東山高校のエース・久乘聖亜 [写真]=川端暁彦
「あの子は気持ちが強い。メンタルの強さがある。安心して観てきた選手です」
東山高校・福重良一監督は10番を託したエースFW久乗聖亜のことをそんな言葉で評価する。インターハイ準決勝、三浦学苑との一戦は双方にとってやや不本意な蹴り合いのような展開になっており、前半の久乗は消えている時間のほうが長いという流れ。本人も「前で何も貢献できていなかった」と振り返るが、同時に「ワンチャンものにしてやろう」という研ぎ澄まされた気持ちも失っていなかった。
そして0-1で迎えた66分(35分ハーフ)だった。FWにコンバートされてから「意識するようになっている」というオフ・ザ・ボールでのDFとの駆け引き、有名選手の「動画を観てポジショニングのところ」を盗んできた成果から巧みにボールを引き出しての右足シュートを突き刺して同点ゴールを奪い取る。
さらにアディショナルタイムにはカウンターからボールを受け取り、絶妙なファーストタッチと、そこからのタメを経てノールックでのラストパス。自身の背後から相手ディフェンスライン裏へと飛び出していったMF飯田敏基に「感覚で出した」という絶妙なアシストから決勝点を演出してみせた。
元々のポジションはボランチ。中学時代を過ごした京都サンガF.C.U-15でも中盤の中央でプレーすることが多かった。ただ、同ポジションは現在トップチームで活躍を見せている福岡慎平ら巧者ぞろいであり、出場機会には恵まれない。筆者もU-15時代に途中出場してきた久乗を観ているのだが、正直に言って大きな印象はない。結果として京都U-18への昇格も果たせず、東山という新天地で技を磨いていくこととなった。
当時より体が一回り大きくなって「スピードが付いた」というフィジカル面の成長、前線で新たなポジションを得たことに加え、中心選手として試合経験を重ねたことが大きいのだろう。福重監督も「逞しくなった」と、その成長に目を細める。そして胸の内には京都U-15時代に得た特別な思いもある。
「ユースに上がれなくて悔しかった。見返してやろうという気持ちはある。でも、ホンマに上手い選手ばかりだったので」(久乗)
当時の僚友たちが全国大会で活躍したり、年代別日本代表に入ったり、あるいはJリーグのピッチに立ったりというニュースには常に「刺激をもらってきた」。そして当然ながら、単に憧れていたわけではない。
「自分はプロを目指しています。でも、いまの自分では獲ってくれるチームはないかもしれない。それなら大学の4年間で力を付けて、そこから(プロを)目指したい」(久乗)
今後に向けて「もっと怖い選手になっていきたい」と語る東山のエースは、まずはこのインターハイの舞台をさらなる成長への契機としつつ、「みんなと一緒に」初タイトルを目指して戦い抜く。
取材・文=川端暁彦
By 川端暁彦