レスター出身『KYTE』フロントマンのニック・ムーン [写真]=野口岳彦
2016年夏イングランドの小さな街で一つの奇跡が起きた。レスター・シティがロンドンやマンチェスターの強豪を抑えてプレミアリーグ優勝を成し遂げたのだ。
日本代表FW岡崎慎司が主力の一人として貢献したことで、日本での知名度も一気に上がったが、実際にレスターに住む人たちはどういったサッカーへの価値観を持っているのか。岡崎慎司をどのようにとらえているのか……。
それは実際にレスターで生まれた人に聞くのが早い! ということで、2007年より活動を開始し、サマーソニックやフジ・ロックフェスティバルなどでもパフォーマンスを披露したUK出身バンド『KYTE』のフロントマンで4月にソロデビュー・アルバム『CIRCUS LOVE』をリリースしたばかりのニック・ムーンに話を聞いてきました。
レスター生まれで、プロサッカー選手を目指していたこともあるという親日家が語るフットボールとは?
インタビュー=小松春生
撮影=野口岳彦、Getty Images
■プロ選手を目指していたけど…
——レスター出身で、サッカーが大好きだとうかがいました。
Nick Moon(以下、Nick) 相当見ているよ。5〜6歳くらいから見るようになって、地域のチームに加入してサンデーリーグでプレーもしたんだ。イングランド人にとってサッカーは全てだからね。
子どもの頃は毎日、放課後に練習していたし、16歳くらいまでクラブでプレーを続けていたんだ。プロ選手という目標もあったけど、大人になっていくほど現実も知ったよ(笑)。イングランドの子どもたちはプロを目指して、みんなサンデーリーグでプレーしている。でも、才能のある選手は12歳くらいまででスカウトに見つかっていくから、他の子は「こんないい選手になりたい」って夢見ても無理だと気付かされて、14歳くらいまでには夢砕かれるんだ。
——選手としてはどんなタイプだったんですか?
Nick 左ウィングバックでプレーすることが多かったかな。攻撃的だけど守備もして。左利きで、レアな存在だったからポジションを取るためには得したね。
——レスターで言えば、クリスティアン・フクスみたいですね。
Nick そうだね。まったく同じだよ(笑)。

レスターの左SBフクス [写真]=Getty Images
——今もプレーはしますか?
Nick 時々するよ。レスターにいる友達とやるんだけど、誰でも参加できるし、フレンドリーな雰囲気なんだ。でも、平日の夜とかにやるから、なかなか人数が揃わなくて、見ることの方が多いかな。
——やはりレスターは心のクラブですか?
Nick それがちょっと複雑なんだ。僕はレスター生まれだけど、家族はレスター出身ではなくて。父はダービー出身だから、レスターのビッグライバルであるダービー・カウンティのファンなんだ。子どもの頃はわざわざ兄と一緒にスタジアムへ連れていかれたよ。しかも、母はニューカッスル出身だから、母方の親戚はみんなニューカッスルのユニフォームをプレゼントしてくれる(笑)。子どもの頃は混乱状態だよ。プレゼントは嬉しいから着て、応援したりして。周りからは「サポートするクラブは一つだけだろ」って言われたけど、難しいよね。子どもの頃はレスターの試合を見られなかったけど、それでも昔から今もレスター出身だし、レスターを応援しているよ。
——ご両親の影響もあったのに、それでもレスターが心のクラブなのは?
Nick 学校の友達がみんなレスターを応援していたし、そのメンバーと一緒にサッカーをやっていたからね。学校ではレスターファンだけど、家に帰ってきた時だけ、ダービーやニューカッスルに声援を送っていたよ(笑)。昔、ウェンブリーでレスター対ダービーがあって、プレミアリーグに上がるための対戦だったんだけど、父と兄で見に行ったんだ。最後の最後でレスターが勝ったんだけど、兄と自分は喜んで、父はものすごく怒っていたよ。
——近年はレスターが優勝した一方、ニューカッスルは降格を経験したり、ダービーは下部に低迷していますね。
Nick 4〜5年前にダービーがあまりにも低迷し過ぎてストレスが溜まって、父はゴルフ三昧の毎日になっちゃったんだ。ダービーについては学校のみんなも、もう相手にしていない感じだったね。
■優勝した瞬間は本当にクレイジーだった
——岡崎慎司選手の影響もあって、日本でのレスターの知名度は上がりました。レスター生まれの人はどういう気質ですか?
Nick 難しいね…。でも、誠実な人、いわゆる“普通”の人が多いかな。一般的なイングランド人で、品が良すぎることもなく、危険な地域でもない。出身地だからバイアスがかかっているかもしれないけど、地に足がついて、格好つけてないんだ。音楽シーンが盛んなわけでもないし、音楽をやっていて、よく「ちゃんと仕事に就け」と言われたりしたけど、そういう堅実なところも好きだよ。
だからこそ優勝した時は、よりスペシャル感があったんだ。マンチェスターとかロンドンのチームのような壮大なチームではないし、お金をたくさんかけられるわけではないからね。あの時は街が一丸となって奇跡が起きたんだ。サッカー界ではなかなかないことだしね。

