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緊急事態に屈しなかった作陽、初の決勝で『シン・サクヨウ』披露なるか

2018.01.05

作陽がPK戦までもつれ込んだ接戦をものにした [写真]=吉田孝光

 第26回全日本高等学校女子サッカー選手権大会は4日、神戸市の神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で準決勝の2試合が行われた。

 ともに初の準決勝に進出した岡山県作陽高校(中国1/岡山)と、福井工業大学附属福井高校(北信越2/福井)の試合は、1-1で前後半を終え、PK戦で5-4で勝利した作陽が初の決勝進出を決めた。

 この試合のターニングポイントは、試合当日の朝にあった。作陽の1年生守護神・GK中村香苗が欠場するという非常事態だった。

「少し暗いところを走っていたら、事故のような形で引っかかってしまった。GK中村香苗はアクシデントということで、普段から一生懸命、頑張ってきたGK長谷川理乙を出すことを決めた」

 作陽の池田浩子監督がそう説明したように、GK中村香苗に代わり、今朝、岡山県を出て試合会場に入ったばかりの2年生GK長谷川が、急遽準決勝のゴールマウスを守ることになった。

 結果、16番の背番号を縫い合わせた黄色いユニフォームを着たGK長谷川は、PK戦で工大福井の5本目と6本目を両手で連続ストップ。

「自分の力を出したというよりも、作陽が日本一になるためにやるべきことをやった。試合出場を告げられた時も、周りの仲間が『大丈夫』と励ましてくれたので、緊張より勝利に貢献できたらという気持ちが強かった」と、この試合のヒロインは力強く話した。

 前回の試合まで応援席にいたGK長谷川の活躍はもとより、先制されてから同点に追いつき、PK戦に持ち込んだ作陽の戦いも見事だった。作陽は、全試合得点している工大福井のFW小林和音に得点を許し、0-1で後半に入る苦しい展開となったが、チームは冷静だった。

「(欠場のGK中村香苗は)大事なGKだけど、私たちがやることは変わらない。チームに動揺らしい動揺は見られなかった。0-2から追いついたこともあるので、ここからが力を出す時だと思った」と、作陽キャプテンのDF蓮輪真琴。

 後半は、作陽が得意とするポジションチェンジと、池田監督の采配が的中する。センターバックの蓮輪をボランチに上げ、ボランチのMF松丸綾花がセンターバックに、もう一人のボランチ山崎涼帆がFWへと移り、63分にFW牛久保鈴子が投入されると、FWだった越島杏佳が右サイドハーフに入るなど、目まぐるしく選手が入れ替わっていく。

 すると作陽の同点弾が69分に決まる。蓮輪が大きく蹴ったFKに合わせたのは、途中出場の牛久保。「準々決勝の修徳戦で、同じようなシュートをしたが、ポストに当たって入らなかったので、今日は決めたいと思っていた」と、牛久保は静かに振り返った。

 後半の終了間際には、FWで先発し右サイドハーフに移動した越島が、今度は右サイドバックへ。左サイドバックのDF山口日南貴がセンターバックに入る形もあった。

 続くPK戦では、作陽2人目のキッカーDF谷口清夏がゴール左に外してしまい、再び苦境に立たされたが、冒頭のようにGK長谷川の連続セーブでPK戦をも5-4とひっくり返し、作陽が初の王手をかけた。「男子(サッカー部)はベスト16で負けてしまったので、男子の分も優勝したい」と、蓮輪は声を弾ませた。

 大きなアクシデントに見舞われた作陽だが、それに動じることなく戦い、指揮官の采配もズバリ。準決勝でも、ポジションチェンジを繰り返して様々な形態の作陽が披露された。

 庵野秀明総監督の映画『シン・ゴジラ』(2016年)は、119分でゴジラが第5形態まで変形していったが、池田浩子監督の作陽は決勝の90分(または110分)で、一体、第何形態まで変形するのか。7日の決勝でもピンチに陥れば、様々な形態の『シン・サクヨウ』が見られそうだ。

文=馬見新拓郎

By 馬見新拓郎

10年以上にわたり女子サッカーを追いかける気鋭のライター

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