初の選手権の舞台でも、この喜びの輪が見られるか [写真]=森田将義
中辻喜敬監督が大阪の中学校教員から転身し、今年で8年目。急速度でチームとしての成長を続けてきた福岡県の飯塚が初めて選手権までたどり着いた。
チームが晴れ舞台を掴むまでは様々な変異を辿って来た。就任した当初は県大会に出ても初戦で敗れる弱小チームだったが、ドリブル主体のテクニカルなチームに育て、阿部龍月(元ラインメール青森)ら強化を始めた1期生が最終学年を迎えた2017年には選手権予選でベスト4まで進んだ。「就任から3年で何かを起こさない限り、チームとしての可能性はないと思っていた。マグレみたいな勝ち上がりでしたが、あいつらがベスト4になっていなかったら、今の僕はない。彼らが僕の人生を変えてくれた」(中辻監督)。
九州では異色なスタイルでの勝ち上がりによって、人の流れも変わり始める。テクニックに自信を持つ選手が増え始め、2020年には後方から徹底してパスを繋いで相手を崩すスタイルにチャレンジ。川前陽斗(高知ユナイテッドSC)、高尾流星(ガイナーレ鳥取)など後のJリーガーを擁し、初の全国大会出場に向けた手応えは十分だったが、選手権予選は準決勝で東福岡に1-2で敗れた。指揮官は「僕の中では0-10で負けたぐらいの感覚でした」と振り返る。
「戦術とテクニックだけで全国に行けると思っていた」(中辻監督)これまでのスタイルを見直し、昨年からは戦術とフィジカルをミックスさせた現在のスタイルへと移行していく。「0-10の差を埋めるために信念を捨てようと思った。自分は元Jリーガーでないし、すごいわけでもない。だから誰かから学ばないといけない」。そう口にする中辻監督は、横浜F・マリノスユースのフィジカルコーチを務める藤野英明氏に協力を仰ぎ、フィジカルを徹底して鍛え始めた。
取り組み初年度の昨年度はインターハイ初出場を手にしたが、選手権予選は決勝で再び東福岡に敗れた。今年は決勝で敗れたインターハイ予選の結果を踏まえ、夏休みにフィジカルトレーニングと通常トレーニングを交えた4部練習を10日間に渡って実施。選手が「地獄でした」と声を揃える猛特訓によってスピード、運動量が格段に良くなっていった。狙いについて中辻監督はこう口にする。「0.01秒をどう埋めるのかを1年間やってきた。0.01秒が埋まることによって、15センチが埋まる。15センチ詰められたらボールが指先に触れる。30センチ詰められたら奪えている。0.01秒にこだわってやることを、ずっとこだわってやってきた」
自陣からボールを大事にしながら、ゴールに向かっていくスタイルは以前と大きく変わらない。変化が見られるのは失った後で、前線から素早く相手を追い掛け、力強く奪い返す。1試合通じて、そうした泥臭い作業で相手を上回れるのが、今の飯塚の強みだ。予選で大活躍したエースのMF池田悠夢(3年)、主将のDF片山敬介(3年)といった上級生だけでなく、U-16日本代表のDF藤井葉大(2年)など下級生のタレントもいる。初出場とはいえ侮ってはいけない。上位候補の一つであるのは、間違いない。
取材・文=森田将義
By 森田将義