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ナイジェリアから世界のトップを目指す…日本人オーナーが挑戦する未来とは

2022.07.01

イガンムタイガーFC

「日本人がオーナーを務めるナイジェリアのクラブが目指すのはバルセロナ超え」

 一見、突拍子もない壮大なスローガンに思えるが、本気で取り組む人物がいる。ナイジェリア3部に所属するイガンムタイガーFCの共同オーナーである加藤明拓氏だ。

 学生時代はサッカーに打ち込み、ビジネスの世界を経験し、現在はカンボジアとナイジェリアのクラブのオーナーとなった同氏に、ナイジェリアサッカーの現状などを話してもらうとともに、ブロックチェーン技術を利用したクラウドファンディング2.0『FiNANCiE』を提供する株式会社フィナンシェとともに開始した、日本に向けての新たな取り組みなどを語ってもらった。

インタビュー=池田敏明

ユニフォームには日本のスポンサー名も

―――まず、加藤さんご自身の経歴を教えてください。

加藤 サッカーは小学校から高校までプレーし、高校生の時にはインターハイで優勝し、優秀選手に選出されました。その後、一般入試で明治大学に進み、新卒で株式会社リンクアンドモチベーションという企業に入って10年ほど勤めました。そのうち2年ぐらいはスポーツコンサルティング業務、Jリーグの選手たちのモチベーションコントロールの研修などをしていました。そこから独立して株式会社フォワードというコンサルティング会社を作り、2015年にカンボジアのカンボジアンタイガーFC(現アンコールタイガーFC)を買収、翌2016年にナイジェリアのイガンムFC(現イガンムタイガーFC)の共同オーナーになりました。2019年にはサッカー事業をすべて引き取ったうえで会社を売却し、今は「メッシ超え、バルサ超え」をスローガンに掲げてカンボジア、ナイジェリアのサッカークラブを運営するとともに、それを補足するための事業に取り組んでいます。

―――イガンムタイガーFCの運営を始めた経緯を教えてください。

加藤 現在、私と共同オーナーを務めているのが、アバヨミ・エバエロという日本在住のナイジェリア人なんですが、最初にカンボジアのクラブを買収した時に、「ナイジェリアにクラブを作るので、カンボジアのクラブと提携させてくれないか」という提案を受けたんです。それを機にナイジェリアについて調べたところ、国、人材の両方で大きなポテンシャルを感じ、環境を整えて人材を磨いていけば世界でナンバーワンを目指せると思い、一緒に始めることになりました。

イガンムタイガーFC共同オーナーの加藤氏

―――ポテンシャルを感じたというナイジェリアはどんな国なのでしょうか。

加藤 人口は約2億人でアフリカ諸国の中で最も多く、GDP(国内総生産)もナンバーワンです。平均年齢は18歳で、人口は25年後には4億人、2100年には9億人に到達する可能性もあると言われていますので、今後の経済的な成長も期待できます。生活するうえで環境が整っていない部分はありますし、治安も決していいとは言えません。失業率も高く、ましてや我々の本拠地であるイガンムはゲットー(スラム街)なので、本当に貧しい人が多い。でも、みんな陽気なんです。サッカーについては、かつてジェイジェイ・オコチャやヌワンコ・カヌ、ティジャニ・ババンギダなどのすごい選手がいたという記憶があると思いますが、国民的スポーツであり、競技人口も多いですね。貧困から這い上がるためにサッカーをやるという感じで、ポテンシャルはかなり高いと思っています。

―――国内のサッカー事情はいかがでしょうか。

加藤 1部と2部がプロリーグ、3部以下がセミプロのような形です。ただ、リーグがしかるべき時期に開催されないこともあり、イガンムタイガーFCが6部から5部、5部から4部に昇格した時も、リーグへの参加費を納入できないクラブが多かったためにシーズンが開催されなかったんです。経営体制もビジョンもしっかりしているうちのクラブが推薦を受けて昇格しました。1部や2部のクラブでも給料の未払いや汚職がありますし、リーグとしてのマネジメントも不安定です。先日も「今週末リーグ戦ね」といきなり言われるなど、日本人の普通の感覚だとストレスが溜まって難しい部分もあります。選手の身体能力は非常に高いです。みんなが速くて強いので比較として分かりづらいが、身体能力の平均レベルはすごく高いですね。

