陸上だけでなく、様々な競技のトップアスリートを指導する秋本真吾さん
足の速さは才能だと思っている人は多い。では、「速い」とは何だろう?
男子100m、200mの世界記録保持者、ウサイン・ボルトは陸上界を引退したあと、サッカー選手になることを夢見てドルトムントやセントラルコースト・マリナーズの練習に参加した。しかし、相手DFと駆け引きしたり、ドリブルしたりするボルトの足は“世界最速”ではなかった。
「競技ごとに速いは違う」と、秋本真吾さんは言う。福岡ソフトバンクホークスの内川聖一選手や浦和レッズの槙野智章選手、宇賀神友弥選手に「走り」を教えるプロスプリントコーチは、本当の意味で「速い」を知っている。
元陸上選手の秋本さんは、現役時代にオリックス・バファローズの選手に走り方を教えたことをきっかけに、“走りのプロ”としての活動をスタートさせた。今では幼稚園児からトップアスリートまで、競技を問わず指導している。そして今年4月にはオンラインサロン『CHEETAH』(チーター)を立ち上げた。以前から計画していたというサロン開設には、一体どんな狙いがあるのだろう。
――インタビューの前に『CHEETAH』のHPを見たんですけど、『「速い」を知っている』というキャッチフレーズがなかなかのパワーワードだと思いました。
陸上の「速い」を知っている人はいっぱいいます。サッカーだけ、野球だけ、っていう人もいます。でも、陸上とサッカーと野球の「速い」を知っている人はそこまで多くないと思うんですよね。それ以外にも毎年、年間1万人くらいの小学生を指導しているので、子供の領域における知識や経験も蓄えられています。多くのカテゴリの「速い」を知っていることが僕の価値だと思っています。
――実際に槙野選手を指導されている現場を何度が取材させていただいて、そのなかで印象に残っているトレーニングがあるんです。槙野選手がバックステップを踏みながら後ろに下がり、パッと切り替えて前を向いてダッシュするという。あれってまさにゴール前でFWと対峙しているような動きじゃないですか? 「走り」のトレーニングと聞いて、あのトレーニングを想像できる人はいないと思います。
正直、僕も思いつかなかったです。あれは槙野選手や宇賀神選手と意見交換を繰り返すなかで作り上げていったメニューですね。ヒントをくれるのはプロだけではありません。大学や高校のサッカー部の監督に「この動きはどうですか?」と聞いたときに、「プロならいいかもしれないけど、大学生や高校生には難しい」と返されたこともあります。
――そうやっていろんな人の意見を取り入れながら指導法を改良していくうちに、競技ごとの「速い」が分かってきた。
そうです。それぞれの競技、年代の人の意見から抽出したものをメニューに落とし込んで、バリエーションを増やしていったという感じです。
――教える際の伝え方で工夫していることはありますか? 動きのイメージを共有するのはなかなか難しいと思います。
確かに、最初はかなり苦労しました。初めて指導したのが小学生だったので、専門用語が全く通じなくて。子供たちの表情を見れば、僕の説明が伝わっていないことなんて一目瞭然でした。でも見本を見せたら、子供たちの走りが一気に改善されたんです。ただこれって、僕のコーチングで良くなっているとは言えないですよね。そこからどう言えば小学生に伝わるのかをめちゃくちゃ考えました。
――小学生に伝わる表現なら大人にも伝わりますからね。
そうなんですよ。大人のプロアスリートでも陸上以外の競技だと専門用語は伝わりにくい。「軸って何?」、「重心って何?」となる。小学生の指導を通して、シンプルに分かりやすく伝えられるようになりました。今、3歳の娘がいるので、伝える能力はさらに磨かれると思っています。
――最強の秘密兵器を手に入れた状態ですね(笑)。ここまでの話からも、指導する上で「対面でのコミュニケーション」は欠かせないと感じます。そこで気になってくるのが、オンラインサロンではどこまで秋本さんのコーチングを受けられるのかという点です。
『CHEETAH』では実際に体を動かすようなことはしません。
――え? そうなんですか?
僕が指導するというより、一緒に知識や知見を深めましょう、という場にしています。これまで指導したアスリートたちの動画を交えながら、毎回のテーマに沿って理論を解説していきます。例えば「サッカーのドリブル時の足首の角度について」とか、「野球選手の盗塁時のスタートについて」とか。最新の論文も共有しています。
――「座学だけで速くなるの?」と疑問に思う人もいるのでは?
速く走るためには知識を蓄えることも必要だと思っています。自分のトレーニングや指導法が合っているのかを判断するためにも知識は持っておいたほうがいいと感じています。
――入会されているのは指導者の方が多いですか?
そうですね。次にスポーツ愛好家、学生、プロアスリートという感じです。Zoomを使ってディスカッションするオンラインミーティングはいつも盛り上がっています。これが『CHEETAH』の最大の魅力だと思っていて。
――というと?
成功しているオンラインサロンの共通点にコミュニティの形成が挙げられます。キングコングの西野亮廣さんが運営する『エンタメ研究所』がいい例ですよね。あそこで悩み相談をすれば、西野さんじゃなくても優秀な人たちが勝手に答えてくれる。それを目的に入会する人だっている。だから僕も、サロンメンバーと一緒に「走り」を考えて、競技ごとの「速い」を追求していく場所を作りたいと思ったんです。
――オンラインサロンで月3000円は安いほうだと思います。でも、「走り」を学ぶのに月3000円って……どうなんですか?
