められてしまった。
それでも、まだ日本には勝ち抜けるチャンスがあった。延長前半には狙い通りの形から森岡がゴールを決めて、またもリードを奪う。このゴールこそ守り抜きたいところだったが、攻撃が中途半端になり、ボールを回して時間を使うことができない。ベトナムにパワープレーを仕掛けるチャンスを与えると、前半に直接FKを決めていたチャン・ヴァン・ブーにゴールを許し、5分ハーフの延長戦でも勝ち越せなかった。PK戦では2ゴールを決めていた森岡、仁部屋が失敗。PK戦から出場したGK藤原潤(バルドラール浦安)が1本は止めたが、2人が決めたベトナムに敗れてしまった。
2年前のベトナム大会は、今年開催されるフットサルW杯に向けてチームを強化している過程にあったが、それでも大会を制した。一方で、今回は完成形となったはずのチームが、準々決勝でタイトル争いから脱落することとなった。
試合後の会見でミゲル監督は「すべてが自分たちの思ったとおりにならなかった。私たちには試合を決める多くのチャンスがあったが、決めきることができなかった。それができなかった私たちの相手は、絶対にあきらめない、良い監督のいるチームだった。今、言えることは、彼らにおめでとうということ、(相手が)勝利に相応しかったということ。そして、私たちはこの試合から多くを学ばないといけない」と、唇を噛んだ。
3連覇に向けた挑戦は終わったが、日本の戦いは続く。今年9月に行われるコロンビアW杯の出場権は、5チームに与えられる。その切符をつかむための5位決定プレーオフが行われるのだ。そのため、ミゲル監督は試合後に選手たちに対し「今、この時点でこの試合は終わった。もう振り返らない。ここからはどうやって5位をつかみ取るかを考えよう。そのために必要なことは、今から取り組もう。それが終わってから、全部を振り返ればいい」と、まずは18日のキルギスタン戦に集中することを求めた。
そのため、試合後に「“たられば”はいっぱいあるので、そこはもう考えない。次に向くだけです」と話した滝田をはじめ、選手たちの口からは、敗因を深く分析する言葉は聞かれなかった。とはいえ、どこかに慢心があったのは間違いないだろう。森岡は「ベトナムに普通にやれば勝てると思ったところは、少しはあったと思います。でも、これが明日、明後日には、もう後がないので。本当に底力を出さないといけない。今日も底力を出しきっていれば、結果が変わっていたかもしれません」と話す。
過去13回のアジア選手権で、タイトルを獲ったのは日本とイランのみ。日本が勝っていれば、準決勝ではイランと対戦する予定だった。アジア最強の相手との試合を控えていたことに加え、常にリードをする展開は、森岡の言う「底力」を引き出すことにブレーキをかけてしまったのかもしれない。
ミゲル監督は「これまでの3試合と比較しても、期待どおりの守備ではなかった。攻撃面でも、私たちには多くのチャンスがあった。自分たちのミスもあったし、相手のGKの活躍にも阻まれました。これまで言ってきたように、アジアに簡単な試合はないのです。チャンスを生かさなければ、このようなことは起きるのです」と、攻守両面で日本が本来の力を出せなかったことを認めた。
日本は、イラン代表に内容でも上回り、3連覇を達成することで“史上最強”を証明するはずだった。しかし、その機会を失ってしまったばかりか、“史上最低”の結果で大会を終えることとなった。だが、このチームは幸運だ。名誉挽回のチャンスが残されている。5位に与えられるW杯の出場権を獲得し、そこで結果を出すしかない。
キャプテンの滝田は、前を向く。「明日、明後日の1試合1試合、絶対に勝つだけだし、それができる選手がここにそろっています。キャプテンとしても、ここは成し遂げないといけないところですし、成し遂げたいと心底思っているので。僕だけじゃなくて、すごく良い全員のグループ力を発揮しないといけない。それができるグループなので、全力で頑張ります」。日本代表の汚名を晴らす戦いが始まった。
文=河合拓
By 河合拓