2020年8月、現役を引退した内田篤人。Jリーグ、ドイツ、日本代表で活躍した内田がホスト役を務める自身初の冠番組『Atsuto Uchida’s FOOTBALL TIME』がDAZNでスタートした。
ゲストを招きつつ、内田が経験してきた様々なサッカーの捉え方や、試合での細かいポイントを選手目線で伝えていく同番組。
月に1度は、DAZNと10のスポーツメディアで構成される「DAZN欧州組応援部」が、海外組の日本人選手を独自の基準で、「月間ベストプレーヤーズ」として表彰する企画とも連動(内田は、9月10月度に吉田麻也、11月度に鈴木武蔵を選出)するなど、「ヨーロッパで活躍する日本人選手を応援しながらもはっきりと意見していく新番組」として、内田らしさ全開の内容を展開している。
今回はその収録現場にお邪魔し、新たなフィールドでの挑戦を始めた内田に、自身が伝える立場となった変化や今後の展望などを聞いた。
インタビュー=小松春生
■自分の経験を伝えることは楽しい
―――放送回数を重ねるにつれ、どんどん収録がスムーズになっているとスタッフさんが太鼓判を押していました。ここまで振り返って、いかがですか?
内田 自由にやらせてもらっています。台本があって、「今日は○○特集です」「ここでコメントをください」という番組ではなく、自分が取り上げたい試合を見て、「このシーンで○○をやりたい」「ここでボードを使って説明したい」と提案すると、すぐに実行してもらえるので、すごく楽しいです。仕事をしている感はないかも(笑)。
―――さすが、冠番組ですね!趣味の延長のような?
内田 そうそうそう。「こうやったらいいんじゃない?」とみんなで作っていく感じです。明るい雰囲気ですね。
―――8月末に引退されて少し時間が経過しました。ピッチを離れてからはテレビ出演なども増え、生活がガラっと変わったかと思いますが、変化についていけていますか?
内田 楽しいですよ。特にこの番組は自分のやりたいことできるし、「あの時、こうだったな」とか、自分の経験を伝えることは楽しいです。サッカーをやっている人もそうだし、教える側の人にも見てほしいですね。
―――DAZN内での番組になるので、有料契約をしている方が見ています。
内田 詳しい方が見ていると思いますし、番組では海外サッカーを取り上げているので、SNSなどで意見や「こういう場面を特集して!」といったことを視聴者の皆さんも発信してほしいですね。「#フットボールタイム」で募集していますから。皆さんがどう思っているのか気になりますし、みんなで盛り上げたら面白いと思います。
―――サッカーに対するファンの見方も年々深まっている印象です。
内田 だと思います。昔は日本の選手が海外に出ていくことは少なく、僕の頃にバッと出た感じで、今や海外組で日本代表が1チーム組めるくらいになって。もちろん、見る人の目も肥えてきていると思います。
―――サッカーを視聴する時間は増えましたか?
内田 増えました。もちろん、仕事としての部分もありますけど、選手時代は全然見なかった。5分も見ていないですから。ハイライトでいいかなって。1チームの流れを見ながら、ということは伝える側として勉強しないといけないですからね。
■ステップアップで「行く」ことと「活躍し続ける」ことは話が別
―――番組では海外でプレーする日本人選手を中心に取り上げています。発見はありましたか?
内田 海外組同士、互いに意識して切磋琢磨しながら、とは僕も当時思っていたので、僕は今見る側ですけど、やっている人はDAZNを通じてでもいいので、どんどん刺激し合ってほしいですね。発見というところだと、これまでは実際に対戦して「いい選手だな」と思った選手でないと覚えてこなかったので、「あの時ここにいた選手だ!」と気付くことが多いですね。
―――岡崎慎司選手や吉田麻也選手など、内田さんと同世代の選手のプレーについて、自身が話していることに違和感はありますか?
内田 別に、ですね。「頑張ってやっているな」くらいで。いつかはみんな辞めますし、僕が先に上がった、くらいの感じです。
―――内田さんがドイツでプレーした時代よりも、リーグ全体のレベルは少し下がる国にも、日本人選手がどんどん移籍していくようになりました。
内田 本人たちは次のリーグ、次のチームへの意識を持ってやっていると思います。あくまでもステップアップのためで、そこがゴールだとは思っていない。でも、「簡単ではないよ」と。上に「行く」ことはできても、「活躍し続ける」ことは話が別ですからね。
―――番組では、メディアなどの採点を気にする選手、しない選手がいると言っていましたが、内田さんは現在、試合を見て、評価、コメントをしないといけないケースもあります。注意していることなどはありますか?
内田 選手にあまり厳しく言おうとは思わないですね。みんな頑張ってやっているのはわかっていますし、僕らはポンっと試合を見ることになりますけど、そこまでの練習の流れや、1週間前の試合があっての流れもある。見る側である僕らの知らないことがほとんどなので、それを理解した上で「こうやってほしい」とは言いますけど、頑張って勝負している選手に「ダメだね」とは言わないですね。この番組は応援している番組ですから。
―――視聴者の選手に対する見方で考えはありますか? SNSなどを通じて、個人で意見をどんどん言えるようになりました。
内田 選手としては、僕は人の意見を気にしなかったので。自分の居場所は自分で作ってきたつもりでいます。もちろん、それを気にする選手もいるし、他人の意見をまったく見ない選手もいます。その中で、視聴者は何を言ってもいいんです。人として、というところはありますけど、自由に発信できるんですから。正解はないですしね。
―――メディアについてはいかがですか?
