11月3日、文化の日。晴天となったこの日の夕刻から、J1第31節「横浜F・マリノス vs 浦和レッズ」が日産スタジアムにて開催された。
首位を走る浦和に対して、横浜FMは18チーム中10位と低迷中。そんな試合の内容は「(横浜FMにとって)消化試合なので、もっと攻撃的に来るものと思っていた」とミハイロ・ペトロヴィッチ監督が皮肉った通り。「存在感を示そう」という樋口靖洋監督の指揮下、横浜FMがしっかりと守備を固めて首位狩りを狙う、タフなゲームとなった。
軸になったのはこれまで主にセンターバックとして使われてきたファビオのボランチ起用だ。その特長を簡単に表せば、「守備範囲の広さにある」(樋口監督)。特別なテクニックがあるわけではないが、長身で運動能力の高い選手だけに、ディフェンスライン手前の広範なエリアを守ることに関して抜きん出た存在感を示し、ボールを奪うこととルーズボールを拾うことの2点で特に大きなメリットを横浜FMにもたらした。その存在感は指揮官がファビオについて「素晴らしい発見です」と絶賛した通り。浦和が得意とする中央から複数人が絡む崩しを機能不全に陥れ、「“ザ・浦和”という崩し方はやらせなかった」と樋口監督が胸を張った通りの守備の出来映えだった。
強がることの多いペトロヴィッチ監督も「今日はいつものような美しいサッカーではなかった」と認めたほどで、実際に浦和側から試合を観ればひたすらフラストレーションのたまる展開だったに違いない。だが、「選手には“3”を獲るのが大事なんだと伝えた」とも言う。つまり勝者に与えられる勝ち点3である。
試合前の時点で2位・ガンバ大阪との勝ち点差は『2』。1勝と1敗で逆転する僅差だった。しかも浦和はリーグ戦で3試合勝利なし。「記事を読めば、浦和とのガンバとの差が8ポイント差になった、5ポイント差になった、3ポイント差だ、2ポイント差になった。そんな言葉が出てきていて気持ちのいいものではなかった」(ペトロヴィッチ監督)。首位を走って「追われる者」としての心理的プレッシャーがのし掛かる状況で迎えた横浜FM戦である。スタイルにこだわってきた指揮官が「これまでは美しく崩してというサッカーをしても、カウンターで負けてしまうことがあった」「泥くさくてもいい」という言葉を漏らしたのは、象徴的だったかもしれない。
「“自分たちの良さ”を出すのはすごく大事ですよ。でもここからは、我慢するところで我慢すること、泥くさくても勝っていくことが大事になってくる」
33歳になったMF阿部勇樹は、そんな言葉でチームの空気感を説明してくれた。「自分たちのサッカー」が消される試合展開の中、指揮官は我慢と自重の末に、時計の針が残り15分を指した76分からMF関根貴大を投入して勝負に出た。ギアを変えて前に出た阿部のシュートがこぼれたところを関根が決めた79分の決勝点は、まさに我慢が生んだ少し泥くさいゴールだった。
横浜FMに反撃の手はなく、試合はそのまま1-0で終了。これで浦和とG大阪の差は『5』に広がった。次節(11月22日)の直接対決で浦和が勝つようなら、2014年のJ1リーグは早くもフィナーレを迎えることになる。
文=川端暁彦