チームスタイルを象徴するような献身派の両ボランチがチームを支え、勝利に導いた試合だった。
第95回高校サッカー選手権準々決勝。快進撃を見せてきた東海大仰星の前に立ちはだかったのは、前年度王者・東福岡。ガンバ大阪内定の高江麗央、ジュビロ磐田内定の藤川虎太朗を2シャドーに配し、「アタッキングサードで怖さを出してくる」(東海大仰星・中務雅之監督)相手に対してどう戦うかは重要なキーファクター。とりわけダブルボランチを形成する原田紘汰と大崎航詩のコンビがカギを握ることは明らかだった。
東福岡の大きな特長はアンカーを中心にした配球から両翼を使うワイドアタック。ただ、アンカーにプレスへ行き過ぎる、あるいは両翼に釣られて守備組織が外向きに広がったところを2列目中央の二人に“利用される”のが、東福岡に対峙したチームのありがちな失点パターンだ。東海大仰星・中務雅之監督は「東邦さんや鹿児島城西さんの戦い方は参考にさせてもらった」と言うように、東福岡が過去2試合で見せた苦戦の要因も踏まえながら、“外にも底にも釣られ過ぎない”バランシングをしつつ、相手が誇る2シャドーをケアし続ける守備を実践した。
「相手の個人に対して1対1で獲りに行っても勝てない」(原田)という前提をシェアしていたという両ボランチはディフェンスラインの手前で隠忍自重。周り(特にFW)を動かしてボールにアタックさせながら、ボランチはポジションを空けずに藤川と高江が自由を謳歌することないように監視。同時に相手が得意とするクロス攻撃や後半から増加したロングボールから生じるこぼれ球に対する反応を敏感にして、大崎を中心にセカンドボールを回収しまくった。CBコンビとの連携も良好で、中央の4枚は最後まで崩れることなく、前年度王者の攻撃を阻み続けた。
重要なのは、このブレのない守備組織は一朝一夕の“東福岡対策”で実現したものではないということだ。中務監督は「どんなスタイルの相手にも対応できるようにしてきた」と振り返ったように、指揮官と選手たちがシーズンを通じて積み上げてきたものに他ならない。選手たちは「絶対に妥協を許さない人。怖いですけれど、愛情を感じるし、(叱責されても)納得できる」(大崎)と全幅の信頼を寄せて、監督の指示をピッチ上で実践してみせた。
結果は東海大仰星の1-0勝利。地味な内容に見えたかもしれないが、決して偶発的な番狂わせではない。地味な仕事をサボることなくやり切った選手たちが勝ち取った、十分に必然性のある勝利だった。
文=川端暁彦