番組レギュラー解説委員を務める岩政大樹(東京ユナイテッドFC)がプロデュースするインタビューコーナー「今まさに聞く!」は、この日のゲストの一人である元日本代表FW鈴木隆行氏にスタジオで直接、話を聞くスペシャル版となった。もう一人のスタジオゲストである石川直宏氏、MCを務めた大杉亜依里副編集長も交えて、鈴木氏の現役生活を振り返った。
大杉亜依里(以下、大杉) まずは石川さん、岩政さんにうかがいたいんですが、現役時代の鈴木さんはどんな選手でしたか?
石川直宏(以下、石川) “仕事人”ですよね。あとは“武士”のイメージが強いかな。あまり多くを語らないけど仕事を果たす。カッコイイですよね。たぶん女性も憧れる存在だと思うんですけど、ただそういうイメージがある隆行さんが(引退試合後の挨拶で)涙を流しているのを見ると、グッときますね。自分も最近、引退を決めたので。
岩政大樹(以下、岩政) 僕はもう(鹿島アントラーズに)入った時にエースでしたし、カッコよくて。でも人間味がたまに垣間見えるというか、そのへんが本当についていきたくなる先輩という印象ですね。
大杉 鈴木さん、ご自身はどんなプレーヤーだと?
鈴木隆行(以下、鈴木) 僕は、相手のDFにすごく嫌われるような選手になろうとずっと思っていましたね。うまさがないのは重々分かっていたので、とにかく嫌がることを常にし続けるという選手を現役時代はしていました。
岩政 鈴木さんと言えば2002年日韓ワールドカップのあのゴール(ベルギー戦の同点ゴール)だと思うんですけど……。
鈴木 そこからかよ(笑)。そこから入るの?
岩政 いや、時間が過ぎてなくなる前に聞いておこうと。ああいうゴールの感触って、ずっとあるものですか?
鈴木 いや、もうないね。正直、思い出しもしない。W杯の時期になってくると、時々あのVTRが出るんだけど、「ああ、そういえばW杯出てたんだ」って思うもん。過去のこととか全く思い返さないし、自分がプレーしていたビデオだったりとか、DVDとか、1本も持っていない。全く興味ない。
大杉 あの試合よかったな、とかもないんですか?
鈴木 ないね、全く。だからよく聞かれるんだけど、本当に何の記憶もない(笑)。
岩政 そうですか。あのゴール僕すごい印象的で、僕ら(岩政と石川)アテネに向けた五輪代表の時にいつもあのゴールの話が出ていたんですよ。鈴木隆行さんのゴール映像を流して、あれって得点が決まったのってほんの数センチ(つま先の数センチで触って決めたゴール)だったじゃないですか。「その数センチのためにお前ら4年間努力できるのか?」って。
石川 (山本)昌邦さんね。
岩政 そう、当時五輪代表監督だった昌邦さんがずっと話をされていて、僕らアテネ世代はそれを聞いてずっと育ったというのがあるので、すごく強烈なんですよね。リアルタイムで。
大杉 鈴木さんよりお二人のほうがあのシーンを見ているかもしれない。
岩政・石川 そうですね、それは間違いない(笑)。
岩政 あれ、よく覚えてるでしょ?
石川 よく覚えてる。あのつま先に触る感覚ってどういう感じだったのかなって。でもそこはやっぱり無心というか、それが隆行さんのプレースタイルというか生き様というか。
鈴木 そうだね、あの時はサッカーをよく分かっていなかったというのもあるけど、とにかくガムシャラにやるだけ、それだけが唯一の武器だったから。
岩政 その感覚って、プロに入る前は、鈴木さんぐらいの才能だったらもちろん周りよりうまかったですよね?
鈴木 まあ、プロに入る前はもちろんそうなんだけど、もう入った時に、鹿島アントラーズに入ってしまったんで、入った時にスタメンが日本代表とブラジル代表しかいなかった。それが普通だと思っていて、正直「こんなに差があるのか」ってずっとショックを受けていたよ。「こんなの絶対プロではやっていけない」って最初は思って。
岩政 そこから最終的に「俺の生きる道はそこしかない」って変えていったっていうことですか?
