東福岡MF篠田憲政 [写真]=安藤隆人
インターハイ一回戦最大の好カードは、その名に恥じぬ『激戦』であった。
「矢板中央はプリンス関東で首位を走っているチーム。Jユースが多くいる中で首位を走ることは、当然今年のチームは力を持っているのだろうし、自信を持ちながら初戦を迎えて来る。最終的に厳しいゲームの中でどう勝ちに結びつけるかを意識しました」
森重潤也監督が語ったように、東福岡は相手を警戒しながらも、いかに『勝ち切るか』にフォーカスを当てて、この一戦に臨んだ。その一つがMF篠田憲政のアンカー起用だ。本来、篠田はシャドーなど1.5列目をこなし、中村拓也がアンカーをこなすが、2人のポジションを入れ替えた。
篠田は178cmと高さはないが、バネとフィジカルの強さを持ち、空中戦に強い選手。
「県予選でも競り合いが強い相手に対してアンカーをやっていたことあったので、この試合のアンカーはあると思っていました。対戦相手が矢板中央に決まったときから、自分にそういう役割が来ると思っていたし、スカウティングから実際にそうなりました。良さが出せると楽しみにしていましたし、イメージはできていました」という本人の言葉通り、立ち上がりから190cmの相手FW望月謙をシャットアウトすると、セカンドボールを拾っては、素早く1トップの大森真吾、左の吉岡幸陽と右の野寄和哉の両ワイドに当てて、そこから中村拓也と荒木遼太郎のツーシャドーが絡んで行く攻撃を機能させることになった。
そして14分、左サイドでボールを持った荒木のクロスをファーサイドで野寄がヘッドで落し、最後はフリーになった中村拓也が豪快なボレーを突き刺し、東福岡が先制に成功。矢板中央・高橋健二監督が「入りが悪かった。あのままだったらもう1点獲られる危険性があったので早く動いた」と、試合後に振り返ったように、失点直後の15分にMF木村泰晟に代えて、10番のMF飯島翼を投入。さらに30分には篠田に抑え込まれていた望月に代えて、181cmのFW大塚尋斗を投入し、攻撃にテコ入れを図った。
すると流れが変わり始める。大塚が屈強なフィジカルと足下の技術を活かしてボールを収めるようになり、飯島、MF伊藤恵亮らの仕掛けが生きるようになった。
後半は立ち上がりから矢板中央が猛攻を仕掛け、41分にMF山下純平に代わって、ドリブラーのMF板橋幸大が投入されると、さらに攻撃の圧力を強めた。45分には縦パスに反応した伊藤が強烈なシュートを放つが、これは東福岡GK松田亮のビッグセーブに合うなど、徐々にチャンスが生まれてきた。
これに対し、森重監督も「相手のカウンターにやられなければいいなと思いながら、なんとかもう1点が欲しかった」と、45分に吉岡に代えてMF井本寛次を投入してそのまま左ワイドに置き、49分に野寄に代えてDF中村駿介を投入。中村を1トップに、大森を右ワイドに回して、前線からの守備の徹底と、もう1点獲りに行くぞというメッセージをピッチに送った。
すると交代がズバリ的中。右サイドでボールを持ったDF中村拓海の折り返しを中央で中村駿が受けると、シュートまでは持ち込めなかったが、こぼれたボールを井本が蹴り込んで、61分に東福岡が待望の追加点を奪った。
矢板中央もあきらめず、4分後にロングボールを大塚がヘッドですらして、抜け出したDF後藤裕二が強烈なシュート。惜しくも左ポストを叩いたが、こぼれ球を飯島が押し込んで、再び1点差にとなり、反撃の機運が一気に高まるかと思いきや、ここで再び篠田が矢板中央の前に立ちはだかった。
「11番(大塚)が入ってきて、フィジカルがすごく強くて競り負けることが増えた。途中で『助走無しで競るのはキツいな』と思ったので、助走幅を取ってから競るようにした。絶対に負けたくなかったし、CBから『俺が競る』と言われたのですが、『いや、助走とって競るから、俺に競らせてくれ』とお願いして任せてもらった。意地でした」
大塚に起点を作られ、相手に流れを奪われるも、篠田はどうやって抑えるべきかを考え続けた。その意地と機転が相手に傾きかけた流れを再び引き寄せた。助走をつけて競るようになったことで、大塚に届くロングボールを篠田が跳ね返すようになったのだ。
守備のリズムが東福岡に生まれたことで、これ以上スコアが動くことはなかった。ともに交代策が的中し、流れが二転三転する激しい攻防戦は、結果として先手を取った東福岡に軍配が上がった。
「矢板中央はストロングポイントがあるチーム。最初に14番(望月)の高さで起点を作る攻撃だったり、10番(飯島)のテクニック、11番(大塚)のトータル的なテクニックとヘッドは強かった。やはり10番、11番で勝負に入ったときに、ストロングがあるチーム。(相手に流れが行っているときに)点を許さなかったのは、抑えているというよりか、相手も決めきれなかったのかなと思いますが、追加点を獲れたことが勝負の分かれ目になったのかもしれないなと思います」
勝利した東福岡・森重監督のこの言葉が、この試合がいかに手に汗握る接戦だったかを物語っていた。ピッチにいる選手、ベンチが総力を出してぶつかり合った一回戦最大の好カード。
最後に敗れた高橋監督がこぼした言葉が、この試合を観た人たちの印象を代弁していた。
「面白い試合だった。あそこまでバチバチにやり合える相手はそういない。だからこそ、もうちょっと上で当たりたかった…」
取材・文=安藤隆人