内田 今の形でもいいと思います。厳しく言われて調子を崩すくらいだったら、そこまでの選手なので。ただ、久保くんとかの扱いは考えてほしいですね。活躍してから取り上げればいいと思います。「日本を背負って」と言われたりしていますけど、厳しく言えば、まだ何もしていない。であれば、他の国で点を取ったり、守備を頑張っている選手はいます。もちろん、可能性があって、技術もしっかりしている選手ですけど、大きくなる前に、必要以上に取り上げることはないなと。「黄金の中盤」や「ビッグ4」といったキャッチーな言葉があると、みんなが振り向くのはわかりますけど、そういった取り上げ方は選手の時から疑問がありましたから。
■僕はスタジアムで見ることが大事だと思っていきたい
―――番組の話に戻りますが、共演している進行役の野村明弘アナウンサーとの連携面はいかがですか?
内田 めっちゃ、いいです。やりやすいっていう言い方を僕がするのは変ですけど、サッカーは詳しいし、手のひらで転がしてくれるので、ありがたいです。本当にこの現場がすごく楽しいんです。
―――これまでの放送は、お2人での収録もあれば、影山優佳さん、眞嶋優さんというサッカー好きのゲストが来た回もありました。今後呼んでみたい人はいますか?
内田 いろいろなポジションの選手や、旬の選手を呼んで話を聞けたら面白そうですね。
―――今は内田さんがメインで話していますが、たまには少し引いてみて、とか?
内田 たまにパッとホスト役が変わって、話をしたい人にどんどん話をしてもらって、横で「それはそうだけどさー」って言いたいですね。
―――ゲストというところでは、先日、中村憲剛選手が今季での引退を発表しました。個人的には、内田さんと憲剛選手で、イギリス『BBC』のマッチ・オブ・ザ・デイや『スカイスポーツ』が放送しているような、試合後すぐに実際の映像を使いながら解説をするような番組を見たいと思っています。(第8回の放送で中村憲剛はリモートでゲスト出演)
内田 憲剛さんと俺で、ドラフトみたいにJ1の選手を取りあって、なんていう企画も面白いかもしれないですね。僕は感覚でやっていますけど、憲剛さんは言葉で表現できますし、見ている人にも、ちゃんと説明できるくらい考えてやっているから、すごく貴重だと思います。
―――内田さんご自身は、こういった人に伝える仕事をすることになり、言語化することについて、いかがですか?
内田 すごく難しいです。人に教えることも、勉強だなと思いました。
―――例えば、将来指導者になることを見据えた時に、伝えるために言語化が重要だけど、それが大変だと原口元気選手が話していました。
内田 指導者になるということは、言葉で教えることもそうですけど、チームを動かすことになるので、さらにまた別の難しさがあると思いますね。
―――サッカーをはじめとしたスポーツの視聴は、お金を払って見ることが主流となる一方、誰でも見られる地上波のテレビ放送では、『やべっちF.C.』が終わるなどしています。今後、極端に言えばサッカー好きはサッカーだけを見る一方、そうでない人は全く見ない、という世の中になっていくのでは、と感じることがあります。
内田 鹿島も積極的に取り組んでいますけど、5Gの世の中になって、例えばスロー映像とか、選手が何キロ走ったといったデータが、すぐに手元で見れちゃう。となると変な話、何年かしたら、スタジアムに行くが意味ないと思われてしまうかもしれない。「スポーツを現場で見る意味なくない?」って。でも、それは違うなと。僕は伝える側になったけど、やっぱり現場で見るのは面白い、臨場感あるよね、と最後はなってほしいですね。どんなに便利になって、生では見られないいろいろな角度の映像が、すぐに見られるかもしれないけど、僕はスタジアムで見ることが大事だと思っていきたいです。
―――まだ、番組を見たことのない方もいると思います。ぜひ、最後にメッセージを。
内田 サッカーをやる人もそうですが、教える人も見てほしいですね。どういうところを見たらいいのか、選手はこうやって動いている、というところまで、よりわかりやすくはっきりと伝えていきたいです。スローインやセットプレーの特集とか、細かいところも注目しながらやっていきたいので、そこを見ていただきたいですね。あとは、ゲストも呼んで。選手や指導者もそうだし、他の競技の人を呼んでも面白いかもしれない。番組自体は、本当に自由にやらせてもらっていて、そういった面白いことを考えながらやっているので、ぜひ見てもらいたいですね。
新番組『Atsuto Uchida’s FOOTBALL TIME(内田篤人のFOOTBALL TIME)』毎週木曜夜配信
内田篤人初の冠番組!
ヨーロッパで活躍する日本人選手を応援しながらもはっきりと意見していく新番組。
ボードを使っての選手目線カメラではサッカーをやる上でも必要な知識をしっかりと解説。
その他、現役選手とリモート対談するなど、ヨーロッパで戦う選手達の魅力を視聴者のみなさんにわかりやすく伝えます。
By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長