[写真]=松尾祐希
上田綺世(鹿島アントラーズ)を擁して選手権に出場してから早4年。鹿島学園は近年、明秀日立に主役の座を奪われ、最後に全国舞台へ出場したのは2017年のインターハイまで遡る。しかし、今予選は序盤から攻撃陣が好調を維持し、準決勝以降は1点差の接戦を制して出場権を勝ち取った。
例年と比べ、パワーに秀でたチームとなっている。推進力のあるボランチの大澤昌也(3年)がゲームを組み立て、186センチのエゼ・トベチク(3年)と180センチの菊谷大地(3年)が最前線でフィジカル能力を生かしたポストワークで攻撃の起点になる。予選全4試合で複数得点を奪い、計18ゴールを挙げた、どこからでも得点が狙えるアタッカー陣の存在はチームにとって心強い。一方の守備陣もサイズに恵まれた選手が多い。CBの遠藤聖矢(3年)、瀬口雄翔(3年)はともに185センチで、右SBの荒木駿輔(3年)も183センチのサイズがおり、一戦ごとに安定感も増してきている。
今でこそ結果を残しているが、立ち上げ当初は組織力に難があるチームだった。そんな彼らを変えるきっかけになったのが、2月上旬に現在の3年生のみで実施した海外遠征だ。以前からスペインで合宿を張っていたが、2017年6月にラ・リーガのビジャレアルと提携。今年度もスペインの強豪クラブに修学旅行も兼ねて現地に赴くと、選手たちは世界基準のサッカーに触れた。そこで最も自分たちに足りないと感じたのが、「自ら考えて行動すること」(主将・遠藤)。スペインの選手は主体的に動き、自分たちで状況に応じて戦い方を変えていた。もちろんプレー面でも多くの刺激を受けたものの、メンタリティーの違いが選手たちに多くの影響を与えたのは言うまでもない。その遠征を振り返り、遠藤はこう話す。
「自分から率先してやらないといけない。個人レベルが上がれば、全体のレベルも上がる。そのためには『自分がしっかりしないといけない』という意識が出てみんなが変わった。3年生の意識が変わると、1、2年生もそれについていかないといけないと感じてくれて、チーム力がどんどん上がっていった」
帰国後はチーム内で活発に議論が起こるようになり、自分たちで問題を解決する姿勢が見られるように。新型コロナウイルスの感染拡大によって6月下旬までの4カ月間はトレーニングができなかったが、活動再開以降は練習や試合で起こった問題点を徹底的に話し合い、課題の組織力も大きく改善された。
スペイン遠征を機に生まれ変わった鹿島学園が、久しぶりの選手権で目指すのは過去最高成績の4強入り。険しい道のりではあるが、この1年で積み上げてきたチーム力を持ってすれば不可能ではない
【KEY PLAYER】FWエゼ・トベチク
FWに転向して約3カ月。コンバート当初はサッカー人生で初めて最前線で起用されたため、「FWとしてどうプレーしていいかわからなくて、戸惑いながらプレーすることが続いた」。だが、仲間に助言を求めながら、FWの動きを学習。ボールの引き出し方や背後への飛び出す動きのコツを掴むと、瞬く間に才能が花開いてストライカーとしての地位を築き上げた。
ナイジェリア人の父を持つエゼの武器は、体の強さを生かしたポストプレーと豊富なシュートバリエーション。明秀日立との予選決勝では身体を張ったボールキープで攻撃の起点になると、延長戦で値千金の決勝ゴールを奪った。
セレッソ大阪U-15でプレーした中学時代はU-18への昇格を逃し、「自分の中でも上がれないだろういうのは分かっていたけど、言われたときは本当に悔しかった」。あれから2年。FWで新境地を拓いた男にとって、今回の舞台は自身の成長を確認する場であり、全国レベルの相手にどこまで戦えるかを知る場でもある。選手権でさらに経験を積み、ブレイクスルーを果たせるか。伸びシロ十分の9番は自らの可能性を示すべく、貪欲にゴールを狙う。
取材・文=松尾祐希