「そんなに払うんかよ!」って思う人が多いでしょうね。正直、価格帯に関しては分からなかったんですよ。「3万円くらいじゃない?」と言う人も、「3000円は安い」という人もいました。だったら、まずは僕のことを知ってもらうためにも気軽に入れる価格にしようと。で、いざ入ったときに「値段以上の価値がある」と思わせてやろうと。実際にオンラインミーティングは高い評価をいただいています。
――その理由は何だと思いますか?
一番の理由は、プロのアスリートがミーティングに参加していることだと思います。普通に福岡ソフトバンクホークスの内川選手が参加していますから。
――それはすごい。
僕から入ってくれとは一言も言ってないんです。ある日、「CHEETAHに入りたいんだけど、facebookどうやって登録するの?」って言われて。ああ、この人の学ぶ意欲は本当にすごいなと。実際にプロアスリートも一緒のコミュニティで学んでいて、考え方なども聞ける。それだけで僕は3000円以上の価値をメンバーにもたらしているような気がしています。
昨日は「CHEETAH チーター」メンバーで初のzoomを使ってのミーティングを行いました。20名以上の方が参加していただきました。メンバーの皆さんの意識の高さに刺激をもらいつつ今後も今までにない大きい取り組みを「走り」を通じて実現していきましょう!https://t.co/TBr69aeC9n pic.twitter.com/1p0QUFv0OD
— 秋本 真吾 (@405ARIGATO405) April 12, 2020
――でも、そうやってすでに盛り上がっているコミュニティに途中から入るのはちょっと勇気がいるような……。
そのあたりのケアもしていて、新規メンバー向けの説明会を毎月開き、簡単な自己紹介をしてもらっています。まずは新規メンバー同士でコミュニケーションを取ってから既存メンバーに合流するイメージです。1本20〜30分の講義動画もすべてアーカイブしてあるので、いつでも見ることができます。
――講義と聞いて、90分くらいのガッツリしたものをイメージしていました。
今は多くの人がYouTubeの動画に慣れているので、5〜10分くらいの短尺動画にしようかとも考えたんですけど、有料だからこそ1本の動画の質を高くしたいと思って。20分程度の動画にノウハウをぎゅっと凝縮しています。動画を見たら実際に走りたくなるはずです。
――そういうワクワク感を持てるのはいいですね。私は陸上部だったので、そもそも走ることが好きなんですけど、ほかの競技のアスリートや指導者の方が「走り」をおもしろいと感じるのか疑問で。
ああ、分かります。今年、内川選手のキャンプに帯同したときにティーバッティングをやってみたら、球は当たらないし、手は痛いし、10球でもうやりたくないと思いました(笑)。でも、内川選手の「こういうイメージで打って」という言葉どおりにやってみたら当たるようになった。これって「走り」でも同じで、コツやポイントがない指導はつまらないんですよ。なので『CHEETAH』ではコツをどんどん教えていきます。
――それにしても、「走り」を語り合うって……かなりマニアックな人の集まりですよね(笑)。
それが最大の狙いです。なかにはコミュニティ嫌いの人もいるかもしれないので、そういう人は僕の理論だけ学んで、情報を十分に得たと思ったら退会すればいい。気軽に出入りできるのは、オンラインサロンの良さだと思います。
――オンラインサロン自体に胡散臭さを感じている人もいると思うんですよ。どうせ意識高い系の集まりなんでしょって。
意識の高い人が集まっているのは事実ですし、そういう人たちが日本のスポーツ界を変えていくと思っています。試しに入ってみて、この空気感に耐えられないと思ったら出てもらっていい。アプリと同じで課金したけどつまらないからやめる、みたいな感覚でいいと思います。
――今後のプランは?
先日『CHEETAH Premium』というサービスを始めました。Zoomを使って、僕がマンツーマンで「走り」の指導をする3カ月の限定プランです。そして小学生向けの『CHEETAH』を6月にスタートする予定です。これはコミュニティを作るというより、子供や親御さんたちが一方的に僕の発信する情報をキャッチするもので、速く走るためのノウハウをまとめた約5分の動画を週2回のペースでアップしたり、自宅でできるケアの仕方をレクチャーしたり。
――『CHEETAH』で熱量のあるコミュニティを作ってしまえば、いろんなことができるような気がします。
そういうことなんですよ。例えば本の中身を作ったり、イベントをしたり。最終的には一緒に何かを作り上げたい。そういうコミュニティがまだスポーツの分野にはないので、僕が作っていきたいと考えています。
読者の皆様限定で、走りを考えるオンラインサロン『CHEETAH』で公開された「サッカー選手の初速を高めるために大切なこと」の動画を6月8日(月)から7日間ご視聴いただけます。こちらのアンケートにお答えいただいた方にURLをお送りいたします。
アンケートに回答する
▼「走る」を考えるオンラインサロン『CHEETAH』
https://www.cheetah.tokyo/
▼3カ月限定のマンツーマンのオンラインコーチングサービス『CHEETAH Premium』
https://www.cheetah.tokyo/premium/
2012年まで400mハードルのプロ陸上選手として活躍。オリンピック強化指定選手にも選出。当時200mハードルアジア最高記録,日本最高記録,学生最高記録を樹立。引退後もマスターズ陸上に出場し2018年世界マスターズ陸上において400mハードルで7位入賞。2019年アジアマスターズ陸上において100mと4x100mリレーにおいて金メダルを獲得。引退後はスプリントコーチとしてプロ野球球団、サッカー日本代表選手、Jリーグクラブ所属選手、なでしこジャパン選手、アメリカンフットボール、ラグビーなど多くのスポーツ選手に走り方の指導を展開。年間1万人以上の日本全国の小学校にてかけっこ教室を開催。自身の誕生日である2020年4月7日に「走り」について考えるオンラインサロン『CHEETAH』を立ち上げた。
Twitter:@405ARIGATO405
By サッカーキング編集部
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