準決勝で対戦する山梨学院(上)と帝京長岡(下) [写真]=オフィシャルサポート
第99回全国高校サッカー選手権大会の準決勝が9日に埼玉スタジアム2002で行われる。12時5分キックオフの第1試合では11年ぶり2度目の日本一を狙う山梨学院(山梨)と、2年連続ベスト4進出の帝京長岡(新潟)が対戦する。
この一戦の注目は帝京長岡の多彩な攻撃を、山梨学院の組織的な守備がどう封じ込めるか、にある。
帝京長岡のシステムは『4-4-2』だが、攻撃時は両サイドバックが高い位置を取り、川上航立(3年)と三宅凌太郎(2年)のダブルボランチが連動してスペースを埋めながら、ビルドアップをしてくる。注目選手は多くいるが、“攻撃の帝京長岡”において重要な存在になっているのが、川上と2年生CB松村晟怜だ。
ともに共通しているのがビルドアップの能力が高く、ボール奪取力をはじめとした守備力も高いということ。川上は攻撃陣にタレントを揃えていた昨年度のチームにおいてアンカーを任されており、鋭い危機察知能力でスペースを埋めたり、最終ラインに入って指揮を執ることもできる。松村は181センチの高さを持ち、正確なフィードを武器に最終ラインから攻撃の起点になれる選手。彼らが縦の連携を取りながら、中央を固めつつも、積極的に攻撃に関与していく。
2人の脇を固める選手たちも戦術眼に優れており、左サイドバックの桑原航太(1年)はボランチからCBまでこなせる守備のマルチロール。右サイドバックの佐々木奈琉(2年)はずば抜けたスピードを持ちながらも、「縦への推進力だけでなく、サイドハーフ、CB、ボランチとの距離感が大事なサッカーなので、サイドでボールロストをしても数的優位に立てることを考えながらプレーしています」と、状況に応じて武器を使い分けている。
佐々木は2回戦の履正社戦ではCBとして出場。3回戦の神戸弘陵戦はボランチの三宅がCBに入り、佐々木は本来の右サイドバックに。右サイドハーフの廣井蘭人(1年)がトップ下に入り、FW酒匂駿太(3年)が右サイドハーフに入るダイヤモンド型『4-4-2』の布陣を採用した。
松村の相棒がなかなか決まらないのが今大会の不安要素だったが、準々決勝の市立船橋戦では笠井冠晟(1年)がCBとして安定したプレーを披露。彼の台頭に加え、3回戦で負傷しために準々決勝は出場を回避した10番のFW石原波輝(3年)も「準決勝には間に合うと思う」と古沢徹監督が語ったように、よりベストに近い布陣で挑めることになりそうだ。
対する山梨学院は相手の特長を消すことがうまい印象を受ける。安定感抜群のGK熊倉匠(3年)、184センチの“空の番人”CB一瀬大寿(3年)、ボール奪取が光る谷口航大と石川隼大の2年生ボランチコンビ、ボールキープ力に秀でたトップ下の野田武瑠(3年)、ポストプレーが得意のFW久保壮輝(3年)とセンターラインにタレントを配置しているのが特長だ。役割分担がはっきりとしており、守備をしながらも奪った後の展開もしっかりと頭に描けている。
そのベースにあるのが就任2年目の長谷川大監督だ。母校である秋田商の監督を17年間務め、神奈川大学と山梨学院大で指揮した長谷川監督は、「僕がずっと大学でやって来たことを高校でも機能させていく」、「攻守の切り替えを大事にして、相手の攻撃のベクトルをコントロールをしていくことを大事にして、状況に応じた距離感を保ちながら、チームとして『何を捨てて、何を捨てないか』を共有した」と高度なグループ戦術をチームに落とし込んだ。
ボールホルダーに対し、縦パスを出させないことを第一優先とし、横と縦のスライドからFWへのパスの供給を遮断。横パスを出させてサイドに追い込み、数的優位を作ってボールを奪い取り、さらに奪ったボールをトップ下の野田、最前線の久保に当てて、一気に前向きなサポートを展開して分厚いカウンターを繰り出す。
「局地戦で負けないことを大事にしている」
昌平戦後に長谷川監督が語ったように、この試合もまさに勝負を分けるポイントとなるだろう。帝京長岡の正確なビルドアップからの攻撃が勝るか、山梨学院の連動したプレスと素早い攻守のトランジションが勝るか。両チームの駆け引きが詰まった局地戦に注目だ。
文=安藤隆人