ベスト8で激突する前橋育英(上)と大津(下) [写真]=佐藤博之
101回目の全国高校サッカー選手権大会は1月4日に準々決勝を迎える。この8強でぶつかるのは、青森山田(青森)と神村学園(鹿児島)、佐野日大(栃木)と岡山学芸館(岡山)、東山(京都)と日体大柏(千葉)、そして前橋育英(群馬)と大津(熊本)である。
中でも最注目は夏の王者・前橋育英と前年度準優勝の大津の一戦だ。前回大会も同じ準々決勝で激突し、大津が激戦の末に1-0と勝利。前橋育英の徳永涼主将(3年)は「違うチームでの結果だと思っているけれど、忘れてはいません」とリターンマッチに向けての思いを隠さない。熱戦は確実だろう。
戦力的に優位にあると見られているのは、夏の全国高校総体を優勝し、そこからの上積みも感じさせている前橋育英だろう。徳永主将を軸とした攻守の切り替えスピードは大会トップクラスで、「ハント」の号令一下で仕掛ける奪い返しの強度は3回戦で技巧自慢の昌平(埼玉)を圧倒したほどだ。
伝統的な持ち味である個々の技術レベルに裏打ちされた機動的なパスワークも健在で、SB山内恭輔(3年)らによる効果的なオーバーラップ、FW山本颯汰(3年)ら攻撃陣の動き出しの良さと合わせ、止め切るのは困難だ。
また今季の高円宮杯プレミアリーグEASTでは山田耕介監督が「降格も覚悟しないといけない」と厳しく戒めるほどの危機的な状況に陥った時期もあったが、このときに選手同士が「よく喧嘩してくれた」(山田監督)ことが奏功して、チームワークのレベルは一段向上。今大会に向けて仕上がった印象もある。
藤枝東、浦和南、東福岡、国見、そして青森山田に続く史上6校目の“夏冬連覇”も射程内に入ったようにも見えるが、ここに立ちふさがるのが8強唯一の公立校でもある大津だ。
個々のタレント性、地力の高さは間違いない大津だが、今大会に入ってからのチームパフォーマンスは決して高いものではない。初戦の浜松開誠館(静岡)との試合では、苦手とする先行される流れから「拾わせてもらった」(山城朋大監督)形でのPK戦勝ち。続く日本文理(新潟)戦では緊張も取れていたが、前へ前へとシンプルなスタイルを貫徹する日本文理に苦戦する時間帯も目立ち、3-0の大差ながら「反省点は多い」(山城監督)試合内容だった。
ただ、彼らの本領が発揮される形でなかったという面もある。高円宮杯プレミアリーグWESTでの戦いを重ねる中で「ウチの得意な形」(FW小林俊瑛主将/3年)として確立されたのは、相手にボールを持たせる形である。「スピードのある選手が多いので、後ろにスペースができるチームのほうがやりやすいのはある」と山城監督も認めるとおり、相手を自陣に引き込んでいく戦いに活路を見出すのは得意とするところ。「Jユースの上手いチームを相手にしてきたので」(小林主将)、前橋育英のテクニックや連動性に戸惑うこともない。
U-17日本代表の大型DF碇明日麻(2年)、同GK西星哉(3年)を軸とした守りから、U-19日本代表の大型FW小林という明確なターゲットマン、そして「スピードのある選手が揃っている」(山城監督)という攻撃陣を押し出して勝機を狙うこととなりそうだ。不安材料は攻守の要であるMF浅野力愛(3年)の出場停止だが、これについて山城監督はシステム変更も示唆。5バックもあるかもしれない。
個性やスタイルの違うチーム同士がバチバチと競い合うのが高校サッカー選手権の醍醐味だが、幾多のプロ選手、日本代表を輩出してきた両校の激突は、過去の因縁も相まって、ちょっと特別な試合となりそうだ。
取材・文=川端暁彦
By 川端暁彦