日本高校選抜候補経験のある小屋諒征 [写真]=森田将義
3年ぶり11度目の出場となる佐賀県立佐賀東高校は今でこそ九州地域を代表する強豪の一つだが、約20年前の01年度に蒲原晶昭監督が赴任してきた当時は、試合をこなしていくのがギリギリという部員数というチームだった。志高い智将の指揮下で目覚ましい成長を遂げたチームは、成績面でも上昇していくのだが、当初から目を惹いたのはそのサッカースタイルだった。
「蹴って走る」傾向の強かった九州にあって、ボールを繋いで運んでいくポゼッションスタイルを早くから志向。部が目標とするサッカー選手像として掲げられる以下の3箇条は、蒲原監督の目指す方向性をよく表している。
1.『テクニック』「時間とスペース」をコントロールできる
2.『状況判断』攻守にわたり、何が「正しい」のかを考える
3.『的確なポジション』攻守にわたり、各々が状況に応じて的確なポジションをとる
蒲原監督就任後の佐賀東が勝利と栄光ばかりに彩られているわけではないが、蒲原監督は公立校ゆえの難しさを抱えながらでも、「しっかりと選手が判断するサッカーをしたい」という信念を曲げずに貫き、多くの指導者に影響も与えてきた。日本高校サッカー選抜の監督に推されたのも、そうした積み重ねが評価されたからだろう(コロナ禍の影響で活動ができなかったため、前年度に続いて今年度も継続して務める)。
今年のチームも基本的な志向は変わらない。高さやパワーという面で高いモノを持つ選手は少ないが、スキルの面を鍛えられてきた選手たちが連動してボールを運び、ピッチの幅を活用しながら相手ゴールへ迫るのが基本軸。日本高校選抜候補にも選ばれた打開力を備えるFW小屋諒征ら個性のある選手たちを組み合わせつつ、全国での旋風を狙う。
県予選決勝では2年連続で敗れていた新鋭の私立校・龍谷を延長線の末に撃破。佐賀の覇権奪還に成功しているが、県タイトルで満足ということもないだろう。今年もきっと「佐賀東らしく」戦うのは確定的だが、その上でさらに勝利という果実をもぎ取りに行くこととなる。
【KEY PLAYER】MF吉田陣平
一目で分かるユニークな発想力と仕掛けの意識の高さ、どん欲な姿勢が光る佐賀東の期待株。全国大会に向けても重要なキーパーソンだ。
今年2月の九州高校サッカー新人大会、途中出場で暴れていたこの選手にすぐさま目を奪われた。話を聞いてさらにビックリしたのは、何と3日前にフランスから帰国したばかりだったということ。昨年から試合に絡んでいたものの、「このままではダメだと思った」と一念発起。今年1月に単身でフランスへの短期留学をしてきたと言う。
もともとは新潟県の選手だが、「自立したかったので県外へ行きたかった」という冒険心と挑戦マインドにあふれたタイプであり、フランス行きも勢いで決めたと笑う。県新人大会の真っ最中での渡欧を認めた蒲原監督の度量にも驚いたが、それだけに本人のその成果をピッチで出すという意識の高さにも驚いた。
フランスではコンタクトプレーの激しさと絶対的な身体能力の差にあらためて驚かされたと言い、蒲原監督は体を張って戦うプレーに関して大きな変化があったことを認める。元よりテクニックには定評があり、ドリブルでの切り崩しとスルーパスを得意とする選手だったが、攻守でよりアクティブなプレーが加わった。
ボランチでの経験が豊富でその位置で先発する可能性もあるが、本人が「イニエスタとメッシ」を挙げるように、トップ下から前の位置へ出て行っての仕事を好む。ボールを動かすことにこだわるチームは「動かすだけ」になってしまう罠に陥りがちだが、吉田がそこに変化とダイナミズムを注ぎ込む。
取材・文=川端暁彦
By 川端暁彦