宮崎日大戦で2得点の川谷凪 [写真]=宮地輝
プロ内定4人を抱える静岡学園だが、第100回全国高校サッカー選手権大会1、2回戦とスタメン出場を果たせなかった選手がいる。清水エスパルス内定のMF川谷凪は、右ウイングの座を2年生ドリブラーの髙橋隆大に奪われる形で大会に入った。初戦の徳島商戦で60分に高橋に代わって投入されるが、2回戦の近大和歌山戦では出番なし。勝ち上がるチームとは裏腹に苦しい状況だったが、3回戦の宮崎日大戦でついにチャンスが巡ってきた。
会場のフクダ電子アリーナに到着後、スタメンを川口修監督から告げられると、一度は緊張が走ったが、「ここでできなかったらそれ以降出られない。後がないからこそ、全力でやるだけ」といい意味で割り切ることができた。さらに自分のやるべきことにも冷静に目を向けられたことが試合で大きくプラスに働いた。
髙橋は1、2回戦と大きくスタンドを沸かせた。157センチと小柄な体格だが、一たびボールを持てば無双状態。切れ味鋭い切り返しと、ボールが足にくっついているようなドリブルは、対峙しているDFからすると無闇に飛び込めず、かといって間合いを開けておくとパスとドリブルを自由に選択させてしまう。厄介なドリブラーとして相手にとっての脅威になっていたが、ベンチで見つめる川谷には「かなり悔しかったけど、僕はボールを持ちすぎると奪われてしまう。それは高橋の方が上手い」と髙橋を認めつつ、危機感が募っていった。
では、髙橋とは違う持ち味をどう出すか。そう考えていた時に、スタメンのチャンスが巡ってきたのだった。
「僕の目の前にあったのは、上手い選手か、結果を残す選手のどれを取るかの二択でした。髙橋が上手い選手なので、僕は結果を残す選手を選ぶだけでした」
髙橋と同じプレーはできないからこそ、ゴールという結果で示す。覚悟が決まったことで、チャンスをしっかりと手中に収めた。
宮崎日大との一戦、開始早々の2分に左からのクロスに対してファーサイドから強烈なダイレクトボレーを放った。これはバーを直撃したが、いきなりビッグチャンスに絡んだことでリズムが生まれた。5分にはドリブルからチャンスメイクをすると、9分には右サイドを突破したMF菊池柊哉の折り返しをFW松永颯汰が繋ぎ、最後は川谷がダイレクトでゴール左隅に突き刺した。
角度の厳しい位置から、力みのない抑えの効いたファインシュートだった。「角度のないところからのシュートが得意で、角度がキツくてもコーナーに決められる。それは前日練習でも、今日のアップの時でもイメージをしてやっていました」と、まさに準備をしてきたからこそ生まれたゴールだった。
これで完全にスイッチが入った川谷は、ドリブルよりもポジショニングの妙でボールをスムーズに動かす起点となると、ワンタッチプレーを増やしたことで、リズムチェンジにも一役買った。
チームはゴールを重ね、4-0で迎えた35分には再び川谷が左からの折り返しを左足で蹴り込んで自身2点目。後半も髙橋とは違う持ち味を発揮し続け、8-0の圧勝劇に大きく貢献をした。
試合後、「最高の準備ができたかなと思います。ゴールが見えたら狙うことを意識しました」と話す表情は明るかった。悔しさを力に変えた男が見せた笑顔は清々しいものがあった。だが、レギュラー争いに勝ったとは言えないことは自身がよくわかっていた。
「出た時に最高の準備をして臨むことが自分の仕事なので、スタメンか途中かわからないですが、結果を出すだけだと思っています」
今大会、自分が進むべき道は決まった。J1内定選手というプライドは一旦捨て、レギュラーを目指し続けた下級生時代のように目の前の競争に打ち勝ってチームに貢献する。川谷の目はさらなるぎらつきを見せている。
取材・文=安藤隆人