キックオフ直前、いつものルーティンを行う神戸弘陵学園のDF田平起也 [写真]=森田将義
セレッソ大阪への入団が内定している神戸弘陵学園のDF田平起也(3年)には、前後半の始まりに欠かさず行う儀式がある。選手11人で円陣を組んで気合を入れると、そのままの流れでチームメイトとハイタッチ。守備陣とはグータッチを交わし、定位置につくとユニフォームのエンブレムをグッと掴み、目を閉じる。Aチームで試合に出始めた3年生の春から行うルーティンで、「今着ているこのユニフォームに誇りを持っている。チームの一番大事なエンブレムに手をやり、自分の頭を整理してから試合に入っている」と理由を明かす。
今年の神戸弘陵は仲が良い代で、選手それぞれがチームに並々ならぬ愛着を抱いているが、田平の想いは人一倍強い。「この仲間でプレーできるのも選手権が最後なので、1日でも長く皆とプレーしたい。そのためには、まず自分が楽しむのを大事にしている」と話す通り、人生初の大舞台にも関わらず堂々としたプレーを続ける原動力になっている。
明秀日立と激突したこの日も存在感は抜群だった。前半は、ロングボールを徹底した相手の攻撃を持ち味である競り合いの強さで跳ね返し続け、「ヘディングは僕の強みで、絶対に負けてはいけない部分。今日は競り負けなかったので、違いは出せたと思う」と胸を張る。もう一つの特徴である左足で対角に入れるフィードは、田平がボールを持ったら左のウイングバックが引き気味の位置を取るなど警戒された。だが、立ち上がりにあえて見せ球としてロングフィードを放り込むことで相手のラインを下げ、自陣でパスを繋ぎやすい状況を作るなど工夫を凝らした。蹴り合いにならず、神戸弘陵らしいパス回しで自分たちの土俵に持ち込めたのは、彼を中心としたDFラインのおかげだと言っても過言ではない。
プロ内定選手としての実力を示す一方で、2点リードで迎えた後半は逆転を狙った相手に押し込まれる時間が増えた。後半12分にはクロスからヘディング弾を決められ、明秀日立にゴールを献上。試合終了間際には、バイタルエリアでのこぼれ球に対する反応が遅れ、目の前で打たれたシュートを決められた。2試合連続での2失点とあり、悔しさは強い。
「立ち上がりに先制出来て、1-0で折り返せたのは良かったけど、後半の苦しい展開で失点してしまった。そこで3点目を獲れたのも良かったけど、最後にまた失点したのは反省点。CBで試合に出ると失点ほど悔しい物はない。試合に負けるくらい悔しいし、2失点目はスライディングすれば間に合いそうだったけど、出足に遅れて股下にボールが通って行った。勝った嬉しさはあるけど、そこが心残り」
失点続きの守備は改善点ではあるが、前向きに捉えれば県予選からずっと1点差の勝利を掴めている点はプラス材料。「1点差で勝てているのは厳しい試合を勝ち抜けているということ。チームとして勢いに乗れる。今まではプリンスリーグで勝てていなくて、苦しい展開になると気落ちしていたけど、跳ね返せるようになって自信がついてきた」というチームとしての勢いは確かだ。
3回戦では、3人ものプロ内定選手を揃え、優勝候補の一角と目される帝京長岡高と激突する。特にU-18日本代表でチームメイトになったFW晴山岬(3年、FC町田ゼルビア内定)とのバトルは、勝敗の行方を左右する大きなポイントで、「マッチアップしたら抑えたい」と意気込む。神戸弘陵のプライドと胸に背負って戦うからには、まだ負けるのは早すぎる。次戦以降も田平は最終ラインで存在感を示し、勝利に導くつもりだ。
取材・文=森田将義
By 森田将義