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「ケンさんと一緒に日本一を!」 2023年の帝京長岡を支える川上健コーチの圧倒的熱量

2023.12.27

帝京長岡を支える川上健コーチ[写真]=土屋雅史

 今年の帝京長岡のテクニカルエリアには、基本的に“ケンさん”が立っている。谷口哲朗総監督でもなく、古沢徹監督でもなく、“ケンさん”が持ち前の大声をいつだって張り上げている。

 高校時代には自らが率いるサッカー部の生徒として、今はともにチームを支えるコーチングスタッフとして、20年近く“ケンさん”と関わり続けてきた谷口総監督の人物評が面白い。

「本当に熱量を表現できるヤツだし、バカ正直と言えば、バカ正直なんだけど、とにかくストレートなヤツなので、選手も『裏切られないな』と思えますよね。僕もそう思っているし、本当に信用できます。大人にはなかなかいないタイプだよね」

 その総監督は、今季のトップチームの指揮を“ケンさん”へ任せることになった経緯を、こう語っている。

「スタッフ陣もみんなステップアップが必要な中で、変な言い方だけど『一番頼りないヤツを一番上に置いちゃえば、みんな頑張るだろう』と(笑)。でも、オレらが持っていないものは間違いなく持っているし、足りないものが多ければ多いほど、みんなで手助けできるだろうというところもあって、ある意味ギャンブルではあったんですけどね」

 今年のチームの『10番』を背負う原壮志(3年)も、“ケンさん”の新たな役割を聞いた当初は、意外な印象を受けたそうだが、シーズンが進むにつれて、その存在の大きさを実感している。

「戦術的なところも、もちろん大事なんですけど、気持ちのところですごく勇気を与えてもらえるというか、ケンさんは試合前のミーティングもすごく情熱を込めたことを言ってくれるので、自分たちも熱くなれるんです」

 オープンマインドゆえに、思ったことを口にする“ケンさん”と衝突した時のことを、原は少し気まずそうに教えてくれた。

「ケンさんは選手との距離が近い部分があるんですけど、一回自分は言われたことに反抗して『うるさい!』と言ってしまって、バチバチになりました…。でも、一回やり合ったことで、そこからは、よりケンさんを信じて付いていけましたし、ケンさんがしっかり心を開いてくれたから、そこに自分たちも乗っかってこれて、ケンさんと一緒に成長してきた感じがあるんです」

 正面からぶつかり合って、理解し合って、ともに前へ進んできた。その過程で生まれた絆が、強くならないはずがない。

 今季の帝京長岡は、近年でも有数の結果を残してきている。7年ぶりにインターハイ予選と全国高校サッカー選手権大会予選の新潟県内2冠を勝ち獲ると、12月の高円宮杯プレミアリーグプレーオフも逞しく2試合を勝ち抜き、悲願のプレミアリーグ初昇格を達成。新たな歴史の扉をこじ開けた。

 とりわけ過去5度にわたって跳ね返され続けたプレーオフの勝利には、谷口総監督も「オレがあがいても、古沢があがいてもダメだったプレーオフで、あっさり2回勝ったからね(笑)。それはやっぱりアイツが持っているんでしょう。選手の良い部分を引き出す力はきっとあるんだろうなと思いますよ」と言及。何かを起こすだけの不思議なパワーを“ケンさん”が持っていることは、結果からも着実に証明されつつある。

 「今年のチームは本当に夏以降に良くなっている感じなんです。だから、気持ちを込めて付き合えば、いろいろな形で育っていくんだなって。それは改めて学ばせてもらっていますね」と谷口総監督も“ケンさん”から新たな学びを得たことを明言しており、ここまでの“ギャンブル”は大成功を収めていると言っていいだろう。

 残された大会は選手権のみ。今まではベスト4進出が最高成績の帝京長岡にとって、さらにこのチームの歴史に名を刻むために、必要な結果が何なのかは、選手たちも十分すぎるほどわかっている。原はきっぱりと言い切った。

「今年はインターハイも選手権も県予選を突破できて、プレミア初昇格も決められて、ケンさんのおかげもあっていろいろな歴史を創れているので、最後に選手権も勝って、ケンさんを国立で胴上げしたいですね」

 最強のムードメーカーにして、テクニカルエリアを熱源に染め上げる元気印。“ケンさん”こと、川上健コーチの大声は、その舞台がいつもの練習グラウンドであっても、たとえ国立競技場であっても、選手たちの心の奥深くまで、熱く、熱く、届いていく。

取材・文=土屋雅史

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