徳島市立は先制しながら惜しくも初戦敗退となった [写真]=梅月智史
取材・文=河合拓(提供:ストライカーデラックス編集部)
まさに電光石火のカウンターだった。後半からピッチに立った徳島市立のFW岡健太は後半16分、後方からのロングボールに反応すると、ドリブルで流経大柏の守備を破って右足でシュートを決める。その後、スローインの流れからの失点と、PKによる失点を喫して徳島市立は1-2で逆転負けを喫したが、岡の残したインパクトは強烈だった。
試合後、スピードスターが先発を離れたのは、大会直前に交通事故にあっていたからだったことが、監督の話で明らかになる。12月20日の下校中、自転車に乗っていた岡は、車に追突された。車に当たったのは左足で、翌日は腫れもひどく動けなかったという。それでも足をかばいながら、22日からの宮崎遠征に帯同、病院の医師の懸命な治療もあって、動けるようにはなった。
しかし、左足の痛みをかばいながらプレーしたことで、右足にも影響が出てきていたという。結局、高校サッカー最後の舞台となる選手権も先発を外れることになり、2回戦当日も座薬を打って、後半からの出番に備えていた。
「ダッシュも8割くらいでしか、走れなかったですね」と悔しがるが、そこにあるのは悲壮感ではない。「けど、チャンスがあって、そこで点を決められてよかったです。この3週間くらいで先発メンバーに3人くらい負傷者が出ていたんです。できたらフルメンバーで戦いたかったですね」と清々しい。
岡の家は母子家庭、4人兄弟で金銭的な余裕はないという。高校選手権で履いていたスパイクも、1年近く使い、ボロボロになったものだった。
「今日、お母さんが見に来てくれていたので、恩返しをしたいと思っていました。1点取れて恩返しできたかなと思うのですが、あそこまで行ったら、勝って、最高の恩返しをしたかったですね」
もう1人、恩返ししたい人がいた。河野博幸監督だ。「僕が1年のときに、選手権で使ってくれました。でも何もできずに、徳島に帰って辛くて泣いていたんです。そうしたら監督に『お前は何もしていないんだから、切り替えて頑張れ』と言われました。それで2年間、得意じゃなかったシュートや足元の練習をしました。めっちゃくちゃ努力して、今日、点を取れたので、先生にも恩返しできたかなと思ってうれしかったですけど、先生も勝たせたかった」
ミックスゾーンで取材を受けている途中、通りかかった後輩から「坊主、早く!」と声を掛けられるイジられキャラ。40分で記憶に残る活躍をした徳島市立の9番は、卒業後も産業能率大に進学し、サッカーを続けるという。
「うちには母さんしかいません。恩返しをするには、今まで頑張ってきたサッカーしかない。親孝行はこれから。プロになって恩返しをしたい」
大学でも、坊主頭は変えないという岡。高校サッカーは終わったが、そのサッカー人生はまだまだ続く。