東京都予選Aブロックで優勝し、初の選手権出場を決めた早稲田実業 [写真]=土屋雅史
「声で繋がって、プレーで繋がって、ということは大事にしています」
キャプテンを務める西山礼央(3年)は、笑顔でそう言い切った。初めての全国高校サッカー選手権大会に挑む東京都Aブロック予選王者の早稲田実業。彼らを貫く絶対的なキーワードは『繋がり』だ。
率直に言って、その躍進を予想した人は多くなかっただろう。春の関東高校サッカー大会東京予選は2回戦で敗退。インターハイ東京予選にいたっては初戦で姿を消している。ただ、「あそこで少し頭を冷やしたというか、『相手がどこであろうとも優勢になることはないんだ』と、『きちっと地道なサッカーをやらないとダメなんだ』ということがわかったと思います」と森泉武信監督が話したように、悔しい敗戦を突き付けられたチームは改めて自分たちのスタイルを見つめ直す。
根幹になるのは、守備での『繋がり』だ。最終ラインには根本渚生、若杉泰希、中嶋崇人(いずれも3年)と3人のセンターバックが並び、右に荒木陸(3年)、左にスミス聡太郎(2年)のウイングバックを配した5バックはとにかく強固。その網を漏れてきたシュートには、守護神の高村裕(3年)が立ちはだかる。
「僕らは1人で行っても止められないところもあるので、とにかく声で繋がって、さらに声やカバーの部分で周りと繋がって、味方と関わることは徹底してやっています」と口にする若杉を軸に据えたディフェンス陣は、予選全5試合で無失点を達成。その堅守へ大きな自信を得ることに成功した。
加えて見逃せないのが、攻撃での『繋がり』。最前線には圧倒的なキープ力と推進力を併せ持つエースの久米遥太(3年)がそびえ、得点感覚に優れた1年生ストライカーの竹内太志とパートナーを組む。中盤は逆三角形の底で岩間一希(3年)がチームを支え、インサイドハーフの戸祭博登(3年)と西山は攻守にハードワークし続ける。
選手権予選の準決勝も決勝も、基本的に守る時間が長い展開を強いられながら、奪ったゴールはいずれも流れの中からきっちり崩したもの。準決勝では中盤でのボールカットから、西山の右クロスに竹内がボレーで合わせて、決勝点をマーク。迎えた決勝でもキックオフ直後に右サイドで久米が時間を作り、上がってきた荒木のクロスから岩間がミドルシュートを放つと、最後は竹内が丁寧にプッシュして、わずか開始32秒で先制。2点目も荒木の右クロスから、上がってきたスミスのシュートのこぼれ球を、西山が豪快にゴールへ叩き込む。
「個人の力は他のチームと比べて、そこまでないと思いますけど、横の選手との『繋がり』はすごく意識しています」とは西山。守って、守って、セットプレーという勝ち方ではなく、少ないチャンスを確実に生かし切る攻撃の集中力と決定力も、トーナメントでは間違いなく大事な武器になる。
そして、何より重要なのは人の『繋がり』だ。西山は東京制覇を成し遂げた瞬間の想いをこう語っている。
「サポートしてくれた人たちへの感謝、部員やOBの方々への感謝というのが真っ先に頭の中に浮かんできて、その人たちの期待に応えられる試合をした上で、結果という面でも表現できたのが本当に良かったなと思いました」
創部55年目でようやく掴んだ全国への切符。決勝の舞台となった味の素フィールド西が丘には少なくない数のOBが、後輩たちの奮闘を後押ししようとスタンドへ詰めかけていた。試合後の優勝インタビューで声を詰まらせた森泉監督は、その理由を「ちょっと泣くのはカッコ悪いなと思っていたんですけど、たまたま卒業生がユニフォームを着ているのが目に入って、彼らがすごく喜んでいたのを見て、ウルッと来てしまいましたね」と明かす。彼らは多くの人の想いを背負い、それを明確な結果に繋げてきた。
開幕戦の舞台は国立競技場。歴史的な選手権の“デビュー戦”という意味では、これ以上ないぐらい最高のステージだろう。
「自分たちにできるのは、自分たちの戦い方を発揮して、愚直に、堅実に、一つひとつやることだと思うので、東京都大会と同じで一戦一戦に集中して、一歩ずつ勝ち上がっていけたらなと思います」(西山)
守備で繋がり、攻撃で繋がり、スタンドと繋がるマインドは、それが全国のピッチであってもきっと変わらない。愚直に、堅実に、一歩ずつ。『繋がり』にあふれた早稲田実業の選手たちが国立で躍動する姿が、今から楽しみだ。
取材・文=土屋雅史