帝京長岡は田中克幸の決勝ゴールでベスト8進出を果たした [写真]=野口岳彦
「試合が動かないので、PKかなと思っていた。でも、自分のゴールで勝てて良かった」
試合後、帝京長岡の2年生MF田中克幸は大勢の報道陣に囲まれながらも、淡々とした表情で語った。帝京長岡は選手権の3回戦で長崎総合科学大附属と対戦した。1-1で迎えた78分、左からのクロスをゴール前で見方が落とすと、田中はそのボールに反応。鮮やかなボールタッチから縦に抜け出し、得意の左足を振り抜いた。ボールはゴール右サイドネットに突き刺さり、このゴールが決勝点となった。
「自分の目の前にパスが来たので、ファーストタッチから左足に持ち替えて、後は振り抜くだけだった。いいところに決まって良かった」と淡々とゴールシーンを田中は振り返った。この平常心こそ彼の武器だ。古沢徹監督も「技術に長けていますし、左利きの独特のボールタッチがあるので、フィジカルがついてくれば、上も目指せると思います。谷内田(哲平)と田中がボールを持って、リズムを作れるので、あの2人は替えがきかない選手だと思います」と絶大な信頼を寄せている。
田中の出身は新潟ではなく岡山県。県内の強豪クラブ、FC Viparte(ヴィパルテ)出身で、地元の強豪校・作陽高からも声が掛かっていた。しかし、彼は遠く新潟の帝京長岡を選んだ。
「正直、彼がウチに入りたいと来た時は驚きました。でも、彼の意思は相当堅かった。左足の精度も高くて、独特のリズムを持っている選手」と、谷口哲郎総監督が語ったように、「帝京長岡でサッカーをやりたかった」という内に秘めた闘志と決意があった。地元・長岡や新潟県内の選手が多い中で、彼はその能力ですぐチームにアジャストした。FWからサイドハーフ、トップ下と幅広くこなし、持ち前の技術を昨年の全日本ユースフットサル選手権でも発揮し、優勝に貢献した。
選手権予選準決勝の日本文理戦でも2-0から土壇場で2-2に追いつかれ、相手の勢いもあって苦しい状況に追い込まれた。そんな状況でも、田中は途中出場ながら落ち着き払ったプレーを見せ、試合終了間際に右からのクロスを頭で合わせ、値千金の決勝弾を叩き込んだ。そして、今大会でも2回戦の旭川実業戦で貴重な2点目を挙げ、前述した通り3回戦でも1-1と緊迫した状況で、2試合連続となるゴールを叩き込み、チームを勝利に導いた。
「小学校の時から決勝とか、重要な場面で決めているんです。僕はあまり焦ったりしないで、常に冷静に戦うことを意識しています。やっぱりどんな状況でも落ち着いた気持ちでやることが一番良いので、今日は先制された後も落ち着いた気持ちでやれました」
古沢監督が『替えがきかない選手』と言うのは、プレーだけでなく、このメンタル的な要素も大きかった。次なる戦いは、新潟県勢初のベスト4を懸けた準々決勝の尚志戦。ここでも冷静にピッチ上で立ち振る舞い、歴史を塗り替えるための重要な働きを見せてくれるはずだ。
文=安藤隆人