「本気でリーグ1位になるために出した答えは、守備の練習をしないこと」
就任から2シーズンで「理想と現実」を味わったシュライカー大阪の木暮賢一郎監督は、Fリーグの「歴史を変える」プロジェクトの3年目に、大胆不敵な結論を導き出した。
そして、レギュラーシーズン1位を経て、プレーオフでシーズン優勝という目的を達成する。「3年あれば結果を出せる」。木暮監督には確固たる自信と、明確な根拠があった。
果たして、“最強指揮官”はクラブをどのようにマネジメントしてきたのか──。
インタビュー・写真=本田好伸
■常に相手コートにボールがあれば負けない
──「理想と現実」を味わった2年を踏まえ、リーグ1位から逆算した3年目はどのようにアプローチしたのですか?
木暮賢一郎 ピヴォにチアゴを獲得しましたが、オフェンスは継続していくイメージです。そして何よりも、確固たる自信を持って、本当に「リーグ1位」になることしか考えていない入り方をしました。2年間のプレーオフの経験や勝負にこだわるクラブのアイデンティティが確立されてきていましたから、このプロジェクトの集大成として、もうリーグ1位しかないぞと。そこでまず一番に変えたのが守備のところです。
──守備? それは意外ですね。
木暮賢一郎 これは、守備の練習をしなくてもいい方法を考えた、ということです。2年間で貯まったデータがあり、それでリーグの傾向や相性、ライバルチームなどが見えました。そして、本気でリーグ1位になるには、どのようなフットサルをして、勝ち点をどれくらい取るべきなのか。これは毎年、計算していますが、3年目は限りなく吟味しました。それで行き着いたのが「守備の練習をしない」ということでした。もちろん少しくらいはやりますが、守備の練習に時間を割かないために定めたコンセプトが、「常に相手コートにボールがあれば負けない」というものでした。
──それはすごく大胆なコンセプトですね(笑)
木暮賢一郎 今のFリーグで確実に1位になるには、名古屋以外に全勝するくらいの勝ち点が必要です。レギュラーシーズンの33試合のうち、名古屋との直接対決は3試合だけなので、残りの30試合でどれだけ勝ち点を取れるか。もちろん、現実的に30勝は難しいですが、限りなくそれに近い数字を出した上で名古屋と争わないと、リーグ1位は難しい。コロッと負けたり、引き分けたりするチームでは到底そこには届かないので、どんな状況でも必ず勝ち続けられるチームを本気で作りにいく。それで、どんなに苦しくても勝ち切るチームは何だろうと想像した時に出た答えがオフェンスでした。
──取られても、それ以上に取り返せるチームですね。
木暮賢一郎 守備の安定で勝ち点を取るのか、4点を取られても5点を取りに行けるのか。どちらが本当に勝ち点を積み上げられるのかを自分なりに考えた結果、勝ち切るだけのオフェンスがあれば、少なくとも名古屋以外には相当な勝ち点を取れるのではないかなと。これはある意味で、日本の弱点でもあります。相手がどれだけ守ったとしても、オフェンスのほうがそれを上回る。僕は引き分けすら許されないと思っていたので、そうなるともう、守備の練習をする時間はすごくもったいないんです。
──だからこそ、マンツーマンの守備に変更することにしたと。
木暮賢一郎 過去の2年間でマンツーマンを使っていなかったので、選手は抵抗もあったと思います。ですから、なぜマンツーマンをするのかということを説明するために、ミーティングにはかなりの時間を費やしました。優勝するためにはマンツーマンが必要だと、選手が納得して実戦できるかが大事でしたから。
──どんなことを話したのですか?
木暮賢一郎 「優勝するチームが1対1で抜かれますか?」と(笑)。得意不得意、やりたいやりたくないはあると思いますが、年間で勝ち点を積み上げて、堂々とリーグ1位で終わるチームになると想定した時に、簡単に抜かれたり、マークに付いていけなくて1位になれますか、と。選手は必然的に、抜かれないことを選びますよね(笑)。
■分かっているディフェンスを攻略するのは比較的、容易なこと
──オフェンスを突き詰めた結果、日頃の練習からのやり合いが激しくなり、ディフェンスも自然とレベルが上がっていったのではないでしょうか?