―――イガンムタイガーFCについて紹介してください。

加藤 スローガンの「メッシ超え、バルサ超え」の前段階として、アフリカでナンバーワンになることを目標に掲げています。例えば、バロンドールを獲得するようなスター選手を我々のクラブから輩出することで、ナイジェリアだけではなくアフリカ全体に夢や希望、勇気を提供できるような機会をつくり出すことをテーマにしています。今はナイジェリア3部に所属していますが、2部からはプロリーグになるので、より運営費がかかり、現状の規模ではクラブを維持できなくなるので、収益基盤の確保を進めており、達成できれば本格的に2部、1部を目指していく予定です。

 最近のトピックで言うと、2019年に大阪で開催された「U-12ジュニアサッカー ワールドチャレンジ」という大会に、下部組織の選手たちがナイジェリア選抜として出場し、優勝しました。初出場でしたし、24時間の空路移動を経て時差ボケもあるというハードなチャレンジでしたが、ポテンシャルを感じることができました。今年15歳になるその世代が、U-17ナイジェリア代表の最終選考に4、5人残っています。また、5月からは15歳の選手が2名、京都府の福知山成美高校にサッカー留学しています。トップレベルでは、北マケドニアのクラブに移籍したサンデー・アデツジという選手が、2021-22シーズンの国内リーグで得点王に輝きました。現在、複数のヨーロッパのクラブから移籍金150万~200万ユーロ程度のオファーが来ていて、移籍が決まるとうちにも30パーセントが入る契約になっています。

大阪の大会で優勝し、ナイジェリアに帰って報告会を実施。中央左には加藤氏の姿も

―――新たな事業として『イガンムトークン』を発行した理由を教えてください。

加藤 すでに支援してくださる方はいらっしゃいますし、クラブがもっと大きくなれば、その時に必要な金額を支援してくれるスポンサーの方も現れると思いますが、初期の頃から可能性を信じて支援してくださっている方を大切にしたいと考えています。支援いただく形として、トークンを購入することで夢を応援することができ、その夢が実現したら自分たちも経済的なインセンティブが得られるものとして、このサービスがあります。気持ちだけの応援ではなく、一緒に夢を目指せるものであり、コミュニティが広がるほど夢が実現する可能性が高まっていきます。そういった部分に魅力を感じたことが大きなポイントですね。

―――獲得した資金の使途についてはどのように考えているのでしょうか。

加藤 クラブの運営費用と事業拡大の両方に活用していく予定です。例えばイタリアに遠征する際の費用や、グラウンドの整備資金にも充てる予定です。事業については、資金さえ投入すれば収益が生まれるモデルがすでにできているので、そこに活用したいと考えています。獲得資金をすべてチーム強化に費やすと、たとえ2部、1部に昇格できたとしても資金が続かない状況に陥ってしまうでしょう。今はクラブの基盤を強固にしなければいけない時期なので、収益を生み出せるモデルに資金を投入して成長させ、その収益だけでクラブを運営できるような形にしていきたいと考えています。

イタリア遠征のセレクション実施時

―――物理的にも心理的にも距離のある日本人をどう巻き込むのか、という難しさもあると思います。

加藤 例えばイガンムタイガーFCが15年後に世界ナンバーワンのクラブになったら、トークンの価値も高騰する可能性があります。そういったインセンティブを全面に押し出すわけではないですが、『一緒に夢を見ていきましょう』ということがまず一つ。そして、アフリカは「最後の市場」と呼ばれていて、ビジネスチャンスが多い場所なので、アフリカのビジネスを知りたいという方にはその部分もアピールしていきたいと考えています。また、サッカーファンの方々には、「自分たちが応援したからあの選手がヨーロッパに移籍できた」とか、「応援したからトライアウトが開催でき、そこで見いだされた選手がスターに成長するきっかけになった」など、選手の育成や発掘に間接的に関わっていける部分をアピールしたいと思っています。

―――イガンムトークンを活用した今後の展開について教えてください。

加藤 サッカー面で言うと、選手の発掘や育っていく風景を共有することに活用していきたいと思っています。事業の面では、ゲームをしながらお金を稼げるNFTゲームというものがあり、イガンムトークンで得た資金でNFTを購入し、仕事がなくて困っている方々にそのゲームをしてもらい、そこで稼いだお金をクラブと彼らで分配する、というモデルを進めて、雇用を生み出しながらクラブの収益にもつなげていきたいと考えています。また、多くの日本の方にとってナイジェリアは未知の国だと思いますので、現地の画像や日々の出来事などを発信し、ナイジェリアへの理解や共感を深めていくということもやっていきたいと考えています。

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