MVP級の活躍で神戸を今季初タイトルに導いた飯倉大樹…「自分は神戸の選手だ」

古巣・横浜FMとの激戦を自らのビックセーブで制した飯倉大樹。今季初タイトルに大きく貢献した

 飯倉大樹は複雑な心境を吐露した。

「(ゴール裏を見るのは)不思議な気分だった。昨年の夏までは日産スタジアムでいつも後半に見ていた景色が、アップの時から逆側に見えたからね。そういうのが摩訶不思議な感じで。マリノスのサポーターの応援を、俺に対してではないんだけど、なぜか俺が受けている気がして。応援や掛け声が『懐かしいな』って感慨深くなった瞬間もあった」

 2020シーズン、最初のタイトルが懸かった試合の相手は、育成組織時代から昨年夏まで在籍した横浜F・マリノス。この大会への出場権を勝ち取った元日の天皇杯優勝後には「戦いたくない」と吐露していた相手だった。

 慣れ親しんだゴール裏の景色が、この日はキックオフ直後から見えていた。それでも飯倉は冷静に、いつもどおりにヴィッセル神戸のゴールを守った、25分のマルコス ジュニオールから中央へ折り返された低い弾道のアーリークロス、62分のスルーパスに抜け出した仲川輝人の左足のシュート、82分の仲川の至近距離からの強烈なシュート、そしてアディショナルタイムのエジガル ジュニオとの1対1。チームの危機を何度も救ったスーパーセーブに、トルステン フィンク監督も「飯倉がいいパフォーマンスを出してくれてうれしかった」と舌を巻いた。

 圧巻だったのは3-3でもつれ込んだ、PK戦でのビッグセーブだ。

 2本目までをお互いにきっちり決めた3本目。エジガル ジュニオが左へ蹴ったボールをしっかり読んで左手でブロックすると、枠外とクロスバー直撃で迎えた6本目。和田拓也が左下隅を狙ったキックをまたしても防いでみせた。

「止めやすかった」と振り返った飯倉だが、それもそのはず。横浜FMの選手とは、数え切れないほどのシュート練習とPK練習の相手をしてきた。選手の特徴やクセを理解しているからこそ、飯倉にはどこか余裕があったのだろう。「蹴る前に目があったり、逆に向こうはやりにくかったと思う」。最初に2本を決められたあとは、一度もゴールネットを揺らさなかった。

 PK戦での9人連続失敗はJリーグ史上初の珍事。その一役を買うことになった飯倉だが、「『なんでこんなに外れるんだろう』と思いながら見ていた」と明かし、「マリノスじゃなかったらメンタルの揺れや変化もあったと思うけど、逆に相手がマリノスだったので常に冷静でいられた」と勝因を口にした。

 これまでは自身のSNSをとおして横浜FMへの思いを明かすことも多かったが、「今日は『自分は神戸の選手だ』ということを、結果で示せたと思う」といつも以上に誇らしげだった。

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