優勝パレードの様子 [写真]=Getty Images
——優勝した瞬間はどこでご覧になっていましたか?
Nick チェルシー対トッテナムの試合結果で優勝が決まったけど、家でテレビをチェックしていたよ。チェルシーが得点を決めた時は、「これはもうレスターが優勝する」と決まった瞬間だったから、外から車のクラクションがガンガン聞こえてきたよね。ものすごい騒ぎだったし、ミュージックフェスティバルみたいに、飲んでパーティーしたよ!
——優勝した瞬間はどんな感情に?
Nick 本当にクレイジーだったよ。あのシーズンはクリスマスくらいでは、首位でも「いずれ負けるだろ」とみんなにずっと言われていたんだ。街全体も「今だけだよ」みたいなリラックスムードで、逆にそれが良かったと思う。でも、マンチェスター・Cに勝って(2016年2月第25節)、「もしかしたら本当に優勝するかも?」ってみんなが思い始めたら、今度はどう受け止めたらいいのかわからないんだ。現実感がなかったよ。BBCの『Match Of The Day』で司会をしているゲーリー・リネカーが「レスターが優勝したら下着で司会をする」なんて言ったけど、彼もこんなことになるとは思っていなかったはずだよ。「レスターが優勝するかも」となった時から、ジムでワークアウトしていただろうね(笑)。

レスターサポーターが“公約”したリネカーの姿をコラージュに [写真]=Getty Images
——彼は日本でもプレーしていたんですよ。
Nick 知っているよ。彼はレスター出身で、街一番の有名人だし、伝説の存在だよ。実家は青果店なんだけど、彼のお父さんが経営していたんだ。息子がお金持ちなのに、そこで働くことが生きがいで、周囲の人たちも尊敬していたよ。でも、残念なことに昨年亡くなってしまったので、今お店がどうなっているかはわからないんだ。
——日本のサッカーという部分では、レスターでは阿部勇樹選手がプレーしていました。
Nick 音楽活動が忙しくなった時期だったから、試合をちゃんと見ることはできなかったんだけど、情報はしっかりチェックしていたよ。日本でまだプレーしているの? 今度見に行ってみようかな! あと、アンドレス・イニエスタも日本でプレーすることになったんでしょ? すごいことだよね。
——日本人選手では、レスターの優勝に貢献した岡崎慎司選手は外せません。
Nick ファンタスティックプレーヤー! 今シーズンは起用されないことが多かったけど、不思議でしょうがなかった。他の選手だったら、やる気をなくしてしまうような試合になっても、彼は常に100%を出している。エネルギッシュなところが素晴らしいよ。しかも、ここぞっていうところで得点もしてくれる。岡崎とエンゴロ・カンテが200%を常に出していた。ずっと追いかけて、戦って、チャレンジし続けて。優勝したシーズンは特にこの二人が好きだったよ。
■レスターの人たちは岡崎を愛している
——レスターの人たちは岡崎選手をどう見ていますか?
Nick 愛しているよ。レスターのファンは、クラブにワールドクラスが来るとは期待していないんだ。リオネル・メッシが来るとは思っていないけど、岡崎やカンテのようにテクニックがあって、100%の気持ちを込めてプレーする選手、努力を惜しまない選手の姿が、街の精神とマッチしているし、チームにコミットして尽くすタイプが愛される。彼はヒーローだと思うし、ジェイミー・ヴァーディも同じような精神を持っているよね。
——岡崎、カンテ、ヴァーディもW杯のメンバーに入っています。やはり、イングランドに優勝してほしいですか?
Nick もちろん! でも、どうなるかは…。1990年代、特にユーロ96のイングランドは強かったよね。その後はあまり力を出し切れていない。今回も期待はしているけど、スペインやドイツには敵わないかな。特別なことが起きれば、うまくいくと思っているよ。
——イングランドは前評判が高くても、本番ではイマイチという見方が多いですね。
Nick イングランド人も全体的に僕と同じような考えだよ。プレミアリーグは世界中から有数のプレーヤーをお金で連れて来ているから、自国の若手選手が育たない問題が話題なんだ。今のイングランド代表を見ても、輝きを持つ選手は他の国に比べて少ないよね。
——ニックさん個人のことも最後にうかがいます。今後は日本にも拠点を置いて活動するとのことですが、どういったことをしていきたいですか? 僕らはぜひ、Jリーグを見にいって欲しいですね。
Nick 日本では曲作りをしていこうと思っているよ。Jリーグはぜひ見に行ってみたいんだ。イングランドだとサッカーはテレビで観戦しているから、日本でその代わりとなるものを見つけることも目的の一つにあるんだ。イングランドの試合は時差があるし、負けちゃったりしたら、深夜に悔しい気持ちになるからね(笑)。Jリーグはまだ詳しくないけど、いろいろとよく知りたいので、今度ぜひ連れて行ってほしいね!
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By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長