木暮賢一郎 これはもっと重要なことがあります。仮に守備に重きを置くと、守備の練習に時間を割くことになりますよね。そうすると自チームがゾーンディフェンスだった場合、オフェンスはそれをどうやって突破するかを考えますから、ゾーンを崩すのはうまくなります。でも今のFリーグでゾーンディフェンスを使っているチームは圧倒的に少ないので、極端に言えば、ゾーンディフェンスのチームのオフェンスは、ゾーンを崩すことしかできなくなってしまいます。対戦相手を想定してディフェンスをマンツーマンにして練習しても、慣れてしまっている部分は少なからずあります。それで結果的に、試合でも普段からやっているオフェンスと変えなくてはいけないので苦しみます。これは逆に、リーグでゾーンディフェンスが多くて、僕らがマンツーマンだったとしても同じことが言えますよね。ただし、先ほどの弱点の話にもつながりますが、最初からやってくることが分かっているシステムのディフェンスを攻略するのは、選手の質が高ければ比較的、容易なんです。今シーズンの大阪は、個々のタレントではリーグでも上位にくる選手が5、6人いましたから、きっちりと狙い目を持ってトレーニングすることで、ゾーンの相手を攻略することは難しくなかったように思います。
──Fリーグではマンツーマンのチームが多いからこそ、日頃からマンツーマンでやることで、どのチームとやっても苦しまずにプレーできるようになるんですね。
木暮賢一郎 そうです。なおかつ、お互いのレベルが高くなることでチームの力、競争力が上がっていきます。紅白戦の組み方にしても、攻撃的な選手だけのチームと守備的な選手だけのチームに寄せることもあります。週に1回、意図を持った紅白戦をしてきたのですが、そこではそれぞれのチーム、選手に対して、目的をしっかりと伝えます。例えば攻撃が強いチームに、「相手が何を考えるかというと、守ってカウンターやミスを突くこと。この紅白戦でカウンターから何点も取られたら、いくら良い攻撃でも試合で勝てない」といった具合です。
■正しいプランニングと、しっかりとしたプロジェクトが必要
──リーグ戦は最終的に27勝2分4敗で、27勝のうち名古屋から2勝、それ以外のチームから25勝と、ほぼ想定内の成績でリーグ1位をつかみました。しかし、シーズン序盤はかなり苦しんだのではないでしょうか?
木暮賢一郎 開幕からの6試合で2敗1分けですから、僕の計算ではもう、後の試合は名古屋以外に全勝しないと無理だという状況でした。相当な勝ち点を失ってしまいましたから、ヤバイなというか、もう引き分けすら許されなくなり、優勝のためには20何連勝が必要というのが決定事項となってしまいました(苦笑)。でもそうなると、逆算したらどうするかは決まってきます。今シーズンの大阪の選手起用や交代方法についてはいろいろと言われましたが、やはり方法論は柔軟に考えていました。やり方にこだわりはなく、こだわったのは目標達成のことだけです。
──それから16連勝を含む23戦無敗というクラブ記録を打ち立て、最終的に目標を達成しました。だからこそあえて聞いてみたいのですが、3年あれば結果を出せると思いますか?
木暮賢一郎 そうだと思います。正しいプランニングと、しっかりとしたプロジェクトがあって、なおかつクラブと良い関係を築くことができれば、もちろん必ずとは言えないですが、3年間で掲げている場所に限りなく近づくことは十分に可能だと思います。
──大阪が歴史を変えたことで、この先のFリーグの可能性も広がったと思います。改めて今、大事にしたいと思うことは何でしょうか?
木暮賢一郎 この先もそうですが、いろいろなことを実現したいからこそ、「勝つこと」にはこだわらないといけません。僕からしたら、システムの話であるとか、良い外国人選手がそろっていたから勝ったんだろうとか、そういった話題には興味がありません。見ている人の解釈があって当然のことですから、それが良いとも悪いとも思いません。クラブが目標に向かう過程には強い時期や弱い時期、様々な時期があるものです。だからこそ、しっかりとしたプロジェクトがあり、ブレないゴールを見ているクラブや監督の存在こそが大事なのではないかなと思っています。
By サッカーキング編集部
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