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<浜松開誠館>創部14年で初出場 “破天荒”を掲げて突き破った“中部の壁”【選手権出場校紹介】

2019.01.02

初の選手権出場となる浜松開誠館 [写真]=安藤隆人

『破天荒』

 この3文字が浜松開誠館のチームTシャツの背中に大きく刻まれている。破天荒とは『今まで誰もなし得なかったことをすること』という意味を持つ。

 かつて地元の名門・清水商(現・清水桜が丘)のエースストライカーとして選手権優勝を経験し、清水エスパルスでプレーをしていた青嶋文明監督が、2002年にサッカー部を創部した浜松開誠館中学校の監督に就任。第1期生が中3となった2004年に全国中学サッカー大会で優勝を果たす(ルーテル学院中学校と両校優勝)。そのままカテゴリーを上げる形で、2005年に高校にもサッカー部を創部し、高等部の監督に就任した。ゼロからのスタートの中で、青嶋監督がよく口にしていたのがこの言葉だった。

 静岡県のサッカーシーンを紐解くと、“中部王国”の歴史がずっと続いていた。静岡県は浜松市を中心とした西部、静岡市を中心とした中部、沼津市や三島市を中心とした東部の3地区で形成されている。栄華を誇った藤枝東、清水桜が丘、静岡学園、東海大翔洋(前・東海大一)、清水東の5校に加え、選手権出場校で言えば藤枝明誠、常葉学園橘もすべて中部の高校だ。東部は飛龍(前・沼津学園)が実力校だが、一度も全国大会出場が無く、西部はかつて浜名が中部勢に食い込んでいたが、近年は県内で苦戦を強いられている。磐田東も一度インターハイに出場をしたが、厳しい戦いが続いている。

 この図式の中で、西部でゼロからのスタートを切った浜松開誠館が食い込んで行くのは至難の業だった。その静岡の歴史、縮図を十分に理解していたからこそ、青嶋監督は『破天荒』という言葉を口にし続けた。

「最初は勢いもあったけど、やればやるほど、その難しさを身にしみて感じるようになった」

青嶋文明

浜松開誠館を率いる青嶋文明監督 [写真]=安藤隆人

 中等部はすぐに結果が出た。その勢いのままに高校での上昇気流を目論みたが、静岡の壁はやはり分厚かった。何度も何度も中部の壁に跳ね返され、特に準決勝は大きな壁となっていた。

 それでも竹内涼、松原后(ともに清水エスパルス)、土居柊太(FC町田ゼルビア)、青島拓馬(ブラウブリッツ秋田)とJリーガーを世に輩出し、プリンスリーグ東海では優勝争いを演じるなど、力は着々とつけてきた。

 そして、2015年のインターハイ予選準決勝で飛龍を2-0で下して、ついに初の決勝進出を果たしたが、決勝では清水桜が丘に0-2で敗戦。翌年のインターハイ予選でも2年連続で決勝進出を果たすが、ここでも静岡学園に0-1で敗れた。さらに選手権予選で初の決勝進出を果たすが、藤枝明誠を相手に2-3の逆転負けを喫した。

 藤枝明誠戦の敗戦後、青嶋監督は「…まだまだ…なんですかね。万全の準備をしてきたつもりが、どこか浮ついていた気持ちがあったのかもしれない。もっと僕が成長をしないといけないと思いました」とショックを隠せなかった。だが、すぐに「伝統を積み重ねる。選手たちの想いを引き継いで、積み重ねて行きたい」と再びその情熱を燃やして、選手達と真正面から向き合った。

 何度跳ね返えされても、起き上がって挑み続ける。その姿はまさに『破天荒』を実現させるための『本気の姿』だった。

選手権初戦は長崎総科大附と対戦する [写真]=安藤隆人

 そして、4度目の決勝進出となった今回、ついに分厚い壁を突き破った。決勝進出が決まったとき、「2年前の悔しさは忘れては居ない。あの時は一気に注目をされて、どこかふわふわした状態で試合に入ってしまった。今回はそれを経験しているからこそ、万全の状態で挑みたい。あくまで僕らは泥臭く戦って、勝ち切ることを大切にしているので」と、青嶋監督は落ち着いた表情でこう語っていた。

 悔しい想いを何度味わっても、それをチームの力に変えて行ったからこそ、静岡学園との決勝では2点を先行すると、その後はCB山田梨功を中心に静岡学園の反撃を1点に抑えて、2-1の勝利。創部14年目にして初の全国大会出場を掴み獲り、西部勢としては浜名以来、実に41年ぶりの選手権出場という、『破天荒』を現実のものにした。

 勝利の瞬間、青嶋監督は喜び爆発させ、14年分の涙を流した。だが、『破天荒』はこれで完結した訳ではない。かつて自分が選手権の頂点からの景色を見たように、『サッカー王国静岡』の復活も『破天荒』の中に入っている。

「やって来たことは変わらない。これからも泥臭く、1つずつ積み重ねて行くだけ」(青嶋監督)。まさにこれから新たな歴史がスタートするにすぎない。まずは初戦で強豪・長崎総合科学大附属を相手に最善の準備をして臨み、『破天荒第二章』の1ページ目を開く。

取材・文=安藤隆人

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