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初出場の芦屋学園、“芦学魂”を植え付けて全国切符獲得 「全員がエース」のチーム力で初勝利を

2022.12.27

選手権初出場となる芦屋学園 [写真]=森田将義

 INAC神戸レオネッサの立ち上げに携わった許泰萬(ホ・テマン)監督が芦屋学園の指揮官に就任し、今年で11年目。高校選手権での優勝経験を持つ滝川第二を筆頭に、数多くの強豪が揃う兵庫県を勝ち上がり、初出場を掴んだ。

 本格強化が始まったのは、許監督就任3年目の2014年。芦屋大の監督である金相煥(キム・サンファン)氏が構築したプレーの原理・原則を「サンファン・メソッド」として附属の芦屋学園高、中学年代の下部組織「芦屋学園FC」で共有し、“チーム芦学”として強化を進めてきた。同時に、メンタル面も“芦学魂”として強く意識させてきたのも大きなポイント。「ハツラツと戦う時の芦学は強い。逆境になった時の芦学は強い。チームのために戦う芦学は強い。これが10年の伝統としてある」。許監督がそう口にする通り、ひた向きにゴールと勝利を目指す姿勢はどのチームにも負けていない。

 そうした芦学らしさによって順調にチーム力を高め、本格強化2年目の2015年は選手権予選で準優勝。2019年には新人戦を制し、初タイトルを掴むとともにインターハイ予選で準優勝も果たした。今年の3年生は、そうした上昇気流に乗る芦屋学園に憧れた選手ばかり。「2歳上のお兄ちゃんとともに、高校サッカーの全国大会に出るという親の夢を叶えるため、芦屋学園を選んだ」と口にするヴィッセル神戸U-15出身のFW出口遼人(3年)を筆頭に、各ポジションに実力派が揃う。彼らの多くは、2年生だった昨年から主力の座を掴んだが、インターハイ予選、選手権予選ともに準決勝で敗れた。最終学年を迎えた今季は、新型コロナの影響で新人戦を辞退せざるを得なかった。

 力はありながら、なかなか全国への切符が掴めない芦屋学園の転機となったのは、ベスト16で敗れたインターハイ予選。試合後にはメンタルトレーナーが「どういう感情だった?」と尋ねると、選手たちは「勝ちたい気持ちが強かった」と声を揃えた。それに対してトレーナーは、「みんな(勝ちたいという)感情に支配されていたよね。プロでも勝つためにやるべきことがあり、そこに意識を向けられるか大事なんだ」と語りかけたという。

 迎えた選手権予選は「勝利にこだわり過ぎていない」(許監督)ことが、芦屋学園の強みになった。勝利を最優先に考えるのではなく、選手一人ひとりがチームのためにやるべきことをやった結果が、勝ち上がりに繋がった。準決勝後に監督が「優しすぎて勝負弱かったけど、悔しい想いが多すぎて鍛えられた」と笑ったように、これまで積み重ねた想いも選手の力になったのは間違いない。また、全員がやるべきことをやれるため、誰が試合に出ても力が落ちないチームに成長したのも特筆すべき点だ。出口頼みの印象が強かった昨年までとは違い、今年は「全員がエース」(許監督)という精神がチームに根付いており、日替わりヒーローの登場が初出場の原動力になった。

 初戦で対戦するのは、同じ初出場の日体大柏。激戦区である千葉県を勝ち上がったチームとあり、簡単には勝てないのは理解しているが、負けるつもりは毛頭ない。「初出場らしく、思い切って自分たちらしく戦おうと思っている。力の差はあると予想していますが、サッカーは何が起こるか分からない」(許監督)。予選同様、芦学魂でやるべきことをやれば、結果がついてくるはずだ。

取材・文=森田将義

By 森田将義

育成年代を中心に取材を続けるサッカーライター

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