[写真]=土屋雅史
「我々は“主体性”や“自主性”をずっと育んできていたので、ウチにとっては絶対にプラスだろうなと感じていたんです。『俺たちってこの時のためにこういうことをやってきたんじゃないの』って」。佐藤実監督はこう言って、胸を張る。堀越が9年を掛けて積み上げてきた選手主導の“ボトムアップ”方式。今回の選手権予選では、その真価がしっかりと発揮されたシーンがあった。
1つ目は準決勝。この2年間に渡って、ほとんどの公式戦に出場してきたセンターバックの馬場跳高が、開始早々に負傷。前半7分での交替を余儀なくされる。選手たちに動揺が走り掛ける中、チームの総指揮官とも言うべきキャプテンの日野翔太は、冷静に状況を把握していた。
「一応“リーダー”の中でも誰がケガしても誰を入れるかは考えていたので、交替は素早くできたなと思います。馬場がケガをしたのはハプニングでしたけど、準備はできていたので、自分の中では焦りというのはあまりなかったですね」
すぐさま五十嵐翔を馬場のポジションに投入して“手当て”を施すと、チームは前半だけで3ゴールを叩き込み、結果は4-1の快勝。1年前に敗退を突き付けられた西が丘のピッチで、グループとして成長した姿を披露した。
2つ目は決勝。前半に先制したものの、後半は押し込まれる展開の中で、終了間際に同点弾を許してしまう。勝利目前での失点。守備の中心である井上太聖は「実際に言うと『ヤバいな』という気持ちのほうが勝っていました」と正直な感情を振り返る。だが、キャプテンはやはり冷静に状況を把握していた。
「もし引き分けだとしてもPK戦がありますし、ウチのGKの平野がPKに強いことを考えると、我慢してPK戦へ持ち込むところもゲームプランとして持っていたので、残された3分くらいで流れをしっかり断ち切って、ちゃんと整理して延長戦に入るということは考えました」。明確なプランの元、「絶対失点はなしだぞ」という共通理解を11人で再確認する。
直後の後半アディショナルタイム。日野が決勝ゴールをマークし、劇的な優勝を堂々と手繰り寄せる。素晴らしいリーダーと、その思考を十分に理解しているチームメイトたちで築き上げた信頼の絆が、全国への出場権を獲得したことで、より強固になったことは言うまでもない。
掲げた目標はベスト4。「すぐに決めた目標でしたけど、はっきりしているので、まずは初戦からやるべきことをしっかりやって、勝ち続けたいと思います」と日野。29年ぶりに全国へ帰ってきた紫のユニフォームが、大会の主役へ名乗りを上げる。
【KEY PLAYER】FW尾崎岳人
気持ちのいいストライカーだ。頭でも、足でも、それこそ体でも、どこでもいいからゴールへ押し込もうという想いがプレーに透けて見える。その上、大事な試合で結果を出してしまうのだから、相手にしてみれば何ともタチが悪い。
チームメイトには若松隼人という最強の“ライバル”がいる。1トップのポジション争いは熾烈。選手権予選でも1回戦と2回戦はスタメンの座を譲った。ようやく出場機会を得た準々決勝では、チームが5-0と大勝しながらノーゴール。その心中は容易に想像できる。
だが、ゴールの女神は重要な局面で微笑みかける。準決勝。仲のいい馬場跳高が前半開始早々に負傷退場し、彼の想いも背負った中で「今まで取ってきたゴールの中で一番うれしかった」という先制点をマークし、快勝への口火を切ると、決勝でも2試合続けてのゴールを記録。ストライカーとしての仕事を全うし、優勝に貢献してみせた。
小学3年生の時に市立船橋の和泉竜司(現鹿島アントラーズ)が活躍する姿を見てから、憧れ続けてきた夢の舞台。「FWなので、自分が点を取って絶対にチームを勝たせたいですし、そのイメージはできています」。坊主頭がトレードマーク。一撃必殺。尾崎岳人の躍動が堀越躍進のカギを握る。
取材・文=土屋雅史