選手権を経てベルギーへ渡る吉永夢希(15番) [写真]=兼子愼一郎
世代屈指の左サイドバックとして大きな注目を集める神村学園(鹿児島)のDF吉永夢希が、第102回全国高校サッカー選手権大会の舞台に登場した。
神村学園は2023年12月31日に行われた同大会の2回戦で、松本国際(長野)と対戦。両チームにとっての今大会初戦は、最終的に2-0で神村学園の勝利に終わったが、チームを率いる有村圭一郎監督が「らしくないプレーが多かった」と振り返ったように、神村学園にとっては課題も見える一戦となった。
左サイドバックとしてフル出場した吉永も、自身のパフォーマンスを「全然でした」と振り返る。確かに、吉永の持ち味である圧巻のスピードを活かした攻撃参加や、そこから放たれる高精度のクロスボールは見られなかった。チームは完封勝利したものの、吉永が自身に下した評価は厳しいものだった。
「前半は何もできていないですし、クロスでも味方と合わない部分が多かったです。しっかりと改善して、次の3回戦ではアシストをしたいと思います」
神村学園の左サイドは、FIFA U-17ワールドカップインドネシア2023で日の丸を背負った吉永とMF名和田我空によって構成されている。本来、左サイドからの攻撃はチームの大きな強みであるが、同試合では右サイドからの崩しで2得点。試合後に有村監督は「サイドバックは攻撃の起点になる選手たちです」と胸を張りながらも「右サイドのコンビはすごく頑張ってくれましたが、左サイドのコンビが良くなくて。本当は逆なんでしょうけど」と語っていた。
吉永も「左サイドには我空と自分がいるので、そこでしっかりと崩していけるというのはチームとして1つ武器なのかなとは感じています」と、これまで積み上げてきた名和田との連携に自信を示している。一方で、松本国際戦のパフォーマンスにフォーカスすると「我空とのコンビネーションがうまくいかず、課題が残りました」と納得できていない様子だった。
もちろん、“優勝候補”と目される中での初戦ということでプレッシャーがあったことは想像に難くない。「初戦が大事だということは常に言われていました。その部分で硬さはあったかもしれません」と話しただけでなく、「選手権という大舞台で、緊張もあり、(名和田とのコンビネーションを)出せない部分もありました」とも認めている。だが、このままの状態で選手権の戦いを続けるわけにはいかない。「そこは今日で慣れた」と笑顔を見せた吉永は、3回戦に向けて「僕だけでなくみんなも慣れたと思うので、次からはしっかりと神村学園らしいサッカーを見せたいと思います」と意気込んだ。
いわゆる“普通”のパフォーマンスでも周囲が満足できなくなっている背景には、前述のU-17ワールドカップでの活躍や、高校卒業後の進路(※吉永はベルギーのヘンク加入が内定)の話題性もあるだろう。「多くの人からそういう目で見られると思いますし、海外に行くのであればそれに相応しい活躍をしないといけないと思っています」。このように言葉を発した吉永は、U-17ワールドカップの経験を経て「大事な試合で仕事をしないと意味がない」という考えが強くなったという。
だからこそ、自身最後の選手権では、神村学園を日本一へ導きたい。前回大会の吉永は主力として全試合にフル出場したが、FW福田師王(現:ボルシアMG)やMF大迫塁(現:セレッソ大阪→いわきFC)らを擁したチームは、PK戦の末に準決勝で岡山学芸館(岡山)に屈した。吉永は「去年は国立で負けてしまって、日本一を目の前で逃してしまいました。そこが1つ、日本一になりたいというモチベーションになっています」と明かすと、「自分は選手権で日本一を獲ってから海外に行きたいと思っています」と力強く語った。
1月2日に控えた3回戦では、前橋育英(群馬)を2-0で下した神戸弘陵学園(兵庫)との対戦が決まっている。『等々力陸上競技場』にて行われる次戦では、今日のようなパフォーマンスを繰り返すわけにはいかないだろう。「しっかりと自分らしいプレーをしたい。自分は得点やアシストが全国大会では記録できていないので、次の試合からはそこにもこだわっていきたいです」。決意を新たにした吉永の選手権は、まだ始まったばかりだ。
取材・文=榊原拓海