昨年度王者の山梨学院 [写真]=川端暁彦
桐光学園高校とそのエース西川潤の大会として語り継がれそうだった2018年のインターハイは、決勝後半アディショナルタイムでの攻防を経て、山梨学院高校とそのエース宮崎純真の大会として記憶されることとなった。
1-0と西川のゴールで桐光学園がリードを奪って迎えた後半アディショナルタイム、両校の明暗は大きく分かれた。宮崎がボールを失った流れから始まった攻撃で、桐光がパワープレーに出ていた山梨学院の裏を突く。抜け出した西川はマークしていたDFもはがして、後はGKのみというシチュエーション。しかし狙い澄ましたシュートはGK市川隼のビッグセーブに阻まれ、こぼれ球は右サイドの職人DF保坂紘生が正確に前線へ送り出す。
待っていたのはパワープレーで前線に上がっていた大型CB大石悠介。「周りも見えていて何故か冷静だった」という巨漢DFは、見事にマーカーを振り切ってクロスを送り込む。FW川野大成がスルーしたところに入ってきたのはエース宮崎。これを見事に叩き込んで、土壇場で試合を振り出しに戻した。
迎えた延長後半5分で見せたのも宮崎だった。左サイドに張り出した状態でボールを受けると、ドリブルで猛進。「自分の好きな形」という突破で敵陣を切り裂いて送り込んだ高速クロスはオウンゴールを誘発し、結局これが決勝点となった。宮崎はこれで6試合5得点。このオウンゴールや山場だった市立船橋との2回戦でも宮崎がお膳立てしており、単なるゴール数以上の貢献度だった。
横森巧総監督は「ウチのエースの短い距離の鋭さは天下一品。どんなチームに対しても何かやってくれそうな感じがある。だから後ろの選手も頑張れる」と頼れるエースが前線にいる効果を語る。また安部一雄監督も、市立船橋戦後に「ウチは純真頼みの部分がある」と率直に認めた上で、「前までは『純真くん、いってらっしゃ〜い』と任せるだけだったのが、周りがサポートできるようになってきた」と手応えも語っていた。
山梨学院GK市川隼は宮崎のことを聞かれると、「バケモノですよ」と言った上で、「自分は(川崎FのU-15チームに在籍していたため)いろいろ凄い選手を見てきて、(U-17W杯日本代表だった)宮代大聖とも一緒にやっていますけれど、(宮崎)純真の力はまったく見劣りしないと思う」と断言した。
横森総監督は「素質で言えば、桐光の10番(西川)のほうが上だと思う」とあえて指摘したが、宮崎がここまで地道に努力を積み上げて能力を高め、エースの責任を負いながら結果を残してきたことを称えた。これまで勝負どころにおいてメンタル面で少し弱みを見せることもあったと言うが、この決勝は中学時代のチームメイトである桐光DF望月駿介が「あんなに気迫のある(宮崎)純真は初めて」と瞠目させるほど気持ちを前面に押し出したプレーを貫徹。かつての僚友にも成長ぶりを見せ付けた。
市立船橋との試合を終えたあと、宮崎はこのインターハイを「山梨学院の大会にしたい」と胸を張って言い切っていたが、まさに有言実行のフィナーレとなった。そして、いよいよ自身の進路をつかみ取るための戦いも始まる。ここからJクラブへ練習参加する話はあるが、まだ正式なオファーはない。日本一の次は、夢であるプロ入りを果たすために、「思い切りやるだけ」(宮崎)である。
文=川端暁彦
By 川端暁彦