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「マラドーナはすべて…」“天才”小野伸二が語る自身のルーツ

2016.06.17

 ディエゴ・マラドーナの出現以来、アルゼンチンの人々は彼のような選手が再来することをひたすら待ち望んでいる。

 アリエル・オルテガ、フアン・ロマン・リケルメ、パブロ・アイマール、アンドレス・ダレッサンドロ……何人もの選手が“マラドーナ2世”と呼ばれ、彼のようなプレーを見せてアルゼンチンをワールドカップ優勝に導くことを求められてきた。今、その称号はリオネル・メッシに受け継がれたが、彼もいまだに世界の頂点には君臨できていないという点で、真の“後継者”にはなり得ていない。

 アルゼンチンに限らず、世界中に彼の名を冠した選手が存在する。“東欧のマラドーナ”ゲオルゲ・ハジしかり、“砂漠のマラドーナ”サイード・オワイランしかり、華麗なプレーを見せた選手は、みなマラドーナにたとえられてきた。

 日本も例外ではなく、創造性豊かな何人もの選手が“和製マラドーナ”と呼ばれてきた。その称号が最もふさわしい選手は、実は小野伸二なのではないだろうか。

 利き足は違うが、繊細なボールタッチや創造性に満ちたプレー、何より「見る者をワクワクさせてくれる」という部分において、小野伸二とマラドーナは大きく共通している。

 小野自身も、幼少期にテレビで見たマラドーナのプレーに強い影響を受け、それを原体験として後のプレースタイルを作り上げてきたという。

 “和製マラドーナ”小野伸二が、今なお憧れ続けるマラドーナへの強い思いを語ってくれた。

インタビュー=小松春生
写真=大橋泰之

「この人のプレーをずっと見ていたい」と思いました

最初にマラドーナの存在を知ったのはいつですか?

小野伸二 1986年のメキシコ・ワールドカップですね。テレビ中継を見ていたのが最初だと思います。そこでマラドーナという選手を知りました。

どのようなインパクトを受けましたか?

小野伸二 ボールを持った瞬間にワクワクしたというか、小さいながらも「この人のプレーをずっと見ていたい」と思いましたね。ドリブルもそうですし、パスにしても想像しているものと違うというか、意表を突かれるようなパフォーマンスを見せてくれる。それで見ている人に楽しいと思わせたり、「サッカーをやりたい」と思わせたりしてくれる。そんな選手って、なかなかいないと思います。

テレビ画面にかじりついて見ていたんですね。

小野伸二 当時はまだ幼かったので、細かいことまでは覚えていませんが、そんな感じだったんじゃないかな、とは思います。

そこから、マラドーナのプレーを参考にするようになったのでしょうか。

小野伸二 参考に、というより、マラドーナのように楽しくサッカーをやりたいな、と思っていました。

僕の“原点”

当時の小野少年は、どのようなサッカー小僧だったのでしょうか。

小野伸二 負けず嫌いで、とにかく毎日、暗くなるまでボールを蹴っていましたし、どこへ行くにもボールと一緒でした。

マラドーナの幼少時代と共通する部分がありますね。

小野伸二 僕も裏路地みたいなところでミニゲームをやったり、壁に向かって1人で延々とボールを蹴ったりしていましたから、そうかもしれませんね。

成長段階でマラドーナという選手と出会って、参考にしたことはありますか?

小野伸二 参考にしたというわけではないですが、「この人みたいになるためには、毎日もっとトレーニングしなきゃいけない」と思うようになりましたし、それまで以上にサッカーが好きになりました。

キャリアを積み重ねていく中で、小野選手の中ではずっとマラドーナがトップの存在ですか?

小野伸二 そうですね。そこはずっと変わらないです。ちょっと表現が難しいですけど、例えば今の時代にマラドーナがいても、絶対に順応すると思います。当時は現代サッカーほどのハイプレスはなかったと思うので、一概には言えないですけど、でもマラドーナが現代にいたとしても、スーパースターであること間違いないと思うし、世界一の選手だと僕は思っています。

今でもマラドーナのプレーをご覧になることはありますか?

小野伸二 機会があれば見ますね。やはり僕の“原点”でもあるので、見ていると幼い頃を思い出しますし、「もっと頑張らないといけない」と感じます。

サッカー選手としてはずっと変わることなく世界一

マラドーナのプレーの中で、一番に印象に残っているプレーは何でしょうか?