鈴木 いやまあ、とにかく、どうしていいか分からないけど、ガムシャラにやっていくしかないって。解決方法は分からない。生き抜く方法は見つけられない。考えられないし、とにかくガムシャラにやっていく。手を抜いたらダメだということだけは分かっていたから、若い頃はそういう状況だったよね。
岩政 あのゴールで世界って変わりました?
鈴木 正直変わった。自分の中では。世界を目指そう、世界に出ていこう、ヨーロッパに出ていこうなんて、それほど強い気持ちもなかったけど、あそこで点を取って、取ってというよりも、(W杯に)出たことによって、このままじゃ絶対に上に上がっていけない、代表でも活躍できない、W杯でも活躍できない。ヨーロッパに出て行って、トップのそういう選手たちの中で生き抜いていかないと無理だなって直感して。考え方が変わったので、それはよかった。
大杉 今も海外に行く選手も多いですが、海外でプレーするのは、やるべきだなって思いますか?
鈴木 思いますね。若ければ若いほどいいと思います。正直、サッカーのトップのレベルってヨーロッパじゃないですか。そこにうまい選手も集まってきているし、その中で活躍できないと、当然代表でも活躍できないし、W杯でも結果を出せない。であるならば、やっぱり早い段階でそこに行かないと、なかなか難しいと僕は思います。いろいろ言われていますが、本当に世界を目指すなら、若い頃に行かないと、戦えるメンタルにもならない。日本でいくら頑張っても、成長できない部分はたぶんあると思うんで。Jリーグが頑張ってレベルを上げていくのは当然なんだけど、今の時点では仕方がないですよね。代表クラスに入る選手ならどんどん出て行ったほうがいいかなと思います。
岩政 キャリアの前半部分はいろいろなところに飛び回るように挑戦されて、そこから後半部分ではアメリカに渡ったり、震災などもあって水戸ホーリーホックで長くやられて、チームを引っ張る存在になっていきましたが、そのあたりで自分のサッカー観は変わりましたか?
鈴木 だいぶ変わっていったところだと思います。サッカーだけじゃなく人間的にも変わっていこうと強く思っていた時期だから。昔だったらサッカーだけをやっていればいいんだって思っていたけど、30歳をすぎたぐらいからそれじゃダメだと思って。それで終わってしまったらつまらない人生になってしまうかなと思って。自分の考え方をどんどん変えていこうと。例えばコミュニケーションをしっかり取るようにしようとか、他の選手に気を使ったりとかはどんどん変えていった。
岩政 プロに入った時もそうですけど、自分でどんどん変えていこうと見ている方なんですね。
鈴木 そうですね。常に成長させたいというのは今も思っているし、死ぬまでそうしていきたい。死ぬまで成長、挑戦、勉強していきたいという欲求はすごく強いです。
大杉 ツイッターでは「鈴木選手がいた頃の代表はコミュニケーション不足と言われていましたね どう克服しましたか?」と来ています。コミュニケーション不足だったんですか?
鈴木 いや、仲はめちゃめちゃ良かったです。選手同士がですかね。僕自身がですかね。僕はシャットアウトしていましたから。マスコミの方には申し訳ないですけど。
石川 バスに乗っている時とかも、横にいるのに話し掛けられなかったですもん。たぶん覚えてないと思うんですけど、「いや、ちょっと声かけたいけどな……」って雰囲気が出ていて。
岩政 先日13日に水戸で引退試合が行われました。中村俊輔選手なども参加しましたが、すごく点の取り合いになった試合でしたよね。
鈴木 引退試合の割にはたくさん点が入って、僕自身はすごくよかったと思います。お客さんにもたくさん喜んでいただけたんで。
1月26日(金)21時から放送の『スカサカ!ライブ』では、Jリーグキャンプ情報やトライアウト特集、2018女子サッカー界の展望などを放送する予定となっている。
By サッカーキング編集部
サッカー総合情報サイト