[写真]=野口岳彦
今年度の選手権は“怪物ルーキー”の活躍抜きには語れない。松木玖生。一躍その名を全国に轟かせた正真正銘の大物だ。1年生で青森山田の“7番”を背負い、スタメンとしてピッチに立つ――、これだけでも十二分にポテンシャルの高さを表しているが、この男はそれだけにとどまらなかった。
初の選手権で大会の“顏”に
青森山田中学から進学すると、実力を買われレギュラーに抜擢された。“チーム力”をテーマに掲げたチームの中核を担うと、青森山田はユース世代最高峰の舞台、高円宮杯プレミアリーグEASTを制覇。そして、名古屋グランパスU-18と対戦したファイナルでは、2-2で迎えた後半、松木が得意の左足でゴールを奪うとこれが決勝点に。同世代の強豪を次々と撃破し、「日本一」の称号を勝ち取った。
迎えた自身初の選手権。初戦となった米子北(鳥取)戦でチーム初得点を決めると、続く富山第一(富山)との2回戦では2得点をマーク。さらに、帝京長岡(新潟)と対戦した準決勝では、決勝ゴールを決めて、チームを2大会連続の決勝戦へと導いた。
ダブルボランチの一角、またはインサイドハーフを任されると、縦横無尽の動きで攻守に奮闘。最終ラインからボールを引き出すと、サイドへの展開やドリブルで前線へと持ち上がりチャンスを演出。フィル・フォーデン(マンチェスター・C)を参考にしているというゴール前への飛び出しや、空中戦にも長け、セットプレーからでも得点できる強味がある。守備では1年生ながら当たり負けしないフィジカルを誇り、青森山田らしい球際の激しさで、攻撃の芽を摘み取る。
選手権で挙げた計4得点は、堂々の得点ランキング2位(1位は静岡学園・岩本悠輝と四日市中央工・森夢真の5得点)。大会の“顏”の1人として、選手権を大きく盛り上げた。
期待を物語る「次期エース」の背番号
静岡学園(静岡)との顔合わせとなった決勝戦は、2-0とリードを奪いながら3失点を喫し、大逆転で連覇を逃した。勝ち越しゴールを奪われた場面、間接FKからフリーでヘディングシュートを許してしまった。松木がマークしていた選手だった。
「自分がマークを外してしまった。本当に申し訳ない…」(松木)。試合後、静かにそう話し肩を落としたが、まだまだ“先”がある。
青森山田の“7番”は1年生が背負うには重すぎる番号かもれない。かつては今年度の主将を務めた武田英寿(浦和レッズ入団内定)をはじめ、檀崎竜孔(現北海道コンサドーレ札幌)、郷家友太(現ヴィッセル神戸)らが2年次に背負ってきた番号で、後に彼らは全員“10番”を託された。今では「次期エース」の番号として知れ渡った背番号は、何よりも松木に対する期待値の高さを物語っている。
同じく1年で7番を背負った柴崎岳(現デポルティーボ)と比較する声も挙がるほどで、レギュラーに抜擢した黒田剛監督も「松木は度胸があると思います。柴崎も1年生から試合に出ていましたが、彼が1年の時より肝が据わっているし、体もできている」と一目置く存在だ。
「来年は10番を付けてチームを引っ張る」
「伝統的な番号を付けさせてもらったからには、それに恥じないプレーをしないといけない。多少のプレッシャーはあったけど、選手権で少しは期待に応えて貢献できたと思う。来年は10番を付けてチームを引っ張っていける選手になりたいと思います」
キャリア初の選手権で大活躍し、準優勝。失点に絡んだとはいえ、たった一度のミスを挫折というにはあまりにも酷な気がするが、苦い経験として心に深く刻まれたことは間違いない。それでも、「気持ちを整理して、常に勝ちにこだわってプレーしていきたい」とすでに次を見据えている。
「玖生は学年関係なく引っ張ってくれる」とは新チームのキャプテン候補、DF藤原優大(2年)の言葉。敵味方関係なく物怖じせず、チームリーダーとしての自覚も十分。1年生にして完成した印象すら抱かせるが、同時に、残り2年の高校生活でどこまで化けるのか、楽しみを与えてくれる選手だ。
1年生で出場した選手権は最後の最後で“あと一歩”が届かなかった。だが、リベンジのチャンスはまだある。来年度の第99回大会、さらに、3年生で迎える第100回大会も、この怪物から目が離せない。
取材・文=編集部
By サッカーキング編集部
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