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激闘の末の決着…勝利への執念実った“横綱”青森山田、立ち向かった米子北の見事な粘り

2021.08.23

丸山(右)のヘッドが劇的決勝点に [写真]=安藤隆人

 2年ぶりの開催となったインターハイのファイナルは劇的な幕切れとなった。初優勝が懸かる米子北と、16年ぶりの優勝を狙う青森山田。ともにファイナリスト経験のある両者の戦いは最後の最後で決着がついた。

「どこも『打倒・青森山田』で来る。それを受け身にならずに戦わないといけない」

 青森山田の黒田剛監督は大会前、こう語っていた。まさにユース年代の横綱である青森山田に対して、どんな相手も「自分たちの現在地を知るチャンス」と言わんばかりにあらゆる策を講じて、ときには捨て身で挑んでくる。毎試合プレッシャーを受けながらも、彼らは今大会、圧倒的な数字で勝ち上がってきた。

 3-0、8-0、8-0、5-2、4-0。これは青森山田の1回戦から準決勝までのスコアだ。

 なんと5試合で28得点2失点。28得点は大会新記録だ。完全包囲網を敷かれながらも、この圧倒的な戦いぶりは、横綱であることを誰もが認める結果だ。

 一方の米子北は苦戦の連続だった。初戦は帝京を相手に後半アディショナルタイムで追いついてのPK戦勝利。2回戦は東海大山形に2-1の逆転勝ち、3回戦は日章学園に0-0からPK戦で勝利し、準々決勝は神村学園に3-1。そして準決勝の星稜戦はアディショナルタイムに追いつかれるも、その直後に勝ち越すという劇的な展開で3-2の勝利。勝負強さを発揮し続けて勝ち上がってきた。

 決勝はその粘りが青森山田を苦しめた。「相手の特長はセットプレーなので、そこをどれだけ嫌がらずに対応できるかがポイントだと思っていました」と米子北キャプテンのCB鈴木慎之介が語ったように、青森山田の左SB多久島良紀のロングスローに対しても、ニアで競るFW名須川真光らに自由を与えず、相手エース松木玖生やプロ注目の右FW藤森颯太の精度の高いCKも弾き返し、セカンドボールの争いで上回った。

©Takahito Ando

 10分には米子北が高速カウンターを繰り出して、2年生FW福田秀人の突破をCB三輪椋平が倒して、PKを獲得。これを攻守の要であるMF佐野航大が沈めて、青森山田が今大会初の先制を許す展開となった。

 刻一刻とすぎていく時間。米子北の硬いブロックに手を焼く青森山田はなんとか突破口を見出そうとした。だが、米子北もただ引いて守るのではなく、相手がボールを下げた瞬間に全体を押し上げて、前線からのハイプレスを仕掛けると、奪ったボールを佐野がドリブルで運んだり、サイドに素早く展開して2トップを裏に走らせるなど、非常に洗練されたカウンターを繰り出したことで、青森山田を後ろ向きにさせる時間を増やした。

 ついに“横綱陥落”かと思われた試合終了間際の69分、青森山田は左サイドでボールを持ったMF小原由敬のクロスをゴール前でCB丸山大和が体を捻らせながら頭で合わせると、ディフレクションをしてゴールに吸い込まれた。

 土壇場の同点弾。だが、ここで米子北は折れなかった。

 延長戦に入ってもロングスロー、CKで自由を許さず、前からのプレスとブロックを使い分けて、互角の戦いを演じて見せた。しかし、PK戦濃厚かと思われた延長後半アディショナルタイム4分。青森山田は左CKを得ると、「ここで絶対に決めるぞ!」とキッカーの藤森が声を上げると、選手たちもそれに呼応した。

 この瞬間、ベンチから戦況を見つめていた黒田剛監督も“予感”を覚えていた。

「瞬間的に『このコーナーがラストプレーだな』と言うことは分かっていた。米子北のベンチからも『ノータイム!』とPK戦を望む声が聞こえてきたので、逆に『絶対にこれで決める』と思いました。昨年度の(選手権決勝の)山梨学院の試合もよぎったし、正直『PKの順番を決めようかな』と思いましたが、『決めたら負けだ!PKになってから考えよう』と思った。それはスタッフも選手たちも一緒で、絶対に決めると思っていた。それこそ我々が積み上げてきたものだと思います」

 この言葉通り、藤森が放ったキックをニアに飛び込んだ丸山がドンピシャヘッドで合わせて逆転弾。歓喜のダッシュを始めた瞬間にタイムアップのホイッスルが鳴り響いた。

©Takahito Ando

 あまりにも劇的な逆転勝利で、青森山田が2度目の夏の王者の座を手にした。丸山を中心に歓喜の輪ができる一方で、ゴール前にいた松木はその場でうずくまり、号泣した。一昨年度、昨年度と2度の選手権ファイナルに進みながらも、準優勝に終わった無念がついに実った。

「本当に勝ちたかったし、負けるとは思っていなかった」と松木が語ったように、全員が勝利を信じて疑わなかったからこそ、勝ちきることができた。一方で米子北の戦い方は見事の一言だった。試合後、黒田監督は米子北をこう称えた。

米子北さんの徹底度が違いましたね。2トップのスピードもそうですし、セカンドボールを確実に拾ってくる。仲間を信じて、チームのやるべきことを信じて、それを徹底してくる。これが怖さでした。1発のチャンスに対する彼らの執着心を感じたし、後ろの人数はどんな時も減ることはなかったし、最後のところもチャレンジ&カバーを徹底してきた。本当に素晴らしいチームでした」

©Takahito Ando

 決勝にふさわしい激闘で幕を閉じたインターハイ。最後は青森山田が横綱たる所以を見せつけたが、新型コロナウィルス感染症拡大の中で、いろいろな制限を受けながらも最後まで全力で戦い抜いた選手たちに心から拍手を送りたい。

 大会中、「周りの人たちの協力のおかげで僕らはサッカーができることに感謝をしたい」と多くの指導者、選手が口にした。サッカーをすることが当たり前ではない中でサッカーを通じて学んだことをこれからに活かすべく。意義あるインターハイとなることを願って。

取材・文=安藤隆人

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