[写真]=梅月智史
完璧なシナリオだった。前半40分を迎えるまでは……。
青森山田(青森)と流通経済大柏(千葉)が対戦した第97回全国高校サッカー選手権大会決勝。前年のリベンジへ、流通経済大柏は理想的な立ち上がりを迎えた。試合開始直後から青森山田のプレスを掻い潜りアタッキングサードに侵入。サイドを中心にチャンスを作ると32分、コーナーキックから関川郁万がヘディング弾をお見舞いし、待望の先制点を手にした。しかし、40分に青森山田・檀崎竜孔のゴールで同点とされると、63分には再び壇崎にゴールを許し逆転された。終了間際の88分には小松慧(青森山田)のダメ押し点で万事休す。流通経済大柏は2大会連続準優勝で大会を終えた。
お家芸の“堅守”は健在だった。初戦となった2回戦で徳島市立(徳島)に1失点して以降、3試合連続でクリーンシートを記録。瀬戸内(広島)との準決勝は前半から得点を重ねると、5つの交代枠をフルに使って主力を温存。来る決勝戦を万全の状態で迎えた。
上述の通り、関川のゴールで先制するまでは完璧だった。あとはこれまでと同じように、鉄壁の守備でリードを守り切れば、11年ぶりの選手権制覇が決まる……。しかし、まさかの3失点で敗戦。前年の雪辱は果たせなかった。
悔しさの連続だった3年間
「自分が点を決めようが、チームが勝たないと意味がないので。最後までチームを勝たせられなかった3年間でした……」
表彰式を終え、メディアの取材に応じた関川は、悔しさを噛み締めながら言葉を絞り出した。
高校入学後すぐにレギュラーに定着した。2016年4月のプレミアリーグイースト、関川の公式戦デビューは青森山田との一戦だった。当時の青森山田は廣末陸(レノファ山口)、郷家友太(ヴィッセル神戸)、三國スティビアエブス(順天堂大)など、同年度の高円宮杯チャンピオンシップと選手権の2冠を達成したメンバーが名を連ねていた。この試合で1年生ながらスタメン出場した関川だったが、結果は0-3の惨敗だった。
「振り返れば1年生の最初の公式戦も青森山田だった。最初も最後も青森山田に負けちゃいました」(関川)
関川にとって、高校3年間の選手権は悔しさの連続だった。1年生のときは県予選決勝で“宿命のライバル”市立船橋に敗北。2年生だった2017年は夏のインターハイで優勝すると、選手権出場を果たし、決勝戦まで勝ち進んだ。しかし、前橋育英(群馬)に敗れ準優勝に終わった。最後の選手権を終えても、「(失点は)自分たちの甘さが出た」「自分たちの代で優勝したかった」と、最後の最後まで悔しさが滲み出ていた。
新たな戦いの場はJリーグ
それでも、関川は強烈なインパクトを残した。センターバックながら今大会では決勝戦のゴールをはじめ、計3得点を記録。その全てが得意のヘディングで叩き込んだものだった。身長180cmと特段大きくはないが、強靭なバネを活かしたジャンプから繰り出すヘディングシュートは破壊力十分。高さと滞空時間の長さでは、同世代の選手たちより頭一つ抜けていた。地上戦における対人能力も高く、ロングフィードまで得意としている。
そんな逸材を、Jクラブが見逃すはずがなかった。関川は高校卒業後、鹿島アントラーズに入団する。昨シーズン、植田直道(サークル・ブルージュ/ベルギー)、昌子源(トゥールーズ/フランス)と鹿島の最終ラインを支えてきたセンターバックがチームを離れた。代わって入団する関川にかかる期待は大きいはずだ。
最後に、これからの目標を聞かれた関川は「鹿島で試合に出ることです」と静かに話し、会場を後にした。選手権で経験した悔しさを拭い切ることはできない。昨年20冠を達成した“常勝鹿島”でレギュラーを獲ることも簡単ではない。それでも、全国の舞台で確かな足跡を残した逸材は、悔しさを胸に新たな戦いに挑もうとしていた。
取材・文=サッカーキング編集部
By サッカーキング編集部
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