名古屋で存在感を放つ闘莉王[写真]=Getty Images
文/元川悦子
増川隆洋(神戸)、田中隼磨(松本山雅)、阿部翔平(甲府)という経験豊富なベテラン選手たちが去り、三菱養和出身の20歳の田鍋陵太、福岡大学から特別指定で加わった21歳の大武峻、阪南大学卒・2年目の本多勇喜という若い3人が最終ラインに入っている今季の名古屋グランパス。3月1日の開幕・清水エスパルス戦では大量3失点黒星といきなり苦いスタートを余儀なくされた。8日の第2節・大宮アルディージャ戦は辛くも勝利を収めたものの、守備の安定には遠かった。
そんな彼らにとって、15日の第3節、柏レイソル戦は非常に難易度が高いと思われた。レアンドロとレアンドロ・ドミンゲスという強力ブラジル人アタッカーと昨季19得点の日本代表FW工藤壮人が陣取る柏の前線はJ1屈指。昨季2ケタ得点の田中順也も侮れない。
しかし、その豪華攻撃陣を向こうに回し、堂々と対峙したのが、今季から名古屋のキャプテンマークを巻く田中マルクス闘莉王だ。強烈なリーダーシップとカリスマ性を持つ闘莉王は試合開始早々から大声を張り上げ、身振り手振りで守備陣を統率する。その激しいプレースタイルが乗り移ったかのように、若いDF陣も体を張って相手を跳ね返し、ボールを奪う。ケネディのゴールでリードした後の強固な守備ブロックは見る者をうならせた。
90分間通した粘り強い守りを見せ、名古屋は1-0で見事に無失点勝利。連勝で順位も6位まで上げた。
「今のチームは若い選手ばっかり入ってるから、進歩していくしかない。今回はゼロで抑えたし、ジョシュア(ケネディ)も点を取ってくれたし、ピンチも2回3回くらいだった。どこにもあるようなミスはまだあるけど、それをちょっとずつ直していけばいいしね。みんなホントにお互いをよくしたい、自分のレベルを上げていこうという気持ちが強いし、俺から見てても『頑張れば何とかなるんじゃないか』っていう思いを強く感じる。そうやってうまくなろう、強くなろうっていう向上心が俺らの強み。みんなよく(自分の話を)聞いてくれてるし、声出してやっていくことが必要だと思います」と闘莉王は現状を前向きに捉えていた。
若手たちが思い切ってプレーできるのも、闘莉王という傑出した存在が陣取っているから。とりわけセンターバックのコンビを組む大武は大きな刺激を受けているようだ。
「3試合こなしてトゥーさんのリズムにだいぶ合わせられるようになってきてる。自分から『ラインを上げろ』って指示を出せるようにもなってきた。ただ、トゥーさんが前にチャレンジする分、自分がカバーリングに入ることが大事になるけど、そのポジショニングの精度がまだまだ足りない。今日も(工藤選手に)1本裏に抜け出された場面があったけど、そういう場面を1度も作らないようにするのが今後の課題だと思います」と188㎝の大型DFは意慾的にコメントしていた。
大武が闘莉王から学んでいるのは守備面だけではない。「トゥーさんのフィードのうまさはすごく参考になります。以前の自分はやみくもにタテパスを出していたけど、出す先をしっかり見て、受けた後にプレーしやすいボールを意識するようになった」。確かにこの試合でも、闘莉王が積極的にボールを持ち上がり、玉田圭司や枝村匠馬の飛び出しに合わせて鋭いボールを送る場面が何度か見られた。これは今季の名古屋の大きな武器といっていい。
これだけ頭抜けた影響力と存在感があるからこそ、バランス感覚を重視する日本代表のザッケローニ監督は闘莉王招集に二の足を踏んでいるのだろう。しかしながら、「守備の脆さ」という頭の痛い問題を抱える今のザックジャパンが、2014年ブラジルワールドカップ本番を本気で勝ちに行こうと思うなら、多少のリスクを冒しても闘莉王を呼ぶべきなのではないか。柏戦でレアンドロとレアンドロ・ドミンゲス、そして工藤を完封する雄姿を目の当たりにして、多くの人々がそう考えさせられたに違いない。
闘莉王にとって最後のチャンスは4月7〜9日に実施予定の国内合宿。ここに呼ばれなれば母国でのワールドカップ参戦は幻と消える。夢を現実にするためにも、闘莉王は自らを奮い立たせ、名古屋の若手たちを鼓舞し続けていく。
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