小野伸二 難しいですね……。リアルタイムで見たプレーを鮮明に覚えているわけではないですし、ビデオを見れば素晴らしいプレーばかりで、そのすべてが印象的ですので。

一般的には“神の手”、“5人抜き”といったところが最も印象的だと思います。

小野伸二 確かにその2つは印象深い部分ですけど、それ以外にも本当にすごいドリブルをしていたり、思いがけないようなパスを出したり。シュートのアイデアも飛び抜けていました。ボカ・ジュニアーズにいた時のプレーは特に突出していて、本当に遊んでいるように見えました。

ヨーロッパに渡ってからは、“負”の部分も目立つようになってしまいました。

小野伸二 彼の名声を利用するためにいろいろな人が近付いてきたと思うし、そういった誘惑から彼を守れる人もいなかったと思います。人間としては世界一とは言えないですけど、僕はそれを抜きにしても、サッカー選手としてはずっと変わることなく世界一だと思っています。

「ペレかマラドーナか」「リオネル・メッシかマラドーナか」という、永遠に答えが出ないような議論がありますし、「比較することがそもそもナンセンス」という声もあります。

小野伸二 プレースタイルもそれぞれ違うと思いますし、ペレさんは、僕自身は実際にプレーを見たことはないですけど、“王様”と言われるくらい、当時はすごい選手だった。どの選手も、同じぐらいの地位にいるんじゃないかな、と思います。

今後、日本からマラドーナのようなサッカー史に名を遺す突出した存在が生まれる可能性はあるでしょうか。

小野伸二 可能性はあると思います。香川(真司)がそういうイメージだったんですよね。楽しくて人をワクワクさせるようなプレーをしていたので。だからこの先、絶対に出てこないとは言えないんじゃないでしょうか。小さい頃から海外に行っていたら、もしかしたらその可能性はあるかもしれません。

アルゼンチンは一人ひとりの能力が優れている

現在のマラドーナがどこで何をしているか、ご存知ですか?

小野伸二 知らないです。気になります! 何をやっているんですか?

中東のクラブで監督をし、退任した後は現地の王族と良好な関係を築きながら、悠々自適な生活を送っているという話があります。

小野伸二 そうなんですね。世界中の人々がマラドーナのことを知っているから、きっとどこに行っても良い待遇を受けるでしょうし、そういった意味ではうれしいですね。いつまでもサッカーにかかわりたいという気持ちを持ち続けてほしいです。

小野選手も出場された98年フランスW杯で、日本はアルゼンチンと対戦しました。マラドーナが出場したわけではなかったですが、この時のアルゼンチンに対してはどんな印象を受けましたか?

小野伸二 やっぱりサッカーが本当にうまかったです。南米のどこの国もそうですけど、その中でもW杯で優勝するほどの国なので、一人ひとりの能力が優れているな、と強く感じました。

現在の小野選手にとって、マラドーナという存在はどれくらいの割合を占めていますか?

小野伸二 小さい頃から何も変わらない。憧れの存在です。サッカーであれだけ人を魅了できる選手はこの世の中にいないですから。

マラドーナと会えるなら、スクールの子どもたちを教えてほしい

実際にマラドーナと会う機会があったらどうしますか?

小野伸二 どうしよう(笑)。想像したこともないですね。一度、キリンカップでアルゼンチン代表が来日する予定だったのに、マラドーナが入国できないということでキャンセルになったことがありましたよね(編集部注:1994年大会。マラドーナの麻薬使用歴を理由に、日本が入国を拒否した)。あの時も、試合を見に行こうと思っていたので、すごく残念で。実際に会うとなったら、どんな感じになるかちょっと分からないですね。

例えば1時間話をしていいとなったら、どんな話をしたいですか?

小野伸二 そうですね……。僕と話をするというより、サッカースクールをやっているので、そこに顔を出して教えてもらえたらうれしいな。僕たちもうれしいけど、子どもたちはなかなかそういう人に出会う機会がないと思うので。今の子どもたちはメッシやクリスティアーノ・ロナウドが好きだと思いますが、マラドーナは本当に伝説の選手なので、そういう選手と触れ合うことで子どもたちの気持ちはもっと変わるかな、と思いますね。

今の子どもたちでも、たくさん学べることがありますか?

小野伸二 絶対にあると思います。技術は衰えないので。体型は変わりましたけど、足下の技術は全く変わっていないので、たくさん学べると思います。

マラドーナは僕の“すべて”

もし、マラドーナと一緒にプレーできることになったら?

小野伸二 それ以上にうれしいことはないですよね。間違いない。ワンツーで切り崩したり、楽しいことができそうな感じがします。彼には異次元のイメージがあると思うので、そのイメージをしっかり共有しながらみんなが考えれば、きっといいサッカーになると思いますし、僕自身も楽しめると思います。

マラドーナは現在50歳半ばです。

小野伸二 いや、預けておけばボールは取られませんよ(笑)。動けなくても、ボールを取られなければいいわけですから。2人がかりで来られても、その時はワンタッチでパスを出すだろうし、そういったクリエイティブなプレーが魅力ですよね。

では逆に、相対することになったら?

小野伸二 オーラがすごすぎて近寄れないんじゃないですかね(笑)。近寄っちゃいけないようなイメージですね。

最後になりますが、小野さんにとってマラドーナを一言で表すと?

小野伸二 やはり「サッカーとは?」の答えと同じで、僕の“すべて”ですね。サッカーがなければ今の僕はいないし、マラドーナという存在がいなければ、サッカーを楽しもうとか、世界一の選手になろうという気持ちにはなれなかった。結果として達成はできなかったかもしれないけど、そういう存在がいてくれたおかげで、楽しいサッカーをしながら、見てくれる人を魅了するという部分ではそれなりにやってきたと思うので。マラドーナは僕の“すべて”です。

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By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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