決勝点となる2点目を決めた山口卓己(10番) [写真]=兼子愼一郎
取材・文=森田将義(提供:ストライカーデラックス編集部)
小柄な選手が多い大分の中でも、164センチの山口卓己はひと際目立つ存在だ。武器は、高い技術力と正確な判断力。密集の中をスルスルと抜け出し、タイミングよくボールをはたくことで味方の決定機を作り出す。試合を少し見れば、彼が攻撃の核であることは一目瞭然だ。東邦も彼がキーマンであることは把握しており、試合開始と共に藤原颯をマンマークで対応させることで、”山口封じ”を狙った。
これまでマンツーマンで守られる経験がなく、「かなり動かないとはがせなかったので大変だった」(山口)と振り返るが、自身が相手の守備を引き付けることで、周囲のスペースを演出。相手のスキを見ては前線に顔を出すと前半19分には、右サイドから佐藤芳紀が前線に入れた縦パスに反応。DFの間をすり抜け、ペナルティーエリア内で放ったシュートは左ポストに当たりながら、ゴールネットを揺らした。
後半も、重見柾斗とともに中盤で高い技術力を発揮。「高さでは相手に負けるので、放り込むボールでは勝てない。自分たちは小さい分、パスワークで崩すことを意識している。そのためには、相手の間に入っていかないといけない」との狙い通り、細かいパスワークで相手を食いつかせ、相手ゴール前ではタイミングよくDFの間に飛び出す大分らしい攻撃を牽引した。
後半の半ばには、相手の足が左足の太ももに入り、倒れこむアクシデントも起きたが、小野正和監督が「あの子が攻撃の要。彼ができるかできないかで、チームが変わってくる」と評するように、チームにとって替えの利かない存在だ。「動けなくなった。走れば治るかなと思ったけど治らなかったので、監督のほうを見たら、『あと半分だ』みたいな感じだったので、誤魔化しながらやるしかないと思った」。そう振り返る山口は気持ちで痛みをカバーし、勝利をピッチで見届けた。
2年前の選手権では、初戦をモノにしながら、続く2回戦で滝川第二に0-6で敗れ、涙を飲んだ。高校最後の年である今年は、同じ轍を踏むつもりはない。しっかりとコンディションを整え、さらに上を目指すつもりだ。